第44話. 閻魔王庁内部


「凄くないですか?」


と浅見が言った。


「以前は本当に古びた中国式建造物だったんですよ。」

「この中がまたオシャレでね。1階には吹き抜けの広いカフェもあるんですよ。私も時々家内を連れてここへ来るんですよ。」

と横山が言った。

「リサさんが本当に一新しちゃったからなあ、何もかも。」

と高木が噛み締めるように言った。


 私たちは巨大な駐車場に車を停めると、正面の回転ドアから入っていった。


「回転ドアなんて、もうほんと西洋かぶれなんだから、閻魔様の役所とは思えんでしょう。」


と高木が笑いながら言った。高木が携帯で私たちの到着を告げると、すぐに事務職らしいダークスーツ姿の男たちが二人、小走りにやってきた。


「さぁ、こちらへどうぞ。まず4階までエレベーターで上がって、中央の部屋が閻魔王様の執務室です。」


とひとりが言った。

 私たちは吹き抜けになった扇形の建物の真ん中に設置された周囲が見渡せるエレベーターに乗り、4階で降りた。そして二人の事務職員に促されて廊下を進み、執務室のドアをノックした。


 ダークスーツに身を包んだリサはいつもの晴れやかな笑顔で迎えてくれた。果たしてあの世の人間が見たら、これが閻魔大王だと思うだろうか。ポニーテールに長身、彫りの深い笑顔の似合う女性キャリアウーマン。そして背後には太陽が注ぎ込む大きなガラス窓とベージュのカーテンがしつらえられた執務室。


 「お座り下さい。」


 中央の4人掛けソファーと大きなテーブルに彼女は私たちを誘導した。

「浅見さん、閻魔王庁は久しぶりよね。」

「ええ、そうですね。このテーブルもソファーも新しくなりましたね。」

「素敵でしょ、これは私の知り合いで良い職人に特注で作ってもらったのよ。」

「そうなんですね。いつも閻魔王様ってスタイリッシュで…」

「あはは、お世辞はいいのよ。さあ今日は花田さんにお話があってお呼びしたんです。それと後で閻魔王庁法廷を見学していただくことにするわ。」


 そう言うと、彼女は執務机の後ろに設置された背の高い木製のクローゼットを開けて長細い箱を取り出してきた。箱中央上部には、ライオンとユニコーンが描かれた英国国章があしらわれている。閻魔王は恭しくそれを両手でおしいただいてテーブルにゆっくりと置いた。


 そして箱を開けてシルクの包みを解いた。そこには普通の日本刀より長い1メートル以上もあろうかと思える太刀がおさまっていた。閻魔王は刀の鞘を払うとそれは諸刃の剣だった。


「アーサー王の神剣、エクスカリバーです。」


と、リサは厳かに言った。



つづく



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