第45話  アーサー王とエクスカリバー, そして・・・



 刀の柄には真鍮で大きく十字架が刻まれ、刀の全身に神々しい輝きが満ちていた。

 

「あの青赤鬼の乱が起きた時もこの刀が私を守ってくれました。もちろん王庁の皆にも助けられましたけど。」


 リサはそう言うと、再び恭しく刀を鞘に収め、後ろのキャビネットにしまった。彼女は話し続けた。


「この刀は6世紀のイングランドで、キリスト教寺院の庭に置かれていた大きな岩に突き刺さっていたのです。寺院の言い伝えでは、刀を岩から抜きとった者はイングランドを統一し王となるということでした。


 イングランドはもともとローマ帝国の支配下にあったのですが、5世紀に西ローマ帝国が崩壊し、内乱状態にありました。ローマ帝国に従っていたケルト族は、ゲルマン民族の1種族であるサクソン人に侵入され、そして野蛮な統治を受けることになったのです。


 ケルト族の中で幼い頃より英知で知られた少年が、ある日寺院を訪れました。そしてそこにいた司祭にこう告げたのです。


 「司祭様、キリスト教に改宗しない野蛮なサクソン人からこの寺院とこの国を守るため、私に試練をお与えください。」


 そう言うと、少年は岩に向かい神に祈りを捧げ、その刀を一気に岩から引き抜いたのです。司祭は驚きました。


 「おお、そなたこそ、このイングランドを統一する王になるであろう。さあ、この剣を手に取って聖なる使命を果たすためにお行きなさい。」と。


 そしてこの剣こそイングランド統一の要となったエクスカリバーです。彼のもとには多くの勇敢な騎士が命を懸けて集まりました。その中でも勇敢だったのが後に「円卓の騎士」と呼ばれる勇者たちです。彼らは一致団結して、サクソン人をイングランドから駆逐し、王朝を樹立します。


 しかしその後もサクソン人の残党との戦いに明け暮れ、ある日どうしたことか、剣は戦いの中真っ二つに折れてしまったのです。アーサー王は折れた剣を手に取り神に祈りを捧げると、聖なる妖精が住むと言われるアヴァロンの湖にそれを投げ入れたのです。すると、妖精は神剣を元の姿にして返しました。


 アーサー王はこの出来事をイングランド統一のために彼に与えられた試練だと考えました。そして自分の使命に向かい続けることを決意し直したのです。強い信念に支えられて、彼はついにイングランドを平定することができました。


 しかし、ある時最も信頼していた円卓の騎士のひとりランスロットと王の妻ギネヴィアが不倫関係に陥ってしまったのです。円卓の騎士は、アーサー王側と騎士たちに信任の厚かったランスロット側に分かれて再び戦さとなりました。さらに、アーサー王が戦いのため城を留守にしていた時、円卓の騎士のひとり、モルドレッドが勝手に議会を招集し、王に即位してしまったのです。


 モルドレッドとの最終戦で、アーサー王は一騎打ちをします。モルドレッドはアーサー王の槍で刺殺されますが、彼自身も深傷を負うのです。彼は伝説の湖アヴァロンに出向き聖剣エクスカリバーを湖に投げ入れます。それはもう戦うことはできない体になった自分の運命を湖に住む女神に問うためでした。


 すると、女神の手が湖水から出てきてエクスカリバーを受け取り、再び水中に沈んでいきました。王が途方に暮れていると、小さな一艘の小船が岸へ近づいてきます。その中に乗っている妖精たちは王に対して、島で静かに余生を送ることを促しました。ついにアーサー王は妖精たちに従い船に乗り島へ行ったまま帰ってきませんでした。


 そしてこの聖剣はずっと湖の女神とともに水中の奥深く眠っていたのです。しかし今世紀になり、イギリス王室は魔法省に国を守護するエクスカリバーのありかを訪ねます。そして魔法省の使節はアヴァロンの女神に面会し、聖剣を秘宝として魔法省の奥深くにある宝物庫に保管することに合意したのです。


 しかし、ある時、宝物庫の番人が剣の前を通りかかった時、女神が光輝いて現れるのを見たのです。女神はこう言いました。


 「英国を守護するためには、他国との強い信頼関係が必要です。その剣を最も信頼できる友好国の王に進呈し、わが国の安定を図るのです。」と。


 魔法省はさまざまに議論を重ねた末、特定の国ではなく、東洋の宗教における死後の世界を司るこの閻魔王庁と私に贈呈することを決定したのです。それはもちろん、閻魔王庁の危機を知ってのことでした。


 アーサー王が妖精マーリンと神の守護のもと、この剣を振るってイングランドを統一したように、再びこの剣を手に取って、青赤鬼の乱を平定せよとのイギリス魔法省からの要請だったのです。それで私は一命を懸けて鬼たちを討ち取り、平和を得ました。


 私が今日花田さんをお呼びしたのは、あなたに魔女の乱を平定して欲しかったからです。あなたに私の動画を見ていただいたのも、私の依頼により、こちらの浅見美香さんから所長にお願いしたからです。そして、このエクスカリバーのお話をしたのも、あなたに何らかの啓示を与えたかったからなのです。


 あなたがセンターでマヤの魔法を破ったことに、私は少年アーサーが剣を岩から引き抜いたのと同じ啓示を感じたのです。私にエクスカリバーが与えられたように、あなたにはあなたにふさわしい神剣がある、それで花田さんには、それを与えていただけるある神聖な方との面会を設定しています。それをこの場でお知らせします。」


つづく

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