第36話 魔女テロ(3) GREAT IMPACT


 私はとりあえず、ずぶ濡れになった衣冠束帯を高木が用意してくれたダークスーツに着替えた。大会議室は消火を終えていたが、前方はまだ噴煙が立ち昇り、悪臭に満ちていた。


 とりあえず2階の巨大データセンターへ高木と共に避難した。しばらくするとノックする音が聞こえ、私はドアを開けた。ひとりはアジア系、もうひとりは白人の男が立っていた。白人男性が私に英語で話しかけてきた。私はパリでシェフをしていた時、英語も学習していたので、フランス語同様、英語も話せるようになっていた。彼はボイスレコーダーを片手に話しかけた。


「英国マジックポスト誌のウィル・サンダースです。私の担当は魔法関係の国際的事件ですが、本日のあなたが行使された魔法についてお伺いしたいのですが、よろしいですか?」


 1時間もたたないうちに、この事件が全世界を駆け巡っていることに私は正直驚いた。前世と変わらぬ、いや前世よりも進んでいるとも言えるネット環境の中、あり得ることだと私は思い直した。


私は英語で答えた。


「サンダース記者、お会いできて光栄ですね。本日このような事件を起こした花田耕平です。」

「いえいえ、事件だなんて、あなたの勇敢な行動と驚くべき魔法は、今やイギリス魔法省でも注目を集めつつあるのです。」

「あの先進的なイギリス魔法省が、ですか?」

「先進的?、あはは、ミスター花田、ここの図書館で魔法のことも勉強されたみたいですね。」


「いえ、少しですが、ここに飼われている猫が…、」

「ああ、シュレネコね、彼の噂は聞いていますよ。ヨーロッパでは有名な猫ですからね。あ、ところであなたが使われた魔法なんですが…、」


「いや魔法というつもりで行使したものではなくて、単にお腹の底に力を入れてパワーを貯め、両手を伸ばし、何とか魔女を画面から消したいと強く念じた瞬間、結果的に・・・・・。」

「わが国の由緒ある魔法学校でも在学して上級魔法を学ばない限り、そんな能力を身に付けることはできないはずなんですがね… 」


 そのようなやりとりをしていた時だった。後から今度はアジア系らしい男が日本語で話しかけてきた。


「おはようございます。ちょっといいですか?」

 彼もボイスレコーダーを突き出し、空いた左手で私に名刺を差し出した。


「週刊極楽タイムズの記者、江隅信太郎です。本日はお疲れのところ、申し訳ありません。この事件について… 」


 私はお疲れのところという彼の言葉を聞いた瞬間、自分がかなり疲労しているということを自覚し、呼吸が荒くなって体の力が抜けていくのを実感した。またドアが強引に開けられ、数人の記者らしい男女が入ってこようとしているのに気がついた。


 高木が入り口に立って両手で制止している。それをぼんやり見ているうちに、私は目の前が霞み、全身の力が抜けていくのを感じた。そしてフェルト地の床にうつぶせで倒れ込んでいった。


つづく














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