第15話 研究室での神様決意。
さらに動画が拡大されて乾燥した砂地の埃っぽい道と石造りの建物が俯瞰で目に入ってきた。しかし人々の賑わいはなく、時折数人の黒っぽい服を着た男たちが物陰に潜んでいて、時々建物から建物へ素早く走って移動しているのがわかった。
さらに俯瞰の動画は大きくなる。平屋根の上にまで視点が降りて来ていた。急に前方で大きな爆発が起こり、大きな噴煙が上がった。男たちが一斉に出てきて、機関銃やロケットランチャーから実弾を発射するのが見えた。そこはまさしく戦場だった。戦闘機が上方から飛来して機銃掃射が続いて起こった。男たちは、それを素早く交わして建物の物陰に隠れる。
何機もの戦闘機が一斉に爆撃を開始すると、建物のあちこちで大きな爆発と火災が発生した。
「こ、これは。」
と私は言葉を思わず発した。南研究員が真剣な眼差しでこちらを見ていた。
「お分かりですか、これが神様がいらっしゃった世界の有り様です。もちろんニュースやネットで見られたことがあったと存じますが、ここまでリアルなものをごご覧になった事は無いはずです。」
私は大きくうなずいた。
「私たちは、神様にこれをお見せして、どうしたら宗教が人々を救えるかここで議論しながら研究しているのです。」
「なるほど。」
私はかみしめるように言った。南はゆっくりと地球を元のサイズに戻した。あんなに恐ろしい戦場は視界から消え、もとの青くて美しい地球に戻った。
横から平田が「これ、これ。」と言って、違うアイコンを指差した。
「平田くん、近いよお、近いってば。」
顔をしかめながら、南がある操作をすると、地球上の多数の場所に赤いランプが点灯した。
「お分かりですか、今、地球上にはこれだけの場所で醜い戦争や紛争が起こっているのです。戦争、テロ、略奪、犯罪、貧困、差別や抑圧。でもね、人間たちはこれをやめない。やめないどころか、延々と繰り返し、そしてテクノロジーがそれに輪をかける。
そしてね、もっといけないのは宗教です。宗教は本当は人を救わなければならないのに、このような醜い争いを発生させ、助長させているんだ。そしてお分かりだと思いますが、宗教の中には、人を騙し、金品を巻き上げ、そしてそれが神によって救われる道だと説くようなひどいものさえある。人々を困難や貧困に追い込んでおいて、自分が神の使いであるかのように振る舞って何が宗教の指導者なものですか。」
平田が今度は続けて言った。
「この研究所では、神様と共に世界の平和についてどう宗教が貢献できるのかを研究しています。今後、神様が神社に赴任されたあとも研修会などを催しますので、いつでもおいでください。あ、ここのサイトにこのコードでアクセスできますので。」
と平田は言って、小さな名刺サイズの紙を私に渡した。
「さあ、じゃぁ移動しましょうか。」と私は平岩に促された。
「ありがとう。」
私が頭を下げると、整列した研究員たちは揃って一礼した。
「そのふたり、お似合いだよ。」
思わず平田と南が顔を見合わせた。平田は頭を掻き、南は少し膨れっ面をしてそれに返した。私は何か自分の仕事に希望が持てる気がした。この研究室の雰囲気と積極性に明るい光が心の中に射してきた気がした。後ろから黒田が走り寄ってきて頭を下げた。
「もう、お見苦しいところをお目にかけて、申し訳ないです。平田はほんとにおっちょこちょいで、人が良いというか、…」
「いいんですよ、あははハハハ。」
私は初めて大声で笑った。
「幸福感いっぱいの職場じゃないですか。それもこれもあなたが研究室で良い雰囲気を作ろうとなさっているからですよ。」
「いや、神様にそう言っていただいて安心です。」
「いいもの見せていただきましたよ。神様って大変そうだけどなんだかやる気が出てきました。あーやってみんなで世界を平和にしようとしているんだもの。トップに立つべき私がヘタレでは彼らに申し訳が立たないじゃないですか。」
黒田はほっとした表情で大きく息を吐いた。
つづく
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
15話までお読みいただき、ありがとうございます。
できましたら、★マークの評価、読者登録、コメントや
ご感想頂けましたら幸いです。今後ともよろしく
お願い致します。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます