第49話  古代史の闇を知る猫


「深い闇、それは何なんですか?」

「わからない、でもあれだけの才能を持ち、弱者に対して深い愛情を持っているマヤが復讐に燃えるには何か深い訳があると思うんだ。」

「花田さんは、それを見極めようとしてマヤとの対決を引き受けられたのですか?」


「そうだ、私はこのままでは日本の神道が腐食していくと思うんだよ。幸いにも私はマヤを止められる力を与えられていることが証明された。だからまず笠村を倒し、そしてマヤを阻止し、できれば捕らえて帰って来たい。もちろん命の危険にさらされたら、太刀でマヤを斬るだろう。私がとんでもない異世界へ堕ちてしまうのだけは避けなければ、センターにもこの世にも責任が取れないよね。


 マヤが堕ちる世界はおそらく地獄のようなところだろう。だからね、私はマヤを救ってやりたい。私が対決した時、彼女は淫らな言葉でセンターの職員を挑発してきた。でもね、いくらああやって自分を汚く見せびらかしても、私には彼女の純粋な心が見えていた。それはきっと今までここでトレーニングを受けたおかげだと思う。彼女の目を見たとき、本当に澄んだ美しい輝きを一瞬感じたんだよ。」


「マヤの魔性はそんなところにあるとは思いませんか?」

「うん、いい質問だね。確かにマヤはそうやって男女を問わず惹きつけてきたのだろう。しかしね、それはリサにも言えることじゃないか。彼女が持っているのは、決して優しい一面だけではないだろう。


 私や君にはあんなに満面の笑顔で接しているけれど、鉄棒と刀だけで武装した鬼たちを何百匹もマシンガンで殺し、おまけにミサイルまで撃ち込んだんだ。あんな恐ろしい動画を私は初めて見たよ。リサに出会う時、私はとても身構えていた。そしてあの笑顔の裏にある冷酷さをうすうす感じ取っていたんだ。」


  浅見はなおも何か言い返そうとしていたけれども、私は会話をそこで打ち切った。また機会があれば、もっと君と話したいと言って、私は桜の木の下を後にした。

 

それからも私に対する様々な研修が続いた。しかしひとつの大きな変更点があった。それは魔女と戦うための武器と戦術を受け取るため、徳川家康公と最初に面会すると言う予定変更だった。


 聖徳太子との面会が後になったのには理由があった。それは太子との面会が、次の戦いにおけるバックグラウンドとなる事実を含んでいるというためだった。やはりこの魔女の乱が古代史に関わる大きな闇を後ろに背負っていることが判明しつつあった。所長や黒田が私に対してもう少し時間をかけたほうがいいと判断したためである。今その闇を知ることが、私の決意をどのように揺さぶるか確信が持てないことへの恐れから出たことだった。


 私は武道や教養科目の講義やトレーニングを受けながら、歴史上の偉大な二人との面会を待った。


 ある日の朝、高木が予定の変更を正式に伝えるため、私の部屋へやってきた。高木の腕には1匹の丸々と太った虎猫が抱えられていた。


「さぁ、こちらが花田さんだよ。」と高木は猫に話しかけた。

「また猫か… 」と私は心の中でつぶやいた。それはシュレネコに続いて何か新しいことが始まる期待があってのことだった。


「花田殿、お初にお目に掛かり光栄じゃ。」と猫はしわがれ声で言った。

「こちらこそ、花田です。」私は手短に返した。


 かつてシュレネコはもう1匹の猫を決して信じるなと言っていた。それがこの猫なのか。名前は確か…


「わしが七百猫しちももねこじゃ。」

「やはりそうか」と私は心の中でつぶやき返した。


つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る