第20話 轟兄弟よ、会場を轟かせるか!?
……——皆様、本日はお越しいただき誠に有難うございます。只今より、お笑い部による漫才を始めさせて頂きます。
上演中は携帯電話やその他通信機器の電源はお切りください。
また、上演中のおしゃべりはご遠慮ください。——と言いたい所ですが、笑い声は大いに結構です。思う存分、ご笑覧ください。
それでは、大きな拍手でお迎えください。轟兄弟です。どうぞ! ——……
勇「どうもー! どうもどうも! 轟兄弟の勇雄と!」
優「弟でーす」
勇「名前を言わんかい!」
優「優介でーす。僕がツッコんで、こっちのヤンキーみたいなのがボケです」
勇「逆や! お前がボケやろがい! っていうか、どこにヤンキーおんね
ん! こんな優しくてイケメンな男がヤンキーな訳あるかいっ!」
優「今日もツッコミ、キレッキレやん。これだったら、オモロいのが出来そうやね」
勇「せやな」
優「今日はな、一つどうしても納得できん事があるから聞いて欲しいねん」
勇「なんや?」
優「僕ら、大阪から来たやろ? その時、何乗った?」
勇「電車やで」
優「そう! その電車の駅で理解できん事があるんよ!」
勇「何も不満が出るようなモン無かったで?」
優「いいや、あったね! 東京駅はまだええよ。東京の駅やからね」
勇「何を偉そうに……」
優「兄ちゃん、山手線を東京駅から言える?」
優「途中怪しいけど、言えるで」
優「ほな言って?」
勇「東京駅、有楽町、新橋、田町、高輪ゲートウェイ、品川、大崎、五反田、目黒、恵比寿、渋谷、原宿、代々木、新宿、新大久保、高田馬場、目白、池袋……そこから覚えてへん」
優「もう僕の不満は出てたで」
勇「これのどこに不満があんねん」
優「五反田までは普通やん?」
勇「その後も普通や」
優「ちゃう! なんで、目黒から目白まで名前があんねん!」
勇「分かりにくいからやろ」
優「何でや! そこは目黒、元目黒、二個前目白だったもの、目黒に取られた元目白とかにせい! っちゅう話や」
勇「駅でオセロしてるやん!」
優「あれって、その名残が残っとるんとちゃうの?」
勇「ちゃうわ! 知らんけど」
優「でもな、せっかく東京来たんやし高校卒業したら行ってみたいなぁってとこあんねん」
勇「お前が!? 珍しいな……。ちなみに何処やねん。雷門とかやったら、わざわざ卒業せんでも行けるやん」
優「歌舞伎町のキャバクラや」
勇「お前が!? 鴨が鍋とネギ背負ってやってきた思われるわ!」
優「とりあえずイメトレが大事やと思うから、兄ちゃん、お客さんやってくれん?」
勇「ワイが客!? お前やなくて!?」
優「ええのええの。やっぱりキャバ嬢の気持ちが分からんと楽しめんと思うし」
勇「そんな事ないと思うねんけど……。まぁ、ええわ。ほなら行くで? ——ウィーン、ここが地域ナンバーワンのキャバクラか」
優「いらっしゃいませ。ナンバーワンへようこそ」
勇「店名がナンバーワンかい! ここは地域で一番の店ですよーって意味ちゃうんけ!」
優「ここら辺で一番の店は、隣ですね。皆さん、よく間違って来られますよ」
勇「そりゃそうやろ……。とりあえず、システムとか分からへんのやけど」
優「大丈夫ですよ! ウチは安くて有名なので!」
勇「ホンマかいな……。そんなら、何か飲み物くれ」
優「水割りとソーダ割、どちらにします?」
勇「キャバクラらしい会話やな。ほなら、水割りで」
優「はーい。……じゃあ、私も飲ませてもらいますね」
勇「飲みや飲みや! カンパーイ! ——ん? 何やこれ?」
優「水割りですけど?」
勇「何を水割りしたんやー言うとんねん」
優「水割りですよ?」
勇「ちゃうねん。何を水で割ったんやって聞いとんねん」
優「ですから、水を割ったんですって言っとるやないですか」
勇「水で割るやのうて、水を割るって事やったんかい!」
優「あ、これお会計です」
勇「五十円!? 自販機より安いやないかい!」
優「皆さんよく言われますよ。自販機より安いやないかーいって」
勇「ツッコミ被っとんのか! 全然嬉しゅうないわ! ——どうもお後がよろしい様で」
勇・優「どうも、ありがとうございました!」
会場は大盛り上がり。
「おっと、沸かせすぎたか?」
調節室へ戻ってきた勇雄が、ニヤニヤしながら煽ってきやがる。
本音を言うと、沸かせすぎだ。俺たちの身にもなってくれ。
しかし、そんな弱音は口が裂けても言えない。
「笑い声が少なすぎてスベったのかと思ったぜ」
「ハッ! 言うやないけ! ほんなら、お前の漫才を見せてもらおうか」
「望む所だ! 部長、やってやりましょう!」
「あぁ!」
……——いやぁ、実に面白かったですね。私なんて口周りの筋肉が攣りそうです。
しかし皆さん、ここで満足してもらっては困ります——
司会が紹介している間、ステージの裾で部長の横顔を眺めてみた。
まだ緊張はしているだろうが、気合いが入った目をしている。
ここまで色んな事があった。
少しおかしな出会い方だったが、全てはあの放送から始まったんだよな。
半強制的に入部させられ、生まれて初めての舞台で大スベリした。
あの時は、お互い一言も喋らず帰ったっけ。
自分の才能を疑って一人で落ち込んでたが、この人の姿を見たらもう少しだけ頑張ってみようって思えたんだ。
それから叔母さんに漫才のイロハを教えてもらって、リベンジを果たした。
その二日後に、勇雄たちが転校してきたが、初対面で喧嘩を売られて、アイツらの才能に嫉妬した俺がスランプに陥ったんだ。
結局、昨日仲直りをしてライバルと認め合ったが。
そうそう、父さんの事も誤解してたんだった。
家に帰ったら、謝らないと。
「色々ありましたね……」
俺は独り言を言ったつもりだったが、聞こえていたらしい。
「あぁ。冬馬がいてくれたから、ここまで来れたんだ」
まーた嬉しい事、言ってくれちゃって。
「最初で最後の大一番。後悔しない最高の漫才、見せてやりましょう!」
「あぁ! 行こう!」
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