第6話 神様に研修が必要なわけ
私はなおも問い続けた。「もう一つ質問していいですか? あの、このセンターは創立30周年ということですが、その前には神様の研修はどこでされていたのですか。」
私が言い終わると前の職員たちの間で何やらひそひそ小声でやりとりする光景が続いた。私はそれを遮ってきっぱり言った。「いや、難しいなら今答えていただかなくても結構です。別に後日でもゆっくりご解説いただければいいのですよ。」すると、平岩の右隣に座っていた背が高くて銀縁眼鏡をかけた男が平岩の方を向いて許可を求めた。「黒田くん、君がもし説明してくれていいのならば。」平岩はそっけなく言った。
黒田は素早く平岩の前からマイクを受け取ると立ち上がって言った。「当センターの研究室室長、黒田耕一郎と申します。」黒田はいかにも知識豊富で自信ありげな男だった。銀縁の眼鏡の奥には、細めの鋭い視線がこちらに向かっているのを私は感じた。しかし反面とても温厚そうで、落ち着きのある性格を全体で醸し出していた。所長が全てを任せて説明させているのもうなずける理由があると私は思った。
「このセンターが設立されるまでは、神様に対する研修というのはなかったのです。すなわち、我々神様エージェントがこの世の入り口、三途の川を渡りきったところに立って、人品卑しからぬ人物をこの目で確かめ、適宜スカウトして地方の各神社へ派遣していたのです。
今や地方の神社も神官がいなくて、神様もどこかへ旅立たれてしまい抜け殻になっているところがたくさんございます。もちろん、ご神体はもともと大きな山や、滝、岩などの自然現象ですが、人格神を派遣することにより、そういった自然神の代わりに人々とコミュニケーションをする依代の役目をしていただくのです。そして何か目立った奇跡でも起こしていただいて人間たちに再び神社復興を促すというのが我々の役目なのですよ。
そんな中で我々は多くの優れた神様を輩出してきました。そして各地で奇跡が起こり、神社と神官が元通りになってきたのです。それがあることがきっかけでできなくなる事態が発生したのです。所長、この辺の詳細をこちらにお話しさせていただいていいですか。」黒田は私の方を見ながら平岩に許可を求めた。
「いいよ、黒田くん。いつものようにスマートにお願いします。」と平岩は黒田をとても信頼していると言うようにさらりと言った。
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