第104話 力戦奮闘


---三人称視点---



 リーファ達が空の戦いを行っていた間、

 地上部隊の連合軍と帝国軍も激しい戦いを繰り広げていた。

 ラミネス王太子と騎士団長エルネス率いる連合軍の第三軍と第四軍。


 皇帝ナバール一世率いる本隊三万人の第一軍。

 シュバルツ元帥の『帝国黒竜騎士団ていこくこくりゅうきしだん』の第二軍。

 ラング将軍の『帝国鉄騎兵団ていこくてっきへいだん』二万五千人の第三軍。


 それらの部隊がアルネンブルク高原で相変わらず戦っていた。

 帝国軍の竜騎兵に対しては、連合軍も騎兵隊で対抗。

 『帝国鉄騎兵団ていこくてっきへいだん』の重装歩兵や重装騎兵に対しては、

 猫族ニャーマン兎人ワーラビットの魔導師で迎撃。

 またリーファやその盟友、勇者グレイスも魔法攻撃で敵を撃退した。


 そのような状況で何時間にも及ぶ戦闘が続いたが、

 帝国軍の怒濤の攻撃に対しても、

 連合軍は柔軟に動き、その進撃を食い止めていた。


「くっ、連合軍め。 想像以上にしぶといな。

 仕方あるまい、総参謀長! 第一軍の騎兵隊と魔導師部隊を前進させよ!」


「御意、第一軍の騎兵隊と魔導師部隊よ! 前進せよ!」


 皇帝の言葉に総参謀長フーベルグがそう命令を下す。

 このまま疲弊した敵部隊を殲滅する。

 というのが彼等の目論見だったが――


「……どうやら皇帝ナバールの本隊が来たようだな。

 ここは作戦通りに全部隊をアルネンブルグ高原の丘陵地帯まで

 後退させよ、兎に角ナバールの本隊とは戦うな!」


「了解です、王太子殿下。

 全部隊、アルネンブルグ高原の丘陵地帯まで後退せよ!」


 第三軍の副官レオ・ブラッカーがラミネス王太子の言葉に従う。

 この作戦はあらかじめ、部隊達にも伝えられていたので、

 予想以上に綺麗に兵を退く事が出来た。


 そして高原の丘陵地帯から、

 魔導師が魔法攻撃、弓兵アーチャー銃士ガンナーが弓矢や銃弾で敵を狙い撃つ。


「くっ、予想以外に敵の動きが迅速だ。

 連合軍め、余と戦う事を恐れているな」


「陛下、必要以上に敵を追うのか危険です」


「そうだな、総参謀長。 ならば各部隊の状況を把握しよう。

 本隊から各部隊に伝書鳩を送るのだ」


「御意」


 膠着した戦況に苛立ちを募らせる皇帝ナバール。

 そんな彼を更に憂鬱にすべく、連合軍の各部隊が帝国軍を苦しめる。


 シュバルツ元帥率いる竜騎士ドラグーン部隊は、

 先の戦いで疲労したシュバルツ元帥の動きと判断が精彩を欠いた事あり、

 連合軍の空騎士スカイ・ナイト部隊に苦戦を強いられた。


 その中でも空騎士スカイ・ナイト部隊のコカトリスに相乗りした兎人ワーラビット弓兵アーチャーロミーナが大活躍した。

 ロミーナはコカトリスに相乗りした状態で、

 次々と矢を放ち、竜騎士ドラグーンを乗せた飛龍の目や額を矢で貫く。

 その結果、十体以上の飛龍と戦闘不能及び飛行不能状態へと追いやる。


 また空騎士スカイ・ナイト部隊も一対一の戦いは避けて、

 二対一で飛龍と竜騎士ドラグーンという戦術を選んだ。

 気が付けば空の制空権も連合軍が握っていた。


 メストア平原で戦うシャーバット公子率いる連合軍の第一軍。

 帝国軍のハーン将軍率いる第四軍もシャーバット公子と

 騎士団長レイラ率いるサーラ教会騎士団も前進しては後退。

 といった攻め方でハーン将軍の第四軍を徐々に疲労させていく。


 痺れを切らしたハーン将軍が自身の騎士団ブラックフォース騎士団ナイツに、

 突撃を命じるが、シャーバット公子や騎士団長レイラはそれに付き合う事なく、

 部隊を更に後退させて、帝国軍の第四軍の行動線を伸ばさせた。


 それから潜ませていた犬族ワンマンの魔導師部隊。

 空戦部隊の空騎士スカイ・ナイトに相乗りした犬族ワンマンの魔導師達が

 地上と空中から帝国軍の第四軍に魔法攻撃の集中砲火を浴びせた。

 それによって帝国軍の第四軍の損害が拡大する。


「クソッ、連合軍の糞共めっ!

 ちまちまと卑怯な真似をしやがって!」


 と、怒りを露わにするハーン将軍。

 だがシャーバット公子率いる連合軍の第一軍は、

 躊躇う事なく、集中砲火を浴びせて帝国軍の第四軍を苦しめる。


 その結果、帝国軍の第四軍の受けた損害が拡大。

 攻め手を欠いたハーン将軍は泣く泣く第四軍を後退させた。

 だが連合軍の第一軍は無理に追撃はせず、

 自軍の陣形を維持したまま、戦況を見守った。


 ここまでの戦いは連合軍が優勢であった。

 だが帝国領の南部付近のジェルバ方面での戦いでは、

 タファレル将軍とバズレール将軍率いる帝国軍の第五軍が

 オルセニア将軍率いる連合軍の第二軍相手に奮闘していた。


 開戦当初から連合軍の第二軍は、

 北上して帝国軍の第五軍に執拗な攻撃を仕掛けたが、

 タファレル将軍は重厚な防御陣を敷いて、相手の勢いを消した。


 その後、連合軍の総司令官ラミネス王太子が

 全軍に重厚な防御陣を引くように命じて、

 オルセニア将軍率いる連合軍の第二軍もそれに従った。


「成る程、連合軍は皇帝陛下の仰ったように

 我が軍の各個撃破を狙っているな。

 だがこちらがそれに付き合う必要などない。

 ならばこちらは基本的には防御陣を敷いて、

 敵が後退したら前進して、敵の戦力を削る。

 という戦術を繰り返して、敵を疲弊させるぞ」


「了解しました」


 タファレル将軍の副官ミルザはそう言って、

 帝国軍の第五軍は言われた通りの戦術を実行した。

 前進と後退、また前進と後退。


 それによって連合軍の第二軍の行動が乱れ、

 タファレル将軍は弓兵や魔導師部隊の遠距離攻撃で

 徐々に相手の戦力と勢いを削った。

 するとオルセニア将軍も自軍を後退させて、自陣に籠もった。


 こうして連合軍と帝国軍の戦いが

 帝国本土の国境線付近で繰り広げられた。

 またセットレル将軍率いる連合軍の第五軍が

 帝国の同盟国バールナレス領に侵攻して、派手な戦闘を展開。


 神聖サーラ帝国軍が約四万。

 それにファーランド軍を一万加えた約五万人の第五軍は、

 セットレル将軍に命じられるまま、

 バールナレスの各地に攻め込み、各都市を次々と占拠する。


「ふん、帝国の属国相手というのは、少々不満だが

 ここでバールナレスを完全制圧すれば、

 我が神聖サーラ帝国の名声も高まる。

 兎に角、攻めて、攻めて、攻めまくるんだぁっ!」


 場の空気にほだされて吠えるセットレル将軍。

 だがそんな彼の思いとは裏腹に、

 バールナレスの最東部の国境線付近に、

 デーモン族『四魔将よんましょう』の『炎のネストール』。

 『風のメルクマイヤー』率いるデーモン族の大部隊が現れた。


「どうやらバールナレスに攻め込んでいるのは、

 連合軍に加勢した神聖サーラ帝国の連中のようだ」


「そうらしいわね、まあ相手は誰でもいいわよ。

 でもどうせなら戦い甲斐がある相手がいいわね」


「嗚呼、そうだな」


 ネストールはメルクマイヤーの言葉に頷いた。

 彼等の出現は連合軍とバールナレスに如何いかなる結果をもたらすか。


 そして空と陸の戦いに続くように、

 帝国領の港バルティスから多数の艦隊が出航して、

 北エレムダール海の三日月島付近で、

 帝国軍の国旗を翻して、

 帝国海軍総司令官のミストラル提督は威風堂々と敵艦の出現を待つ、


 二日後の10月3日九時十五分。

 エストラーダ王国の港レンディアからヴィオラール王国海軍、

 エストラーダ王国海軍の二ヶ国で結成された連合艦隊が集結して、

 三日月島の西湾岸にさっそうと現れた。

 北エレムダール海の三日月島界隈で、

 帝国軍海軍艦隊と連合艦隊による激しい海戦が繰り広げられようとしていた。

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