第30話 菅原道真ー「神様と怨霊のレッスン(2)」


 運転手の横山は「後で来ますから。」と言い残してセンターの方へ帰っていった。


「花田耕平、参上しました。」


と高木が言った。すると烏帽子狩衣に身を包んだ近習が御簾をあげて、四方にとばりを貼った御長台みちょうだいの方へ向かって声をかけた。


「花田耕平様がお越しになられました。」


「こちらへ上がられよ。」


とても澄んで穏やかな声が帳の中から聞こえた。私はいっそう緊張して、思わずゴクリとつばを飲み込んだ。


「よう来られましたなぁ。」


 帳の中央が開けられ、顎鬚を伸ばした高貴な風貌の人物が衣冠束帯を着て、置き畳の上に座っていた。帳の左右には、立派な狛犬が配されて、神を守護しているように思われた。私は離れて正座し、頭を畳につけた。


「足を崩されよ、それから頭を上げられよ。」


と穏やかな声が伝わってきた。私は畏れ多いと思いながらも足を崩し、頭を上げた。畳の上には穏やかな笑顔と涼しげな目元を湛えた人物が座っていた。


「私が菅原道真です。本日は私のことについていろいろとお話ししましょう。」


 私は横に高木がもういないことに気がついた。


「あの…」

「そなたの近習でしょう、高木さんといいましたかなぁ。ご安心ください。私の供のものと一緒に今、東の対の方から上がってそこで控えてもらっているから大丈夫ですよ。ささ、そんなに硬くならないで、私の顔は日本史の教科書に出ておるよりずっと端正であろう。


 よく存じていますよ、何せ私は今でも受験生の神様じゃ。受験生が使う日本史や世界史、英語や数学、物理や国語、参考書や問題集、教科書など全てに目を通しています。なかなか今の世でも大学受験というのは大変なものじゃのう。あはははは。」


 道真公は私が想像していたより、数倍気さくな神であった。私は緊張がだんだんほぐれ、その温かい笑顔に癒されつつあった。


 「本日はな、私がどのようにして神になったのかをお話しして、あなたが神様になられたときの参考にしてほしいのです。私の人生は波乱に富んでいて語るのも苦しいのですが、今となってはそなたのような人に聞いていただいて、今後直面される様々な課題解決に役立ててほしいのですよ。」


私は一つ一つうなずきながら懸命に聞いていた。


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第30話までお読みいただき、ありがとうございます。ご意見ご感想などいただけましたら幸いです。また、高評価の★マークや読者登録などいただけましたらありがたいです。これからもよろしくお願いいたします。  山谷灘尾

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