第21話 いよいよ本番! カマしていこうぜ!
——この文化祭、最後の大トリを締め括ってもらいましょう!
それではご紹介します。
みたらし団子のお二人です、どうぞー! ——……
俺たちは、割れんばかりの拍手の中、マイクの下へ歩み出した。
客席を見ると、母さんが手を振ってカメラを向けていた。
その隣には、沢子おばさんが座って——えっ!? 叔母さん!?
何で居るんだ!?
今朝、母さんが妙にニヤニヤしていたのはこの事か。
そして、叔母さんの三つ隣には笹塚さんがニコニコして座っていた。
来てくれたのか。ありがたい。
それじゃ、みんなの期待に応えないとな。
夏「どうもーみたらし団子でーす!」
冬「よろしくお願いしまーす。あんな漫才されたら、お後も困ったもんですよ」
夏「ほんとだな。私たちは、アレ以上に盛り上げないといけないんだから。まぁ、気持ちを切り替えてやって行きましょう!」
冬「そうしましょう!」
夏「いやぁ、とうとうやって来たな。武道館」
冬「武道館ではないですけど、やって来ましたねぇ」
最初の掴みで観客のみんなが笑ってくれた。
第一関門突破!
夏「私たちは、こんな大観衆の中で漫才した事がないから物凄く緊張してるんですよ!」
冬「そうなんですよ。初めは介護施設でお客さんは十人くらいでしたからね?」
夏「でも、今では何十万人というお客さんの前でやっているから感慨深いものがあるな」
冬「一万も居ませんけど、確かにジーンとするものがありますね。でも夏音さん、ここにいるお客さんは僕達のこと知らないんですよ? ここは一つ、自己紹介をしておいた方が良いんじゃないですか?」
夏「確かにそうだな。私から良いか?」
冬「どうぞどうぞ」
夏「んんッ……皆さん初めまして! 生まれた時からみんなのヒロイン、八百坂夏音です! よろしくお願いします!」
部長のキャピキャピした声がウケたのか、ドッと観客の笑い声で会場が揺れた。
このまま、何事もなく終わってくれ。頼む。
冬「あぁ、どうも。どうも有難うございます。えー、そしてヒロインの相方をしてます、稲荷冬馬です。よろしくお願いしまーす」
夏「いやぁ、これが終わったら文化祭もおしまいか……。何だかあっという間だったな」
冬「本当ですよね。ついさっき、始まったばかりな気がしてたのに」
夏「それは言い過ぎだが」
冬「何でだよ!」
夏「でも、私、一つだけ心残りがあってだな」
冬「心残り? 何か食べ忘れましたか?」
夏「食べ物ではなくて……」
冬「じゃあ、何が?」
夏「私も出店をやってみたかった!」
冬「出店と言っても色々あるじゃないですか。フランクフルトとかクレープとか、カフェとか」
夏「いや、私がやりたいのはそんな低俗なものではない」
冬「神か何かですか!?」
夏「私はみんなのヒロインと言っているだろう? そうじゃなくて、私がやりたいのは……」
冬「やりたいのは?」
夏「ラーメンだ!」
冬「……は? ラーメン?」
夏「そうだ。しかも、ただのラーメンでは文化祭に出すレベルだろう?」
冬「文化祭に出すんですよ!? 文化祭に出すものを考えているんですから!」
夏「私レベルになると、そんなものじゃ満足できないんだ!」
冬「満足させるのはお客さんですからね!? あなたが満足してどうするんですか!」
夏「私のプランでは、文化祭の三年前に、行列のできるラーメン店に弟子入りするだろ?」
冬「それ、まだ中学生ですよ!?」
夏「そこで一人前になるから、文化祭で特製ラーメンを出すんだ!」
冬「弟子入りできる前提で話進めてますけど、中学生を雇う店なんかありませんよ」
夏「大丈夫だ、どこでも雇ってくれる」
冬「なんで言い切れるんですか?」
夏「私が可愛いからだ!」
冬「……アァ、ハイ。ソウデスネー」
夏「みんなも可愛いと思うだろう?」
「可愛いー!」「天使だー!」「最高!」
夏「何人かの声しか聞こえなかったな。もう一度聞くぞ? 私は可愛いだろう!?」
「「「「「「「「「「可愛いー!!」」」」」」」」」」
夏「ありがとう!」
冬「無理やり言わせたようなものですけどね。お付き合い頂きありがとうございます」
夏「気にしたら負けだ」
冬「それで、ラーメンを出すって言っても何種類もあるじゃないですか。醤油
ラーメン、塩ラーメン、味噌ラーメンに豚骨ラーメン、魚介系ラーメンとか二郎系、家系ラーメンなんてものもありますよ?」
夏「チッチッチ。そうやって決められた枠組みで考えてたら、革命なんて起こせないぞ!」
冬「あっ深い! なら、どんなラーメン作るんですか?」
夏「まず、ラーメンが熱いものっていう決めつけが良くない」
冬「冷たいラーメンですか。……どうなんだろ? あまり想像できないんですけど。凍らせたラーメンとか?」
夏「近いな。しかし、上に盛り付けられてある具が、海苔、チャーシュー、メンマ、ネギ、煮卵って言うのも気に食わない」
冬「夏音さんが気に食わなくても、美味しいんですから良いじゃないですか」
夏「私は海苔とチャーシュー、メンマ、ネギ、煮卵が嫌いなんだ」
冬「ただの好みの問題!? っていうか、よくそれでラーメン屋に弟子入りしようと思いましたね!?」
夏「っ——」
急に部長が、口をパクパクさせて黙り込んでしまった。
どうしたんだ?
まさか——
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