第39話. センターの黒歴史



 私はリサに語り始めた。研修が始まり魔女が現れて、センターの職員を愚弄し始めたことを。そして浅見が画面を消そうとしたこと。それができずに、私が前に出て、空手の先生から教えられたように下腹に力を込めて、両手を突き出しパワーを発生させようとしたこと。すると驚くような閃光が発生し、スクリーンを焼き切ったこと。


 閻魔王は時々うなずきながらメモをとって真剣に話を聞いていた。


「よく分かりました。で、花田さんはそれだけのパワーを使われて、今の体調はいかがですか?」

「一時期動転してセンターの療養所で点滴治療を受けていましたが、今はもう大丈夫です。」


「それはよかったわ、心配していたの。あなたはとても優秀な神様候補ということをお聞きしていたので。それと当代随一のミシュラン三つ星シェフね。いちど閻魔王庁のキッチンに立っていただきたいわ。 私フレンチ大好きなの、もちろんワインもね。あはははは、失礼。」


 彼女は快活に笑った。


 「いいですよ。そのかわり肉も魚もとびきり上等なものを用意しておいてくださいね。もちろん、ワインもね。」

「イヤだ、閻魔大王が脅迫されているわ。あはははは。」


 私たちはなごやかな雰囲気の中、魔女の話になった。

 

「笠村和泉守の怨霊が取り憑いている神社ですね。そこに配属になったのが藤崎マヤです。彼女の事はご存知? グラビアを一世風靡し、タレントとしても歯に衣着せぬ発言で人気が出ていたわ。その後暫くして、彼女は東京で半グレグループのリーダーと付き合うようになり、そこから転落していった、ドラッグとセックスに溺れてね。」


「私も途中で気が付きました。彼女のことはテレビで以前見ていましたよ。深夜に仕事が終わって家でバラエティを見ていると、お笑い芸人を相手にセクシーなジョークで盛り上がっていましたからね。でもそれって30年前じゃないでしょ、つい最近のことですよね。」

「30年前ってそれ何をおっしゃってるの? 3、 4年くらいしか経っていないですよね。」

「あの…」と浅見が割って入った。



 浅見は所長の方を見てきっぱりと言った。


 「所長、もう私たちのことを包み隠さず、花田さんにお話ししては?」

「そう、そうか、そうですね。」


 所長は閻魔王の方を見て許可を求めた。


「実は、花田さんにセンターの歴史をお話しする際に…。」

「わかったわ、もう正直にお話しなさい。あなたにもセンターの人にも、神様候補の人にあの話はするなと言ったのは私なんだけど、こういう状況では仕方がないでしょう。


『青赤鬼の乱』のことですね。私はこれで失礼しますから、例の記録動画を花田さんに見せて一切合切クリーンになさったらいかがでしょう。花田さんにあの忌まわしい事件のことを知っていただくのも今後役に立つかもしれませんしね。」


私と閻魔王は再び固い握手を交わして別れを告げた。


「では、大会議室に戻って青赤鬼の乱についてご説明申し上げましょう。すべてはあの恐ろしい事件から始まったのです。」


所長は覚悟を新たにしたように言った。


つづく








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