第32話 (第一部最終回) 菅原道真ー「神様と怨霊のレッスン(4)」
しかしね、時平の死も清涼殿の落雷も決して私が怨恨で仕掛けたものではないのですよ。それはやはり人格神よりもっと上部におられる偉大な大自然の神々がなせる業だったのです。
私は「天神様」と言われておりますが、もともと今の北野天満宮のもとになったお社には、火雷天神という雷神様がおられるのです。その雷神様が天罰を下されたと解釈すればいいわけです。時平の死については、当時の平均寿命と医学や衛生状況を考えると、三十九歳で逝去するということは珍しいことではないのです。
よくいうではありませんか、何事もお天道様がお見通しだってね。私は国家の安泰と学問の隆盛を願うだけで、決して人々を陥れようとか復讐してやろうとか考えたことはないのですよ。遣唐大使の大任も右大臣の就任もミカドに固辞し続けた私なのですよ。
また、私が復讐心に燃える怒れる神だったとしたら無辜の受験生が毎年合格を祈願して私に祈り、絵馬を奉納し、可愛らしい子供たちが書道の上達を願って書を奉納するでしょうか。結局は信者の方々が一番神様をよく知っておられるのです。
花田さんも何処かの神社に神様として赴任されると聞いております。あなたは私のように怨霊を鎮めるために神格化される方ではない。まず、人々に支持され、尊敬を集めることこそ必要です。
それとね、人々が畏れるべきは怨霊なんかじゃなく、この大自然を司る大いなる精神なのです。ですから何か悩むことがあればまずお天道様の暖かさに触れ、風の声を聞き、樹々の囁きや鳥たちの囀りに耳を澄ませてみるのです。きっと自然の中にいらっしゃる神々があなたに最良の回答をくださるでしょう。
決して、怨霊などと名乗る輩にあなたの心を委ねてはいけない。そんな輩は幻影であり、真の神ではないのです。」
私は感動に震えながらこの歴史上の偉人の話に聴き入っていた。無実の罪を着せられて権力闘争の犠牲になったこの高潔な方は少しも怨念など持っておられない。それどころか常に国家の安寧を願い、受験生をはじめ人々が学問の成就を遂げることだけを願っておられる、これでこそ神様なのだ。
「何か私に聞きたいことはございますか?」
最後に道真公は静かに問われた。私は言った。
「今日私は改めて立派な神さまになろうと決意を新たにしました。このお出合いは決して終生忘れません。」
道真公は無言で微笑んでいた。
第一部 神様立志編 終
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第一部を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
第二部 激闘編 はいよいよ神様になるための厳しい試練が主人公に待ち受けています。
飛鳥時代から戦国の乱世まで、日本史の闇に迫る第二部を引き続きお楽しみくださいませ。
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