第28話 ビリーの告白


 私たちが歩き出すと、場面は元の道場に戻っていた。私たちは隅にある小部屋に入っていった。ここは以前あの沖縄空手の師匠、宮城恵尚に冷茶ををご馳走になったところだった。


「こちらへお座り下さい。」

ビリーは座布団を勧め、自分も座布団の上にどっかとあぐらをかいた。


「ビリー、ありがとう。1度目にしてはハードだったけれど、とても素晴らしいトレーニングだったよ。」

「花田さんも居合道や空手道を極められてますね。」


 私たちは冷蔵庫に入っていた冷茶を飲みながら見つめあった。私はビリーがどうしてもロボットだとは思えなかった。 


「花田さん、あなたが神さまになられても、ずっと花田さんと呼ばせてくれますか?」

「いいよ、ビリー。」

「花田さんは私を人間扱いしてくれる貴重な人だから。」

「え、どういうこと?」

「ふつうね、みんな私のことを、AIビリーって呼ぶんですよ。ここのセンターではそう呼ばれていますから。


 でもずっと花田さんはトレーニング中、私のことをビリーって呼んでくれた。

『ビリー、ちょっと待ってくれよ。』とか、

『ビリー、今のはきついなぁ』とかね。


 残念ながら今まで私をそうやってリスペクトしてくれた人はあなたともうひとりしかいない。」

「もうひとりって?」

「昔ここに研修に来ていた女性の神様候補ですよ。彼女は恐るべき霊能力と戦闘能力を持っていた。その時は男性の神様候補と彼女と私の3人で行うトレーニングでした。男性は前世では優秀な脳外科医として数々の難手術に成功し、全米でもニュースになっていたほどの方でした。


 でもね、彼は私を見下していた。私を名前で呼ばずAIと呼び、私の指導にことごとくケチをつけ、それをエージェント高木やエージェント黒田に言いつけたのです。


 そんなある日、私はトレーニングの方法について、また彼からクレームを受けたのです。


『AIのくせに偉そうにするな、俺の言う通りにしろ。』


と怒鳴られたのですよ。そんな時、女性の神様が助けてくれた。彼女は前世でとても辛い目に遭っていた。男に操られセックスに溺れ、薬物のOverdoseでこの世に来たのです。


『あなたのような人が神様になるべきじゃない!』


彼女は突然叫んでエージェント高木にその場で電話をかけ、道場に呼び出したのです。


『この人と一緒なら、私は神様なんかにはならない。私をこのプログラムから排除するか、彼を排除するか、どちらかにして。』


 彼女は高木さんの前で堂々と言った。そして、それまであった全ての私に対する屈辱と見下しを滔々と述べてね。



 脳外科医はずっとニヤニヤ笑いながら聞いていて、最後にこういったんだ。


『落ちぶれたAV女優の言うことなんか誰も聞かないぜ、なぁー、そうだろう。高木さん』ってね。



すると、彼女も言い返したんだ。


『へえ、私を落ちぶれたAV女優って知ってるなんて、あんたもあたしの動画でヌイてたんだろ、この偽善者の最低野郎!』


ってね。そして私の手をとってこう言った。


『こんな目にあわせちゃって、本当にごめんね。ビリー。ビリーはとっても良いトレーナーなのに、傷ついたでしょう。ごめんね、本当にごめんね。』って。


そして彼女は私をハグしてくれた、瞳にいっぱい涙をためてね。


 結局、脳外科医はこの研修センターから追放されて、元の世界に戻って生まれかわることになったんだ。でもね、彼女は神社に派遣されたのだけれど、結局彼女の方もダメになったんですよ。」


 私には思い当たる節があった。最初このセンターに来たときに研修で聞かされた神社に取り憑いた悪霊と魔女の話。しかしそれはこのセンターができる前のはず、何かどこかが食い違っている・・・・・。


 「あなたはとても優秀な神様なので、最終テストでレベルの高い課題解決を依頼されることになるでしょう。ひょっとすると彼女と戦うことになるかもしれない。でも何とかそれだけ起こって欲しくない。」

「彼女の名前は何というのか、知っているなら教えて欲しいんだけど、ビリー。」


「そうですか、決して口外しないで下さいね。あなたは信頼できる方だから教えますよ。彼女の名前は藤崎マヤ。神社を乗っ取り、悪霊とともに周辺地帯に支配を広げようとしている魔女として、彼女は今やこのセンターにおける最大最悪の課題となっているのです。」


「 藤崎マヤ。」


私は心の中でその名前を何度も繰り返していた。


つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る