第2話 『食育』の本当の価値

 「クッソ……斬っても斬ってもキリがねぇっ!!」


 目の前には無数のゴブリンジェネラルやオーガ達が棍棒を構えて、あるいは拳を振り上げてこちらに迫ってきていた。

 俺はここで終わりなのか……?

 そんな問いがふと浮かんだ。


 「畜生、アイツら……一生恨んでやる!!」


 三人は既にこの場にいないし、やり場のない怒りなのだった。


 「クソがァァァァァァ!!」


 怒りのままに振るった剣は近くにいたオーガの腕を切り落とした。

 師匠にもらった剣はオリハルコン製、聖剣や魔剣にも用いられるオリハルコンは硬く、巨躯を誇るオーガの体でも容易に切断することが出来た。


 「Graaa!!」


 腕を切り落とされたオーガは痛みに悶えるように叫ぶと拳を振り下ろした。


 「そんなノロマな動作で当たるかよっ!!」


 俺は仮にも剣だけで勇者パーティの前衛を務めていたんだからな。

 危機に追い込まれれば、忌々しいそれも心の拠り所だった。

 思いっきり飛び下がった俺は、しかし着地出来る地面がないことに気付いた。


 「えっ……!?」


 そこにあったのはトラップだった。

 一度ならず二度までもトラップを踏み抜いてしまったのだ。


 「おいおい……」


 投げ出されたような浮遊感に包まれた後、地面に叩きつけられたのだった。


 ◆❖◇◇❖◆


 「痛ってぇ……」


 地面に打ちつけられたせいか全身が酷くいたんだ。

 意識があるだけでも幸いか……。

 背負っていた荷物はいつの間にか何処へやら。 


 「もう戻ることは無いが、荷物が無くなったと知ったらアイツら激怒するだろうな」

 

 中層から落ちたのなら下層に来てしまったということなのだろう。

 位置を把握することの出来ない暗闇のダンジョンの下層、なかなかに絶望的だな……。

 食べ物もなければ水もない。


 「Kyuuuy!!」


 突如として聞こえた鳴き声。

 闇に光る赤い目、その正体は溝鼠とも呼ばれる野鼠ラットだった。

 だがその大きさは体長八十センチ程と可愛さとは程遠い大きさだった。

 そしてそれは跳躍すると唯一の攻撃手段である鋭い前歯を剥き出したに、飛びかかって来たのだった。

 

 「こんなのを倒すにも一苦労とはなっ!!」


 痛みを堪えつつも剣を振り抜いた。

 

 「Kyuu……」


 小動物らしい鳴き声とともに、それは動きを止めた。

 亡骸となった野鼠ラットを見つめると不意にお腹が鳴った。


 「そういえば最近ろくなもんを食べてなかったな……」


 勇者パーティの一員といっても荷物持ちでしかない俺は、アレクたちからは粗末なものしか分けて貰えなかった。

 調理中も摘み食いしないように見張られていたしな……。

 とりわけ依頼を上手くこなせていなかった最近は、酷いもんだった。

 他の三人は依頼の報酬をすぐさま浪費してしまうがために、食費は俺の取り分から出ていくことが多かった。

 そんな俺の取り分は僅かに報酬の一割。

 最後に食べたのは昨日の昼飯だった。

 ボソボソとした食感のパン一切れに、木屑のスープだった。

 

 「そりゃぁ野鼠ラットの死体で腹が鳴くわけだ」


 溝鼠と揶揄される野鼠ラットはしかし、食べれるモンスターの部類だった。

 さすがに下水に住み着いたような奴らは食べれないが、環境さえ良ければ食べれるという記述を本か何かで見た気がする。

 大衆食堂のメニューでも時折見かけるし、鶏肉と偽って売られていることもあるという。

 どこからか聞こえてくる水の音、幸いにして川も流れているらしかった。


 「捌くか……」


 ナイフなんてものは無いから、川で剣をよく洗って剣で野鼠ラット捌いていく。

 慣れない道具を使ったためか捌くのに数十分を擁した。

 その後は腰のポーチに入れてあった火打石で火を起こして野鼠ラットの毛皮を薪がわりにした。


 「くっせぇ……」


 毛皮から立ち上る獣臭に顔を顰めそうになりながらも剣先に突き刺した野鼠ラットの肉を加熱していく。

 やがて火が通ったのか赤い部分は無くなった。


 「調味料もポーチに入れとくんだったな……」


 無いものねだりなことを言いつつ、焼きあがったそれを口にする。

 味はあまりしなかった。

 強いて言えば拭いきれない獣臭さがあるくらい。

 可もなく不可もなくといった味わいだった。

 だが異変はそれを飲み込んだときに起きた―――――。


 「目が痛いッ!?」


 視界が無くなり本当の暗闇になった世界の中で俺は、ズキズキとした激しい目の痛みに襲われた。


 「クッソ……毒でもあったのかよッ!?」


 自身のステータスを確認しようにも目が見えないから方法がない。


 「踏んだり蹴ったりじゃねぇぇかっ!!」


 もう泣きたくなった。

 そんな時だった――――視界が戻ったのだ。

 それも以前よりもクリアになって。

 自動的に開示されたステータスには、新たにギフト『暗視』が追加されていた。

 そして俺は気付いた。


 「野鼠ラットの持つギフトって『暗視』だったよな……?」


 どうやらギフト『食育』の効果とは、他生物の肉を摂取することでギフトを手に入れるというものらしかった―――――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

バスレギフト『食育』から始める英雄譚〜誰も知らないユニークギフトが実は有能で!?〜 ふぃるめる @aterie3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ