第30話.最終決戦
ロベルトと別れたリュートは、山道を突き進み丘に到着した。丘にはの小さな山小屋が建っていた。奇しくもその場所はトーマとの思い出の場所だった。
キィ…
扉の開く音と共に2人の人が出てきた。1人は髪の長い女性で、もう1人は情報がなければ女性と見間違えるほど細く華奢な身体つきをしていた。情報から考えると、彼がカルマなのであろう。カルマと思われる人物が両腕に何かをはめ込む。どうやら手の甲に付けるタイプの武器なのであろう。例えるのであれば、トンファーが手の甲にくっついていて、そのトンファー部分がナイフになっているような形の形状で初めて見るタイプのものである。
「…マ」
女性が彼の名前を弱々しく呟く。名前はちゃんと聞き取れなかったが、最後にマという言葉が聞こえたので、彼が、革命軍リーダーのカルマであることは間違いないだろう。いよいよカルマとの決着のときだ。
「私は王宮騎士団団長のリュートと言います。貴方が革命軍リーダーのカルマで間違いないかな?」
「だとしたら、どうだと言うんだ?」
リュートの問いに答えるカルマ。その声は抑揚もなく、まるで幽霊に話しかけられたのかのように生気のない声であった。
「だとすれば、私は貴方に交渉をしに来た」
「交渉?お前の言う交渉とは、人の尊厳を踏みにじり圧力をかける事をいうのか?」
「いや、違う…」
「違う?じゃあ、お前達が今やっていることはなんだ?縛られ拘束されている私たちのメンバーは、何をされているんだ?これが交渉?…さすがバルサだな?…」
「いや、私は…」
「うるさい」
リュートが、自分はオーダーだと伝えようとした瞬間その声に被せるかのごとくカルマが発言をする。そして、カルマはその言葉を発言した瞬間消えた…
シャッ!
カルマが消えた瞬間、耳に剣速の音が聞こえる。
キン!
「?!」
その攻撃を受けるリュート。攻撃をした、カルマの方を見てみると、わずかだがカルマの目が動く。どうやら、リュートが自分の攻撃を受けたことを驚いているようだ。リュートは攻撃を受けると、その勢いのまま、カルマに向け長剣を振り下ろす。
ザン!
その長剣が振り下ろされた先には、カルマは居なく長剣は地面に突き刺さった。
(恐ろしく早いだって?…恐ろしいなんてレベルではない。もう目の前にいないじゃないか、人間はこんなに早く動けるものなのか…)
「ちょっと待ってくれ!俺は争いに来たんではないんだ。少しでいい話を聞いてくれ。」
「話?お前と話して、なんで意味があるんだ」
リュートの返答に答えながらも、カルマは攻撃を続ける。その攻撃を受け流しながらリュートが話を続ける。
「意味のないことなんかない。今俺達がやってるこの争い事が本当に意味のないことなんだ。お互い同じ人間。話し合えば絶対に分かり合える」
「分かり合える?貴様らは口では上手いことを言って、規律という言葉を武器に弱いものから食料奪う悪魔ではないか!」
リュートの言葉に対し、だんだんと感情をあらわすカルマ。そのカルマの感情に合わせ、リュートも段々とヒートアップしていく
「そんなことはない。規律はこの国に生きるすべての人達を平等にするために必要なことなのだ」
「平等?弱き者から食料を巻き上げる平等などいくらやっても平和など訪れない。人々の自由があってこそ、本当の平和が訪れるのだ」
「お前らは何もわかっていない…平和な国?人々の自由?そんなものすべて幻想だ!規律がなければ何の意味もない…それこそが真の平和に近づく道だとなぜ気づかない!」
「お前こそ何も分かっていない…規律?お前達の考える規律とはなんだ?では、なぜ飢えに苦しむ人々がいなく無くならない?お前の言う規律こそ、幻想だ!」
「すべての事をいきなり変える事はできない。私達だってこの国をよくしようといろいろやっている。ただ…」
「もういい、お前と話すことは何もない。この勝負の勝者こそ真の正義。力なき正義など何の意味もない!」
「ならば!」
リュートの豪剣が空を切る。カルマの体格から見て、リュートの攻撃が当たりさえすれば勝利が決まることは確実であろうが、カルマのトリッキーで素い動きに翻弄され、リュートの間は空を切るばかり
対してカルマはトリッキーで素早い動きを武器に両手の甲から出ている剣で攻撃してくるのだが、こちらは逆にリュートの重厚な装備を破ることができず、決定打を与えることができない。
カルマは相性の悪さで力を発揮することができず。リュートの方は相性こそは良いもののカルマのあまりに素早い動きに対応ができない状況が続く。
リュートの剣はカルマの両手の甲の剣でいなされ、かわされ
カルマの攻撃はリュートの重厚な装備の前に決定打が与えられない。そんな状態が長く続いたその一瞬、ほんの一瞬に神が微笑んだ。
カルマの肘からのえぐりこむような剣がリュートの兜を捉え、兜を弾く。
「今だ!!」
仰け反るリュートに向け、カルマの渾身の一撃が振り下ろされようとしたその一瞬。リュートの顔を見たカルマが動きを止めた…
「まさか…」
リュートの顔を見たカルマがそう呟き動きを止めた。その一瞬をリュートは見逃さなかった。
「そこだ!!」
リュートが腰に収めている短剣を抜き、カルマの胸に向かい一直線に伸びたその瞬間、どこからか女性の声が
「やめて!!トーマを殺さないで!!」
「来るな!サーヤ!!」
その言葉を聞き、リュートの攻撃がズレる。リュートの突き出した短剣はカルマの胸を突き刺すことなく通り過ぎる。
「お前…まさか、トーマなのか?…」
「やっぱり…やっぱりハヤトくんなの?」
お互いがお互いを見つめ、凍りつく。目の前にいるトーマは、昔のトーマと違う明らかに別人であった。幼少期の頃にはオドオドして人の顔等まともに見ることができないほど気弱な少年だったはずのトーマが革命軍リーダーとして今、目の前にいる。その事実に驚き、言葉をまともに発せなくなる。
「ト…マ」
かろうじて出したリュート声を聞き、カルマはボロボロと涙を流す。そんなカルマに駆け寄り抱きしめるサーヤ。
「お願いです。お願いです!私からトーマを奪わないでください!トーマまでいなくなったら私…」
そう言いながらサーヤも涙を流す。
「違う…違うんだ。サーヤ、ハヤトくん、ハヤトくんなんだよ!」
「えっハヤト?ハヤトなの?!」
サーヤが驚き、リュートの顔を見つめる。その顔を見て、サーヤはまた泣き始める。しかし、先程の涙と違い、こちらの涙は嬉し涙である。
「トーマ、サーヤ、よく無事で…」
「ハヤト君こそ…」
リュートはそう言いカルマの肩に手を乗せようとしたその瞬間。
「カルマは殺らせん!!」
その声と共に一筋に矢がリュートの顔めがけて飛んできた。
「止めろ!チェン!」
カルマがその行動を止めようと声をかけるが、既に遅く、もう既に矢は放たれた後だった。本来であれば修行の成果で難なく、その矢をかわせるリュートであったが、この状況では、その本領を発揮することができず、かわすことができなかった。
ザシュッ!!
「グァァ〜」
リュートの目の前には矢に刺さったカルマの右手があった。
「何故だカルマ!」
矢を放った男は慌てふためきながらカルマに近づいてきた。
「チェン、違うんだ…彼は僕の友達だったんだ」
「彼ってそいつのことか?」
「うん。チェンには話したことがあるだろ?彼は、ハヤトだったんだ」
「でも、でも…」
「いいんだチェン…お前は何も悪くないよ。お前はただ俺を守ろうとしただけだ…」
カルマに刺さった右腕を見て、明らかにチェンという男は動揺している。
「いや、矢が刺さっただけだから適切な処理すればまだ間に合うはずだ」
動揺する2人に対し、リュートがそう答える。
「いや、無駄だよ…チェンの矢には毒が塗ってあるんだ」
「毒だって!!」
「あぁ…でも大丈夫後悔はしていない」
「いや、いやよ。トーマ、せっかくハヤトに会えたんだから…それなのにトーマがいなくなっちゃったら…」
「サーヤ…大丈夫。お前は強い。俺がいなくたって大丈夫。チェンやみんながついてるんだから…」
サーヤがカルマに抱きつく。サーヤ頭を愛おしそうに撫でながらカルマがリュートに呟く
「ハヤト君お願いがあるんだ…」
「どうしたトーマ?」
「せめて最後はハヤト君の手で逝きたい…」
「何を言ってるんだトーマ」
「お願い、お願いだよ…」
そうお願いをするカルマの腕は紫色に染まり始めていた。このまま胸まで色が到達した時点で死んでしまうのは目に見えている。それまで苦しむのであればいっその事…
「よし…わかった…」
「ありがとう、ハヤト君…」
そう言いながら目をつぶるカルマ。そのカルマに対し、リュートが剣を振り下ろす。
ザンッ!
「いやぁ~!!」
サーヤの声が響き渡る
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