異世界とステータスプレート
[天音 優]
慣れていた。顔を殴られるのは。
慣れていた。腹を蹴られるのは。
慣れていた。罵声を浴びせられるのは。
慣れていた。慣れていた。慣れていた。慣れていた。慣れていた。慣れていた。
そして壊れていった。
僕の名前はおばあちゃんに付けてもらった。おばあちゃんが言うには優しく育ってほしいと言う意味を込めて付けたと聞かされていた。今思えばなんてありきたりなんだと心から思う。
でも不思議とそれ聞かせてくれていた時のおばあちゃんの顔を思い出すと嬉しみが込み上げる。この名前とおばあちゃんとの思い出を大事にしようと心の底で言う。
自分でも知らないうちに天音 優は天・音・ 優・になっていた。
目が覚めた。
(知らない天井...)
上半身を起こし周りを見る。
(知らない部屋...)
どこだろうと周りを見渡しながらごく自然に、脇腹のほうに手が伸びる。
(傷がない...)
身体を起こしたのはいいが身体が重く感じて歩こうと思わない。服も見知らぬものを着させられている。
(制服じゃない...それに、なんだろうこの感覚...持久走終わりぐらいのだるさがあるのに特にこれといった筋肉痛とかは...無い)
(あの時確か背中を刺されて...殺された? いやでも生きてる。)
だるさはあるがそれを無視して部屋を歩き回る。見たこともない装飾品がちらほらと置いてある。部屋の隅に置いてある鏡に視線を移しながら思考を巡らせる。
(待てよ...これって異世界転生したんじゃ...)
天音は勢いよく鏡の前に立ち転生姿を拝もうと...
「...あれ??」
(ん~?毎朝顔洗う時に見てたなじみのあるモブ顔...)
転生でないなら転移だと思った。酷い人生を歩んでいた僕を女神さまが助けてくれたんだ!とルンルン気分になりながらこれからどうしようと思っていた時部屋の扉が勢いよく開いた。
「天音!!!」
「...!? 田中君..!?」
部屋に入ってきたのは唯一の友達だった。
「田中君も殺されたの!?」
「..はぁ? 何言ってんだ天音」
それから部屋にある椅子に座り何が起こっていて現状どうなっているかを聞いた。
2-3クラスメイトだけが転移したこと
他のクラスメイトは昨日に起きたが天音だけが目覚めなかったこと
そして天音が起きてから全てを説明すると王位継承権1位アメリー・バイオレット王女という女性が発言していたこと
「よくクラスメイトのみんな僕のことを待とうってなったね?」
「あー。それなんだがな。確かに起きるのを待つ必要がないって言ってる奴らもいたけど現実を受け入れられない奴らとかが居たりしてな..」
確かにこんな知らない世界にいきなり飛ばされたらそうなるよなと自分の中で納得し質問をいくつかしようと田中君に目を向けると田中君が何か違う人を見るかのような目で僕のことを見てくる。
「どうしたの?」
「ん~?いや..天音何かあったか?」
そう言われて
(何か?ん~..殺されかけたことぐらいしかないしなぁ)
「特にないけど」
「ふ~ん。まっ、何もないならいいけどな」
他のことも話していると扉をノックした後に「失礼します」と入ってきたのはメイド姿の女性だった。
「第一王女のアメリー様がお呼びです」
田中君と部屋を出てメイドさんに玉座の間まで案内された。そこで待っていたのはクラスメイト達と部屋の端に配置されている兵士達。そして王と王妃、その近くに立っている女性が第一王女と第二王女。あとはこちらの何かを計るかのような視線を向けてくる貴族達がちらほら。
最後の到着だった僕たちは全員からの視線を受けていてその中で特別気持ち悪い視線があった。
(....やっぱり、須藤君もいるか)
自分では気づいていないが、天音は酷く冷静だった。
そうしてここからは王道な展開が待っていた。まとめるとこんな感じだ。
・この国は、人族の中で1、2を争う程の栄を見せている国
・召喚された理由は、魔王が復活したため異世界の僕たちが呼ばれた
・勇者召喚は今回で2度目。しかも前回の勇者たちは魔王を討伐することができず封印するのがやっとだったそうだ。
この説明の後に王や王妃、王女二人の自己紹介が始まった。
第一王女アメリー・バイオレット。彼女は礼儀正しく金髪ロングヘアーが似合いこれぞお嬢様といった感じの印象。笑顔を振りまけば惚れない男は居ないと言われれば頷けるほどだ。
第二王女エミリー・バイオレット。彼女も礼儀は正しく美しいのだが少し物静かそうな印象だった。ただ水色ロングヘアーの彼女が国民に女神様と崇められていてもおかしくはなかった。
二人の王女の紹介が終わり王が玉座から立ち上がった瞬間、部屋の端に控えていた貴族や兵士達が跪いて頭を垂れていた。
クラスメイト達はどうしていいかわからずざわついていると
「私がこの国を治めている王イシュタル・バイオレットだ!! 面を上げよ!」
王が発言した途端身体の自由を奪われた。いきなり重力空間に放り込まれたかのように身体が重く感じる。肌がヒリつきビリビリと王の威圧が伝わってくる。周りを見れば半数のクラスメイト達は顔を青ざめていた。
[イシュタル・バイオレット]
(ほう。私の威圧に倒れずに立っていられるか。)
王は前回と今回の勇者たちを比べていた。
(前回の勇者は半数が気を失い残りも顔を青に染め5人程度しか立っていられなかったが...今回は粒ぞろいで何よりだな)
威圧を解いてやり歓迎していると言わんばかりに手を広げ
「さぁ!! 異世界から召喚されし勇者よ。我らにお前らの力を示せ。」
[天音 優]
王の威圧が消えさっきまでは「一言文句を言ってやる」と息巻いていたやつらも威圧を受け意気消沈している。威圧を放った確かな理由はわからないが、もしかすると前回召喚された勇者達が文句ばかりで話が先に進まなかったんじゃないかと勝手に心の中で納得する。もしそうだとしたら王の目論見は大成功と言っていいだろう。
王妃アスナ・バイオレットが台形型の台の上に真っ白の水晶玉を置き、その水晶玉の説明を始める。
「では、みなさん順番にこの水晶玉に手を当てて【ステータスオープン】と唱えてください」
王妃から出た言葉にまたもざわつくクラスメイト。特に【ステータス】と聞いたとき陰キャグループと呼ばれている奴らは目を輝かせながら水晶玉を見ていた。
(いや、わくわくしてるのは僕も同じか...)
本当にここは異世界なんだ。と...アニメや小説を読んでいる人がこの状況でわくわくしないなんてことはないだろう。
誰が初めに行く?そんな空気が流れ始めたが、その空気を壊すかのように前に出た人物がいた。
久保田 海。イケメンでクラスの人気者。優しくて正義感があふれており陽キャグループのリーダーと呼ばれている。
「この水晶に手を当てて【ステータスオープン】言えばいいんですよね?」
王妃に確認を取った後
【ステータスオープン】
水晶玉はプロジェクターの役目を果たしているらしく目の前に大きな画面が現れる。
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久保田 海 男 人間 Lv,1
ジョブ「勇者」
MP:150
筋力:150
防力:150
体力:150
敏捷:150
魔力:150
スキル:言語理解lv1・剣術lv,1・勇者魔法lv,1・魔法適正(赤魔法lv,1・地魔法lv,1・風魔法lv,1・光魔法lv,1)・アイテムboxlv,1・物理耐性lv,1・魔法耐性lv1・危機察知lv.1
固有アビリティ:魔を穿つ者・勇者の卵
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『おぉ..!』
貴族達や兵士達が声を漏らし、王は良いものを見た。といった風な表情を浮かべ
「ほぅ。面白いな。平民の一般ステータス平均は10だ。それを初めから3桁とはな。驚いたぞ。」
「ありがとうございます..」
少し照れくさそうな嬉しそうな表情を浮かべる久保田君。王の反応からして勇者として十分すぎるほどのチートステータスなのだろう。そこから一人また一人と水晶玉に歩み寄りステータスを確認していく。みんな珍しいジョブや上位に位置するジョブに選ばれておりどんどん自分と田中君は最後尾に行きみんなのステータスを見ながら話していた。
「やべぇ..緊張してきたわ天音と俺。どんなステータスになるかな」
「田中君はすごそうだけど僕は多分モブステだよ(苦笑)」
そう話しながら水晶玉に目を向ける。
(どんな原理であの水晶玉からステータスが見れるようになっているんだろう...)
そう考えているとある一つのことに気づく
水晶玉がないと自分のステータスは見れないんだろうかと...
試しに誰にも聞こえない程度の声量で
【ステータスオープン】
そして脳内に浮かび上がるステータスプレートに驚いて立ち止まっていると田中君が「なにしてんだよ。もうすぐ俺たちの番だぞ」と。再び列に並びなおして立ち止まらないように自分のステータスを確認する。
・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━
天音 優 男 人間 Lv,1
ジョブ「 」
MP:50(+200)
筋力:30
防力:100
体力:30
敏捷:90
魔力:30
スキル:言語理解lv1・短剣術lv,1・闇魔法lv,1・青魔法lv,1・風魔法lv,1・光魔法lv,1・アイテムboxlv,1・物理耐性lv,2・魔法耐性lv1・危機察知lv.2・偽装lv,3
固有アビリティ:与えられし心臓・二面性
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....見られてはダメなステータスだと直感で理解してしまった。
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