第38話 閻魔王、ブレディ・リサ
寺院の地獄絵図や学校の参考図書で見た閻魔王は、中国風の衣装を着て冠を被り、鬼の形相で裁きの机についている髭面の男性であった。
「あの人が閻魔大王なのですか?」
「そうですよ、知らなかったですか?」
「え?だって閻魔王といえば、男性なのでは…、」
私たちはセンターの入り口に向かいながら、話を続けた。
「最後の男性閻魔王は30年前に交替されて、今の女性が就任されたのです。史上初の女性閻魔王様なのですよ。」
と浅見は言った。私はあっけにとられていた。しかしこの世に来たことでまた新たな発見があったことに気づかされた。
「今から30年前まで、鬼たちが散々閻魔王庁を腐敗させていたのです。それで職員たちが決議をして、今の方を閻魔王に推挙したのです。
彼女は前世、ニューヨークの投資会社に勤めるバリバリのエリートだったのです。お父さんがアメリカ人、お母さんが日本人の家庭に生まれました。東部の有名大学を首席で卒業され、その容姿からファッションモデルや女優としても一時期活躍されていたんですよ。
そして、ピアノにバイオリン、フィギュアスケートもなさって、あ、まるで花田さんみたいに多才な方なんですよ。それでこちらの世界にこられた時、閻魔王庁からスカウトされ、職員になられました。
当然のようにみるみる頭角をあらわされて、ついに閻魔王様になられたのです。お名前をブレディ・リサ様といいます。カッコいいでしょ、私、リサ様の大ファンなんですよ。」
浅見は私にスマホでファッションサイトの動画を見せてくれた。真っ赤なビキニを着て海岸で片膝を立てて座り、こちらに微笑みかける水着モデル。それは先ほど見た精悍な彼女とまた一味異なっていた。
「リサ様はあんなにバリッとされているけれど、こんなに柔らかい一面も持っておられるんですよ。アメリカでも男女問わず大人気だったみたいです。」
浅見の話を聞きながら、私たちはいつもの大会議室に入っていった。前方に所長、副所長、黒田、高木が緊張した面持ちで直立していた。その正面にリサは左手を腰につけ、右足をやや前に出してリラックスした姿勢で立っていた。
私が進み出ると、彼女は満面の笑顔で手を伸ばしてきた。私たちは固い握手をした。
「お会いできて光栄です。閻魔王庁代表、ブレディ・リサです。」
「こちらこそ、花田耕平と申します。」
浅見が言ったとおりとても気さくな一面が見られて、私は少しほっとした。
「浅見さん、また、私のモデル時代に撮った水着の動画を彼に見せたんじゃない?ハズいからやめてね。」
彼女は笑いながら浅見を見た。
「え、分りました?」
「やっぱそうか、イヤだわ。」
二人が笑い合っているのを見て私はリラックスしていった。
そうか、と私は思い直した。彼女は私を緊張から解くために演技をしているんだ。なんと頭の良い方なんだろう。そりゃ普通、閻魔大王が面会に来たと言われたら誰でも恐おののくはずだ。緊張を解かれて、私は彼女に心を開いていた。
「あの、いいですか?」
と所長が、恐る恐る私に言った。
「花田さん、午後あった出来事だけでいいので、大王様にご説明していただけますか?」
「所長さん、ちょっとリラックスなさって。私は何もセンターや花田さんに対して不愉快に思っていません。それどころか、花田さんの能力に驚いているの。さっき、イギリス魔法省とスカイポッドのチャットでやりとりしていて、向こうもとても驚いているのよ。」
「それはちょっとほっとしました。」
所長は深呼吸をして心を落ち着かせたようだった。
つづく
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