第10話 昼食会場への途

「まずこれよりセンター内を案内しながら昼食会場に向かいたいと思います。時間がかなり押してきていますので、まず昼食休憩をとっていただき、その後、私を中心に神様のあるべき姿について最初の研修を行いたいと思います。それが済みましたら、宿舎宿舎にご案内差し上げ、その際に高木の方より以後の日程についてご説明させていただきたいと思います。花田様それでよろしいですか?」


「それでいいと思います。」「それではこれより私を先頭に花田様を案内し、職員は後方から随行しますので、前方のドアよりお進み下さい。」



 2人の黒服が来た時のように素早くドアを開けた。平岩がゆっくりと立ち上がり、私に会釈して後に従うよう促した。私は手に笏を持ち、再び背筋をぴんと伸ばして歩き出した。衣冠束帯を身に付けたときに履く木靴がなんとも重く、ピカピカに磨つけられた床を滑りそうでなんとも怖い。ゆっくり歩こうと心がけた。



 平岩もそれを気にして私の速度に合わせて、時々後ろを振り返りつつ歩いている。私は少し安堵した。来た途を戻り、途中でエレベーターに乗った。チーーンというエレベーターの到着音があまりにも現世っぽくて思わず笑い出しそうになった。今この重々しい金属製のドアに触れたらビリビリと静電気の刺激が来そうだ。そんなことを考えていると緊張が次第に解けて、私は一番奥に立ち前のドアを見つめていた。


 高木が最上階3階のボタンを押すと、まるでどこかのクラシックホテルにいるように厳かにエレベーターが動き出した。乗り込んできた数人の職員は何も言わず、ただただ前を向いている、それもまた何か会社で行われている研修のようで、私はまたも笑いがこみ上げてきて、それを必死に抑えようとしていた。


 3階のドアが開き、前方の長い廊下をまたひたすら歩きに歩き、私たちは突き当たりにある大きな白いドアにたどり着いた。「さあ昼食をとりましょう。」と平岩が言った。「少し休憩をとっておくつろぎください。昼食の後、1階ずつ下へ降りていって当センターの施設を説明いたします。」後方にいた2人の職員が前へ進み出て小走りにドアへたどり着くと、またも素早く開けた。すると、今まで見たこともない豪奢な作りの晩餐室のような大きな会場が目に飛び込んできた。


 前面に大きな窓と見晴らしの良い巨大な樹木のある公園。天井からは宮殿によくある巨大なシャンデリアが何本もぶら下がり光を放って豪華さをひときわ演出している。あたりに設営されたテーブルと椅子はピカピカに磨上げられ、白い布は目に痛いほどの輝きを放っている。その中をゆっくりと数人の蝶ネクタイをした男たちと黒スーツに身を包んだ女性たちが神妙な顔つきで黙々と動きまわっている。


 数人のVIPらしい男たちがゆったりと椅子に腰掛けてコーヒーをすすりデザートを食べ、さざめくように会話を楽しんでいる上品な女性たちもいる。みんな精神的な余裕に溢れ、生前社会的地位が高かったことが推察された。「当センター自慢のレストラン、ルボア( Le bios )でございます。」と高木は言った。


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