第13話  神様研修センター施設案内へ



 「今日は午前中の日程でお疲れになったはずなので、ゆっくり昼食をおとり下さい。なお今日は遅い昼食なので、夕食も軽めにと考えております。ルームサービスでこちらから宿舎へ運ばせますが何かご希望はおありですか?」


と所長は言った。


「そうですね、私も今日は疲れてしまって、あまり夕食を食べられないと思います。幸いこの昼食がかなり多い量なので、残った食事をパック詰めにしていただいて宿舎へ持って帰り、それを夕食にいただこうと思います。飲み物は部屋で取れるようになっていますか?」


「もちろんです。お湯も沸かせますし、ティーバッグやコーヒーのセットもありますので、でも本当にそれでいいですか?何ならここからお部屋に…、」


「もう充分それで結構ですよ。地方の旅館で下働きする一介の板前である私にそんなに至れり尽くせりのサービスをしなくても。」


 私はまずその手に取りやすいスコーンを口に入れた。柔らかい食感とともに溶け出し溢れ出すクロッテッドクリームが口の中に広がる。そして口を濯ぐようにアールグレイをひと口飲むとその温かく芳香にあふれた流動物が一気にすべてを流し込んだ。

 

北川シェフが再び挨拶に来た


「お味はいかがですか」


 私は微笑んで大きくうなずいた。

「あーおいしいですよ。北川シェフ、昔から研究熱心だったもんなぁ。」

「いえいえ、花田シェフに比べれば、私なんか子供じみた芸当しかできない素人同然の職人ですよ。」

「もうお世辞はそのくらいにして、ほら、みんなを見てごらんよ。おいしいものって、こんなに人を素直な表情にするなんて、私たちは良い職業についたと思わないか。」

「ええ、本当にそうですね。」


と北川も大きくうなずいた。テーブルは打ち解けて賑やかに会話が続いていた。私と北川の関係。料理や芸術の話。私や北川の経歴。


「さあそれでは時間も押しているので、3階から順に降りていって先に施設を見学しましょう。その後1階の会議室で宗教に関する研修を手短に済ませて宿舎へご案内しましょう。」


と高木が提案した。所長もうなずいていた。もう1時間はゆうに過ぎていた。私たちは席を立ち、そして先程のボーイから笏を返却してもらい、高木がパック詰めの食事を受け取ると、レストランの外へ出た。この世ではやはり支払いというものがない。


 金銭が一切発生しないということはやはり死後の世界は前世とは違うのだ。そして私たちは平岩を先頭に3階から各部屋を見て回った。研修室、研究室、会議室が並んでいて、真ん中の研究室で平岩がドアを開けると、白衣の研究員たちがパソコンを覗き込んで、何か議論しているのが見えた。


「ここはどんなことを研究する場所なのですか。」と私は平岩に尋ねた。私の2人後ろにいた研究室室長の黒田が


「私がお答えしましょう。さあ皆さん、もう少し中へ入りましょう。」と促した。


つづく

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