第7話 怨霊と悪霊の支配する山 ーいよいよ佳境に。
「はい。」と黒田は一呼吸置いてから続けた。「ある地方の神社に起こった忌まわしい事件をお話しましょう。これからこちらの神様とも大きく関わることになる事件です。我々があるお山に派遣した神様が奇跡を起こされ、神官が再び戻ってきて、その神社は正常な状態に戻りつつあったのです。ところがその神社の山には元々怨霊が住んでいました。とても強力で影響力のある怨霊なのです。この神様は霊力が高く一時はその霊力で怨霊を折伏してしまったのです。
ところがこの怨霊は次第に魔力を高めて、再び山を乗っ取ったのですよ。彼は歴史上の人物で、その山の頂に城を構えていた専横極まる戦国大名でした。しかし、16世紀中期のある年、隣の地域を支配していた武将に城を攻められ落城の憂き目に逢ってしまったのです。彼の正妻、側室、女人たちや家来など、仕えていた多くの人々が燃えゆく城の中で自害し果てました。それはそれは凄惨な現場だったと思われます。
現代の話に戻ります。魔力を高めて再び怨霊は山を制圧し、そのために山は災害に見舞われ、山の中で怖い目にあったり、命を失ったりする人が後を絶たなかったのです。元々神社にいらっしゃった神様も神官も途方に暮れて、とうとう姿をくらまされてしまいました。
そこで我々はとても霊力の高い女性を神様として、そのお社に派遣して神社復興を果たしたのです。ところがある年の暮れ、彼女自身がその怨霊に誑かされたの
です。伝えられるところによると、こともあろうに怨霊に同情の余り、その、言い難いことなのですが、関係を結び、夜な夜な寝屋で抱かれ、怨霊を守護することを約束したと言います。
正妻や側室の怨霊は最初烈火のように怒って彼の不貞を許さなかったと言います。しかし、彼はこの女神は私達の守護者であり、強力な霊力のある存在だと言い張り、遂には関係を認めさせたということです。
とうとう怨霊とこの悪霊と化した女性は山に取り憑き、荒らし始めたのでございます。
彼の言い分はこうでした。元々、神道の人格神は怨霊じゃないか? 例えば、菅原道真公は藤原氏の陰謀で太宰府に流刑になった。その後天災や人災が打ち続き、清涼殿に落雷して多くの貴族が亡くなったために、太宰府天満宮や北野天満宮に彼を祀ったのではないか。この山に城を構えていた者たちの怨霊は即ち人格神、このまま彼の御霊を人々が安んじれば、元の状態に戻るはず。しかも今や尊き女神様まで一緒に居ると。
でもそれは断じて違う、そう言い切っていい。道真公は学問と人格が優れたお方で、歴史に遺る偉業をなされた方なので人格神なのですよ。この地方に君臨し、領民を酷使して年貢をや兵役を過酷に課した彼のような戦国大名は決して人格神なんかじゃない。暴君であり、悪の手先です。女神を誑かしたのも数世紀を経ても未だに燃え盛る劣情の為せるわざ。むしろ攻め手である武将の方が治める領土で領民に愛される善政を敷いていたのです。」
黒田は一気に捲し立てると、大きく呼吸してテーブルの上に置いてあったペットボトルの封を切り、ミネラルウオーターを一気に飲んだ。
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