第27話 AIビリー
「こちら、AIビリー。彼はAIを組み込んだアンドロイドなんですよ。」
と黒田は私に紹介した。
「アンドロイドって、スマホのOSじゃなくて?」
「ええ、知能を持った人型ロボットのことです。」
「なるほど、で、彼は?」
「これから武道場の方で、あなたの実戦トレーニングを助けてくれるロボットです。道場へ着いたら、ビリーの脳波でこちらがそれを検知できるので、先ほど平田が連絡してくれるように言いましたが、それは必要はありません。我々の方で検知し、そして実戦トレーニングを始めることにします。」
「実践トレーニングって、どんなことをするのですか?」
「あなたには神様になるための最終テストが用意されている。それは2回あって、1回目は少しハードなものとなります。すなわち何らか敵対する者との戦いをしていただくことになるのです。これは正式にお願いすることになりますが、今は詳しく言うことはできません。でもあなたは絶対それに耐えられる人だと判断したので、神様に推薦させていただいたのです。」
「そうなんですね。すると、実際に武術を使って誰かと戦うと。」
「そういうことになります。」
黒田はゆっくりかみしめるように言った。
「私たちが全力でサポートしますので、決して心配なさらないように。今回のビリーもあなたのレベルに合わせて実戦が可能な姿に、あなたを肉体的、精神的に徐々に改造していきますので。」
ビリーは私の顔を見ながら穏やかに言った。
「さあ行きましょうか、私に全てを任せてください。」
ビリーは人間の感情もわかるのか、私をリラックスさせようとした口調で話をしていることが理解できた。
「ビリーさん、お願いします。」
「先ほどごく小さなAIロボットを花田さんの脳に埋め込んだので、武道場にお着きになると、すぐに全く違う風景が目の前に現れるはずです。落ち着いて行動すれば大丈夫なので。バーチャルリアリティーの究極が体感できると思います。」と平田が言った。
「ありがとう、心配はしていないですよ。ここの研究室の皆さんの熱意と知識は十分に体感したので。」と私は言った。
私とビリーはエレベーターで1階に降り、武道場に着いた。いつものように青緑色のマットの上を踏みしめて更衣室に入り、道着に着替えた。ビリーはいつも道着らしく、私が着替えると道場の中央まで導いてくれた。
「さあ、行きますよ、花田さんって呼んでいいですか?」
「いいですよ。ビリーさん。」
「ビリーでいいですよ。」
彼はにっこり微笑むと身構えた。私の目の前が急に変わった。そこは広い畳敷の和室で、前に広い芝生があり、後方に大きな池が広がっていた。芝生には誰もいなくて、時折鳥たちが羽ばたいて着地していく。広大な日本庭園のようだった。
私の目の前に日本刀が置いてあった。
「刀を取って抜刀してください。」私は居合術で習ったように静かに抜刀した。
「さすが居合の型ができていますね。」とビリーは褒めた。
「私に構わず、どこからでもかかってきてください。私を斬ろうとなさって結構です。とにかく躊躇せず、私を殺してしまおうとしていいですから。」
私はビリーを信じていた。彼がそこまで言うからには、ここで切ってもビリーはきっと身を躱して、死なない。それにバーチャルな体験なので大丈夫なはずだ。
私は刀を抜いて振りかぶると、ビリーを袈裟懸けに斬ろうと接近し、思いっきり刀を振り下ろそうとした。ビリーは、とっさに剣の中ほどを両手でハッシと取ると、そのまま剣を自分のほうに抜き取って、私の左足を払い、畳に倒した。
「さあ、もう一度。」
私は剣を渡されるともう一度ビリーを切りに行き、もう一度倒される。右に左に何度も倒されて。その度ごとにビリーは私の剣を両手で挟んで奪った。私が大きな息をして、うつぶせになろうとした瞬間、ビリーは奪った刀で私を斬りに来た。私は左方向にそれを避け、畳の上で半回転した。ビリーの刀の鋒は畳を切った。
「お見事です。」
ビリーは大きく叫んだ。
「あなたは私を信じた、私もあなたを信じた。今日の稽古はこれで終了です。こちらで少しお話ししましょうか。」
ビリーは道場の端にある小部屋に案内した。
つづく
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