第101話 竜人族の元帥(前編)


---三人称視点---



 女勇者おんなゆうしゃグレイスは手綱でグリフォンを操りながら、

 相手――シュバルツ元帥との間合いを中間距離に保つ。

 そして『耳錠の魔道具イヤリング・デバイス』でリーファと意思の疎通を図った。


『リーファさん、接近戦は極力さけるわよ。

 とりあえず中間距離から魔法攻撃を仕掛けるわ。

 私は初級から中級の風、電撃魔法で攻めるから、

 アナタは炎属性か、光属性で追撃して頂戴』


『王女殿下、了解です。

 ですが敵が強引に接近してきたらどうしますか?』


『今の私は約十分間、無詠唱で魔法を唱えられる状態よ。

 とりあえず三分間くらいは、

 中間距離で魔法攻撃で攻めるわ。

 相手が怯んだら、状況次第で接近戦を!

 アナタはグリフォンから落ちかけたら、

 飛行魔法『フライ』を使って上手く動いて頂戴』


『了解しました、微力を尽します』


『よし、それじゃあ行くわよ!』


 そしてグレイスはグリフォンに跨がった状態で、

 左右の腕を交互に動かして、前方に無数の風の刃を放つ。

 風属性の初級攻撃魔法の「ウインド・カッター」。

 

 一撃、一撃では大した威力にはならないが、

 グレイスは無詠唱で攻撃範囲を狭めながらも

 速度と精度を上げた状態で、風の刃をひたすら放った。


「ぬ……な、なんという数だ!

 ガルアーム、回避だ、あの風の刃を躱せっ!」


「ガルララアアアァッ!!」


 シュバルツ元帥の言葉に従い、

 ガルアームは上下左右に飛んで躱そうとするが、

 数十を超える風の刃を全て躱すのは流石に厳しかった。


「ぐ、ぐっ……奴等、無詠唱で魔法攻撃しているな」


「ガルルルアァッ!!」


 直撃こそ避けたが、

 シュバルツもその愛龍ガルアームも風の刃で身体の節々を切られた。

 そこで追い打ちをかけるべく、

 リーファが火炎属性魔法で追撃する。


「――ファイアバーストォッ!!」


 リーファは叫びながら、左掌から緋色の炎を放った。

 やや弧を描いた軌道で緋色の炎がシュバルツ元帥に迫る。


「ガルアーム、上へ飛べっ!!」


「ガルララアァァッ!!」


 あるじの言葉に従い、

 ガルアームは両翼を羽ばたかせて飛翔する。

 それによって迫り来る緋色の炎を見事に回避した。


「……奴等、中距離戦で魔法攻撃を仕掛けるつもりだな。

 悪くはない戦法だ、だがそれならば俺にも手がある」


 そしてシュバルツ元帥は両足を伸ばして、愛龍の鞍の上で器用に立った。

 

『向こうも何か仕掛けるつもりね。

 でもそうはさせない、リーファさん。

 私は無詠唱でまた魔法攻撃を仕掛けるから、フォローをお願い!』


『了解です!』


 そしてグレイスは両手を前に突き出して、無数の風の刃を放出。

 しかし相手は帝国軍の元帥。

 同じ手が二度通用する相手ではなかった。


「――甘いっ!」


 シュバルツは次の瞬間、両手に持った漆黒の斧槍ハルバードを頭上に振り上げた。

 そして眉間にしわを寄せて、

 風の闘気オーラを篭めて全力で斧槍ハルバードを振り下ろす。


 すると漆黒の斧槍ハルバード穂先ほさきから、

 強力な風の闘気オーラが吐き出されて、

 グレイスの放った無数の風の刃に命中した。


 そして強力な風の闘気オーラと風の刃が混じり合い、

 激しい衝撃音を上げて、レジスト効果が発生。

 数秒後には風の闘気オーラも風の刃も綺麗に消え失せていた。

 

『なっ!?』


『王女殿下、レジストです! 相手はレジストしました』


『そのようね、流石は帝国軍の元帥。

 対人戦の能力もずば抜けているわね』


『王女陛下、敵は第二波を放つようです!』


 リーファの指摘通りシュバルツは、

 両手に持った漆黒の斧槍ハルバードを再び勢いよく振り上げた。 

 そして漆黒の斧槍ハルバードに闇属性の闘気オーラを宿らせて、豪快に振った。


 次の瞬間には、漆黒の斧槍ハルバードから放たれた闇色の波動が放たれた。

 シュバルツの持つ漆黒の斧槍ハルバードの名は魔槍まそうレオルバーシュ。

 魔槍まそうの中でもかなり名が通った一流の魔槍まそうだ。


 そして魔剣や魔槍は魔力や闘気オーラを注ぐことによって、

 魔槍に宿る強力な魔力を自由に変換させて、

 標的に向かって放つことが可能だ。 

 まともに命中すればリーファ達も無事では済まなかった。 


「――アクセル・ターン!」


 グレイスは咄嗟に上級風魔法『アクセル・ターン』を唱えた。 

 すると彼女等が跨がっていたグリフォールは、

 高速でターン旋回しながら、迫り来る闇色の波動を華麗に回避した。


『おお、見事な回避です!』


『まだよ! 奴の攻撃はこれで終わりじゃないわ!!』


「遅いっ! ――ハイパー・ジャベリンッ!!」


 シュバルツはそう叫びながら、

 手にした魔槍まそうレオルバーシュに闇の闘気オーラを宿らせて投擲。


「グルアァァァッ!!」


「き、きゃあああっ!!」


「あぐっ……左脇腹をやられたァッ」


 投擲された漆黒の魔槍が、

 グリフォン及びリーファ達の左横腹を綺麗に裂いた。 

 堪らず悲鳴を上げるグリフォールとリーファ達。


「――リバース!」


 シュバルツがそう口にすると、

 前方に投擲された魔槍が念動力サイコキネシスによって、

 シュバルツの手元に手繰り寄せられた。 

 武器を投げるのは最後の切り札だが、

 このように念動魔法を使えば、いくらかリスクを減らす事も可能であった。 


『り、リーファさん、今すぐ治癒を! ――ハイ・ヒール!!』 


「我は汝、汝は我。 

 女神サーラの加護のもとに! ――ハイ・ヒール!!」 


 グレイスとリーファは直ちに中級の回復魔法を唱えた。

 すると彼女等の左脇腹の傷が急速に癒やされていく。


「グリフォール、アナタの傷も治すわ。 ――ハイ・ヒールッ!!」


「グルルルゥ」


 再度、中級の回復魔法を唱えるグレイス。

 今のグレイスは無詠唱が可能な状態であったが、

 回復魔法に関しては、無詠唱で使用する事は出来なかった。


 回復魔法や治療系の魔法に関しては、

 無詠唱より短縮詠唱を利用した方が結果的に便利であった。

 そしてグレイスの回復魔法によって、

 愛獣グリフォールが受けた傷も綺麗に治癒された。


『これでグリフォールの傷も癒やされたわね。

 レッサン、私の強化能力きょうかアビリティの残り時間はいくつかしら?』


「残り二分を切っているよん。

 ちなみに敵も似たような状況だよん」


 グレイスの問いに暢気な声で答える守護聖獣レッサン。


『そう、ならばお互いの強化能力きょうかアビリティが切れるまで、

 中間距離での魔法戦を続けるわよ』


『王女殿下、しかしこちらが押され気味ですよ?』


『そんな事は百も承知よ。

 でも接近戦を挑むよりかは幾分かマシよ。

 どのみち空中戦では向こうに分があるわ』


『そうですね、でもあんな男を野放しにしていたら、

 こちらの空騎士スカイ・ナイト部隊が次々とやれれるでしょう』


『リーファさん、そういう事よ。

 だからもうしばらく私達であの男を食い止めるわよ』


『了解です』


『さあ、戦いはまだ中盤戦。

 リーファさん、覚悟を決めて戦うわよ!』


『はいっ!』


 不利な状況と知りながらも、

 グレイスとリーファは引き続き、シュバルツ元帥と戦う事を決意。

 彼女等も自分達が不利という事は充分に理解していた。


 だが彼女等は勇者ブレイバー戦乙女ヴァルキュリア

 それ故に不利な状況でも周囲を鼓舞するべく、

 自ら前線に立ち、戦うという選択肢を選ぶのであった。

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