第48話 渦巻く謎


 この訪問の間、リサの話しぶりから私は彼女とマヤそして浅見の3人について特別な関係がある思いを強くした。帰りの車の中で、浅見はじっと前を見て後部座席の私に話しかけようとはしなかった。そのことで私はますます謎が深まった思いがした。


 センターに着いた時、浅見は私に話が少ししたいと言った。私は高木に許可を得て、センターから離れたところに立っている桜の木の下へ彼女を連れて行った。

 

「私見たんです。リサ様とマヤがキスしているところを。」

私は驚いた。

「それはいつのことなの?」

「花田さんがここへ来られるずっと前のことです。マヤが神様になる最終試験に合格して、リサ様に報告に行った時のことです。彼女はリサ様にメールを送って、わざわざ彼女が休日出勤している日を選んだのです。私は何かあると勘付いて、同行させてほしいと言ったんです。マヤは快諾しました。


 そしてリサ様の執務室に到着した時、マヤは少しだけ閻魔王様とふたりだけで話がしたいと言った。私は少し外の空気を吸いに行ったんです。リサ様もマヤも他に職員が誰もいない時を狙った。もちろんリサ様は監視カメラをオフにする権限があった。そして油断していたふたりはドアを開けっ放しにしておいたのです。


 私は外の自販機でミネラルウォーターを買い、執務室へと歩いて行った。そしてドアの隙間から目撃したんです。ふたりが強く抱擁してディープキスしているところを。もうショックのあまり私、しばらく眠れなかった。


 尊敬するリサ様が、魔術を操る怪しいマヤと性的に結ばれているなんて。そしてマヤがあんな風に転落していって、そしてリサ様は今でもマヤを愛している。今日も彼女が泣いているのを見て、私、私、本当に嫌になって、なんであんな汚らわしい女と、あんな性欲の塊みたいな悪魔と、高潔なリサ様が…、」


「あのね、浅見さん」

私は嫌われるのも承知で勇気を出して、浅見を諭すように言った。


「私が見るところ、あのふたりは一対の関係、例えると陰と陽、お互いに惹かれるような関係だと思うよ。」

「なんですって、花田さんまでそんなことを… 」

「よく聞きなさい。片方は大学院まで出たバリバリのエリートで知的だが、それは人並みならない努力と鍛錬のなせる技、もう片方は学歴はたいしたことないが、生まれながらに持った特殊な能力で何でもできる。そしてふたりとも男女を問わずに性愛関係を持てる。きっと性に関する欲望も人並み外れて強いはずだ。


 そして君は信じられないと思うが、どちらも残酷で非情な一面と、同時に天使のような優しさを兼ね備えている。」


「実は、それは知っています。マヤはセンターのAIビリーにとても信頼されていた。彼女だけがあのアンドロイドを人として扱っていたことは私も高木さんから聞いていました。」


「マヤは前世でその人並外れた才能と性欲のために地獄を見たんだよ。それでこの世に来て、神様になって気がついたんだ。自分を地獄に落としたあの世に復讐できるとね。それで笠村和泉守の怨霊にそそのかされて神社を乗っ取り、人間界に復讐をたくらんだんだよ。その結果、山や神社は荒れ、人々は恐怖で立ち入れないようになった。


 そして、次々に神社を乗っ取って、あの山岳一帯を恐怖に陥れようとしている。しかし私はね、何かこの裏にはもっと深い闇が広がっているような気がするんだよ。何かとてつもない深い因縁がね。」


つづく

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