第6話 負けから学べ! 少年よ!
今、俺たちがどんな顔をしているのか分からない。物凄く無様な顔だろう。
お辞儀をしたまま、客席に顔を向けないように俯いて出て行った。
背後から、パチパチとまばらな拍手が送られた。
(やめろ……やめてくれ。そんな同情の拍手は要らないんだ!)
俺たちは、そんな拍手より笑い声が聞きたかったんだ。
結局最後まで一笑すら起こせないまま、気がつけば楽屋で項垂れていた。
始まる前はあんなに息巻いていたのに、いざ蓋を開けてみると終始だだスベリだった。
ダセェな……
隣に座っている部長は、泣きながら何度も何度も謝っていた。
「ごめん……私のせいで……本当にごめんっ……」
「部長のせいじゃありませんよ。もっと練習していれば……」
どうしても、部長を責める気にはなれなかった。
確かにもう少し流暢に話せていたら、観客としては聞き取りやすかっただろう。
だが、部長がセリフを忘れる可能性を考慮せず練習していた俺の責任でもある。
それに、今回のネタが百点満点で面白いか? と問われれば、首をかしげざるを得ない。
書いている時には面白いと思った。
しかし、いざ人前で話すとなると根拠のない自信は揺れてしまう。
「二人ともお疲れさま。今回が初めてだったんだし、しょうがないよ。みんな時間を持て余しているから……きっと、お笑い番組とか見て目が肥えているんだ」
笹塚さんは苦笑いで慰めてくれた。
だが、俺はその労いを素直に聞き入れられなかった。
初めてだから何だ。しょうがないで済ませられるのか?
——悔しかった。そして、恥ずかしかった。
自惚れていた自分が恥ずかしい。人前でスベった挙句、同情の拍手だけ貰って退場した自分が恥ずかしい。
何でも中途半端にやってきた俺は、生まれて初めて悔しさというものを味わった。
(悔しいって、こんなに苦しいんだ……)
部長を慰める事すらできない俺は、笹塚さんに愛想笑いをするので精一杯だった。
部長が泣き止むのを待って、俺たちは施設を後にした。
「…………悔しいですね」
「…………あぁ」
俺も部長も話す気力は殆ど残っておらず、また黙り込んでしまった。
「……すまなかった」
降車駅が近づくと、部長がポツリと呟いた。
「……大丈夫です」
俺は部長に嘘をついた。
駅で部長と別れ家に帰り、まっすぐ二階へ向かいそのままベッドに倒れ込む。
両親がまだ帰っていなくて本当に良かった。
今の俺を見たら、母さんなんて特に色々と聞いてくるだろうから。
夕飯も入らず日曜をどう過ごしたかも覚えていない程、今回の漫才は俺の意識を百八十度変えたのだった。
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