第8話 神様研修センターの歴史


 黒田は話を一旦閉じるとテーブルの前に置かれたペットボトルの封を切り一気に飲んでいる。こちらの世でもこんな商品があることがますます不思議に思えてきた。黒田はふうっとため息をつくと再び話し始めた。


 「この案件はまだ解決していません。いつかこちらから有能な神様を派遣して悪霊を退治しようと思っております。そして悪霊に支配された女性は連れ帰りこちらの施設で監禁しなければなりません。いずれにしても気の重い話です。


 いずれにしてもこのようなことがあったので翌年の神様会議において、この施設が設けられることになりました。スカウトした人材をこちらの世でトレーニングすることになったのです。そして神様会議で決定された研修事項はまとめて資料となり、このセンターの図書館に保管してあります。

 例えば、神道の歴史、神様としてのあり方、人間と神様との関係、世界の宗教、宗教と世界史との関係など、神様に対する研修内容が定められてあります。その他、哲学や心理学、数学や物理など基礎教養も改めて学んでいただきます。


 このような研修内容の整備とともにこのセンターの建設が進められました。建設には前世で有名な建築家たちが招集されました。海外から指揮を取ったのかかのル・コルビジェです。」私は彼の名前を聞いたことが何度もあった。フランスを代表する、いや世界でも著名な現代美術の巨匠だった。彼は、あの上野の国立近代美術館を設計したはずだ。


 「そして私たちは仮設のセンターから新築でピカピカのこの施設に移ってきたのです。それはそれはまばゆいばかりの内装と照明に、私たちは毎日心ときめかせながらここへ通勤するようになったのです。そして、新しい神様たちを一人ひとり丁寧に育て、神様がいなくなった神社へ送り出すようになったのです。」「なるほど。」と、私は彼の丁寧な説明に納得していた。


 まだまだ訊きたいことは山のようにあったけれど、今はこのくらいにしておいた方が良さそうだ。そうでないと神様オリのスケジュールが延長されるばかりだ。そんなことを思っていると、センター長の平岩が、研究室室長の黒田に何か耳打ちをしているのが目に留まった。黒田は小さく頷くと私の方をきっと見つめてこう言った。


 「実は当センターの意義と歴史を説明する日程が午後にあったのですが、今のでほとんどが済んでしまいました。ここで日程を前に進めるためにもこの件について、あと2、3質疑応答してそれで一旦午前の部を終わり昼休みにしたいと思います。神様、いや正確に言うと花田様、何かご質問はありませんか。」花田様と呼ばれて私は少し動揺した。そうか、私の事は全て調べがついているんだな。私が前世でどんな人生を歩んできたか、どういういきさつでこの世に来たか。私は気をとりなおして言った。「じゃあ後ひとつ、ひとつだけ質問させてください。」となぜか黒田の方を見ながら言った。

 

 


「私もどこかの神社に派遣されるわけですよね。どんな神社に派遣されるのか差し障りがなければ教えていただけないでしょうか。」平岩と黒田がお互いに顔を見合わせて思案していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る