第103話 竜人族の元帥(後編)


---三人称視点---



 リーファが地上に離脱したが、

 グレイスとシュバルツ元帥の戦いはまだ続いていた。

 状況は互角のように見えたが、

 実際はシュバルツ元帥がやや優勢であった。


 グレイスも名を馳せた一流の冒険者であったが、

 相手は竜人族の竜騎士ドラグーン

 空の戦いではやはり向こうに分があった。

 またそれに加えて、グリフォールが予想外の反応を示した。


「グルゥゥッ!?」


 どうやら先程の魔法攻撃でグリフォールが少し怖じ気づいているようだ。

 グリフォールは、並みのグリフォンではなかった。

 調教に調教を重ね、更に研究を重ねた配合で産まれた超一流のグリフォンであった。


 騎乗者ライダーにはとても従順だが、けして臆病ではない。

 むしろ勇敢というべきだ。 

 だがとは云え、未経験な状況に陥るとやはり動揺はする。


 少なくとも、先程のシュバルツ元帥の空圧弾で一時的に混乱していた。

 それを即座に見抜いたシュバルツ元帥は、一気に攻勢に出た。


「そっちが来ないのなら、こちらから行かせてもらう!

 喰らうが良いっ!! ――ブラッディ・スイングッ!!」


「舐めないで! ――ハイ・カウンター」


 漆黒の斧槍ハルバードが大きく振り払われる。

 だがグレイス王女も負けじと右手に持った聖剣で切り払いを繰り出す。

 

 だが完全に防御ガードするには至らず、

 斬撃による衝撃でグリフォンと共に後ろに大きく後退するグレイス王女。 

 やはり斧槍ハルバードと聖剣ではリーチの差が大きい。

 そこからシュバルツ元帥は勝負を決めるべく、果敢に攻め立てた。


「――終わりだぁっ! ――ミリオン・スラストォッ!!」


 シュバルツはそう叫ぶなり、両手で持った漆黒の斧槍ハルバードでひたすら突きを繰り出した。 

 勢いに任せて放った帝王級の槍術スキル。 

 シュバルツは本能の赴くまま、ただひたすらに突きを放った。

 突き、突き、突き、突きの連打。


「流石は元帥閣下だ。 素晴らしい突きの連打だ」


「嗚呼、相手は勇者ブレイバーらしいが、

 空の戦いでは元帥閣下に分があるだろう」


 観客ギャラリーと化した周囲の竜騎士ドラグーン達が好き勝手に論評を始めた。

 だがそんな中でも副官エマーンは冷静に状況を読んでいた。


「いやよく見ろ! 敵は冷静に元帥の突きを防いでいる」


「えっ?」


 エマーンに指摘されて、周囲の野次馬も前方で戦う二人を注意深く観察してみた。

 確かにシュバルツの猛攻でグレイスが押されていた。 

 だがよくよく注意深く見ていると、

 グレイスは相手の猛攻を受け止めたり、受け流したり、

 切り払いとった防御技術ぼうぎょテクニックに駆使しながら、耐えていた。


 次第に攻撃を避けたりする回避行動が目立ち始める。 

 また彼女が乗ったグリフォンも今ではすっかり落ち着き取り戻していた。 

 現時点では防戦一方に見えるが、

 グレイスは必死に耐えて、反撃の機会チャンスを待っているのであった。


 その時であった。

 ひたすら突きを繰り出していたシュバルツ元帥の動きが僅かに鈍った。

 シュバルツは一度呼吸を整える為に、

 後ろに少し下がって間を取ろうとしたが、

 これまで防戦一方だったグレイス王女が一瞬の隙を突いて、反撃に出た。


「――アクセル・ドライブッ!」


「クルルゥゥ」


 中級風魔法によって、

 愛獣のグリフォールは加速したまま前進する。

 するとシュバルツ元帥が射程圏内に入った。


「――グランド・クロス』」


 グレイス王女は閃光のような速度で十字に剣を振るった。

 最初の一撃で胸に一の文字が刻まれて、

 次の縦切りでシュバルツ元帥の上半身に十字の形の剣傷が刻み込まれた。


「ご、ごはっ!?」


 聖王級せいおうきゅう剣技ソード・スキル

 しかもカウンター気味に放たれたので、綺麗に決まった。

 ここが絶好の機会チャンス

 それを悟ったグレイス王女は、

 左手を前に突き出して、シュバルツ元帥の近距離で砲声した。


「――サンダーボルトッ!!」


「くっ!?」


 爆音と共にシュバルツ元帥の全身が振り乱れる。

 至近距離で放たれた電撃がシュバルツの体内で暴れ狂い、

 その全身を容赦なく焦がす。

 だが短縮詠唱に加えて、初級の電撃魔法。

 故に相手を一撃で戦闘不能にする事は叶わなかった。


 だが相手の動きを止める事に成功したグレイス王女は、

 左手で手綱を握りながら、愛獣に命じた。


「――グリフォール、下がりなさい!」


 一度、距離を取って次には中級以上の電撃魔法を放つ。

 といった勝利の方程式の確立を試みるグレイスであったが、

 シュバルツ元帥も電撃によるダメージを耐えながら、

 左手を前方に突き出して、呪文を唱えた。


「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。 

 我に力を与えたまえ! 『シャドウ・ブラスター』ッ!!」


 呪文が紡がれるなり、シュバルツ元帥の左手の平から、

 漆黒の光線が一直線に放たれた。

 帝王級ていおうきゅうの闇属性魔法攻撃。

 直撃を喰らえば、致命傷は確実であった。


「グリフォール、急速降下よ!!」


「グルルルゥ……グッルルルァァァッ!!」


 咄嗟に急降下を試みたが、

 漆黒の光線がグリフォールの右翼を綺麗に撃ち抜いた。

 それによってグレイス王女を乗せたグリフォールが大暴れした。


「右の翼がやられたのね! 我は汝、汝は我。 

 神祖エレーニアの加護のもとに! ――ディバイン・ヒール!!』


 機転を利かせて上級回復魔法を唱えるグレイス。

 それによってグリフォールの右翼の傷は

 急速に癒やされたが、心の方のダメージまでは回復しなかった。


「グルルルゥ……」


 グリフォールが低い声で鳴く。

 どうやらこれ以上の戦いは無理のようだ。

 それを悟ったグレイス王女はグリフォールに労いの言葉をかけた。


「もうこの辺りが潮時のようね。

 いいわ、グリフォール。 これ以上戦わなくていいわ。

 もうアナタはゆっくり休んでいいわ。

 とりあえず今はこのまま降下して頂戴」


「グレイス王女、後の事は我々にお任せ下さい」


「王女殿下はこのまま降下して、地上部隊に合流してください」


 周囲の空騎士スカイ・ナイト達がそう告げる。


「分かったわ、後の事は任せるわ。

 グリフォール、もう無理しなくていいわ」


「グルルルゥ……」


 グリフォールがゆっくりと高度を下げていく。

 そんな中、グレイスは独り呟いた。


「少し調子に乗りすぎたようね。

 やはり空戦ではあの男――シュバルツ元帥には勝てないわ。

 でも戦いはまだ終わりじゃない。

 このまま地上部隊に合流して、再び戦うわ」


 ゆっくりと空が茜色に染まり始める中、

 グレイスはそう言って、次なる戦いに向けて決意を固めた。

 連合軍と帝国軍の戦いはまだまだ終わりそうになかった。

 そして兵士達は自身の役割を果たすべく、

 目の前の任務及び戦いに没頭するのであった。

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