第99話 ドラグーン(中編)


---三人称視点---


 

 アルネンブルグ高原に翻る帝国旗の下、

 連合軍の騎兵隊と帝国軍の竜騎兵隊は激しい戦闘を繰り返す。

 勢いでは竜騎兵隊が勝っていたが、

 連合軍の騎兵隊は周囲の前衛部隊と魔導師部隊と連携して、

 迫り来る竜騎兵隊を迎え撃った。


「真正面から敵と戦うな!

 こちらは後退しつつ、高原の丘陵地帯まで敵を引きつけるんだ。 

 そうすれば後は魔導師部隊が奴等を始末してくれる」


 騎兵隊の隊長クレーベルがそう叫ぶが、

 敵も馬鹿ではない、後退する騎兵隊を無理に追う事もなく、

 他の帝国部隊と共闘して、連合軍の勢いを奪う。

 このように両軍の地上戦は、帝国軍がやや優勢な状況が続いた。


 その一方でリーファ達は全力疾走で地を駆けて、

 連合軍の空戦部隊と無事合流を果たした。


「私はエストラーダ王国の第二王女の勇者グレイスよ。

 空戦部隊の皆さん、私に騎乗可能な魔獣を預けてください。

 それとこちらの兎人ワーラビット弓兵アーチャー

 魔獣に相乗りさせて頂戴!」


 だが既に多くの空戦部隊は空に飛び立っていた。

 とはいえグレイスはエストラーダ王国の第二王女。

 それ故に無視する訳にもいかなかった。


「グレイス王女殿下、それとそちらは戦乙女ヴァルキュリア殿ですか?」


 ベテランらしき中年の男性ヒューマンがそう声を掛けてきた。


「ええ、そうよ」「はい、そうです」


「伝令兵から話は聞いております。

 王女殿下のご要望通りグリフォンをこちらに用意してます」


「それが私が乗るグリフォンかしら?」


 グレイスはそう言って前方の鉄柵に繋がれた立派なグリフォンを見据えた。

 折りたたんでいる翼を抜かした大きさは、三メーレル(約三メートル)程であった。

 頭部には鋭い橙色の双眸と見事な黄色のクチバシ。

 

 獅子の身体は茶色と白の体毛で綺麗に彩られており、

 全身が鍛え抜かれた筋肉に包まれている。

 グレイスは一目見て超一流のグリフォンという事を悟った。


此奴こいつは超一線級のグリフォンですよ。

 性格は基本的に温厚ですが、

 ピンチの際には的確な判断の下で動きますよ。

 調教テイムの方はほぼ完璧ですが、

 騎乗者ライダーを認めないと非協力的になります」


 中年の男性ヒューマンがそう言って、グレイスに視線を向ける。

 するとグレイスはグリフォンの近くまで歩み寄った。


「グルゥ」


「……見た目も美しいけど、賢そうな目をしてるわね。

 そこのアナタ、この子の名前を教えて頂戴」


「……グリフォールですよ」


 と、中年の男性ヒューマン。


「グリフォール、良い名前ね」


「グルルゥン」


「もしかして私の言葉を理解しているの?」


「グルウウン」


 グレイスの言葉に対して、

 グリフォールが肯定するような鳴き声を出す。

 どうやら本当にグレイスの言葉を理解しているようだ。


「賢い子ね、グリフォール。

 私とそこのリーファさんを乗せてもらえるかしら?」


「グルゥ」


 眼前のグリフォンはグレイスの言葉に従うように身を屈めた。


「ありがとう、グリフォール」


「グルルルゥ」


「そこのコカトリス乗りの空騎士スカイ・ナイトさん!」


「え? 俺かな?」


 と、自分で自分を指さす男性エルフの騎乗者ライダー


「ええ、アナタよ。 アナタのコカトリスに、

 こちらの兎人ワーラビット聖弓兵セイントアーチャーを乗せて頂戴」


「了解です、じゃあそこの君!」


「私の名前はロミーナですわよ」


「ロミーナさん、俺の後ろに乗ってください」


「はいだわさ」


 そしてロミーナはコカトリスに相乗りした。

 

「じゃあリーファさん、私達もグリフォールに乗るわよ」


「はい」


 グレイスはグリフォンの鞍の上に跨がり、

 両手に手綱を握りながら、あぶみに足を乗せた。

 そしてリーファはグレイスの後ろに跨がった。


「良し、じゃあグリフォール!

 準備は完了よ。 さあ、空へ羽ばたいて頂戴」


「グルルルゥ」


 そしてグリフォールは、

 背中に生えた立派な両翼を羽ばたかせて空に飛び立った。

 凄まじい上昇能力でぐんぐん高度が上がって行く。


「リーファさん」


「はい、王女殿下」


「この上空では会話もままらないわ。

 だから今後は『耳錠の魔道具イヤリング・デバイス』で会話するわよ」


『了解です』


『じゃあグリフォール!

 このままの高度で前進して頂戴!!』


「グルルゥ」


 グリフォールは翼を広げて空を滑空する。

 敵との距離がドンドンと縮まるが、

 やや鋭い風が二人の顔をなでるなか、二人は表情を引き締める。


『リーファさん、アナタは飛行魔法「フライ」を使えるかしら?』


『ええ、使えます』


『じゃあもしグリフォンから落下したら、

 「フライ」を使って何とかしのいで頂戴』


『はい、分かりました』


『じゃあそろそろ行くわよ。

 リーファさん、戦闘態勢に入って!』


『はい』



---------


 帝国領のアルネンブルグ高原。

 その高原の上空に無数の飛龍やグリフォン、

 コカトリスが両翼を羽ばたかせて舞っていた。


 シュバルツ元帥率いる竜騎士ドラグーン部隊は、

 中央に主力部隊100名を置いて、左翼の第二陣に50人。

 右翼に女性の竜騎士竜騎士ドラグーン部隊20名と男性の竜騎士竜騎士ドラグーン部隊20名を配置した。 


 対する連合軍の空騎士スカイ・ナイト部隊も同様に、

 左翼、中央、右翼と三つの軍団編成で敵を迎え撃った。

 数と勢いでは帝国軍が圧倒的有利であったが、

 連合軍には女勇者おんなゆうしゃグレイスと戦乙女ヴァルキュリアリーファが居た。


「とにかく一匹でも多くの敵を倒すのよ!

 敵の主力部隊には複数人で対応して! 

 接近戦は避けて魔法攻撃で動きを封じるのよ!」


 グレイスの言葉に周囲の空騎士スカイ・ナイト達は「了解」と答えて頷いた。

 するとグレイスは左手を軽く上げて「突撃っ!」と号令を下した。

 そして敵との距離が狭まなり、

 相手の隙を突くように魔法攻撃を仕掛けた。


「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。 

 我に力を与えたまえ! ――サンダーボルト!」 


「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。 

 我に力を与えたまえ! ――ファイアバースト!」 


「――我々も後に続くぞ! 『ワール・ウインド』!」


「おお! 『ワール・ウインド』!」


 グレイスに続くように、他の空騎士スカイ・ナイトも風属性の攻撃魔法を唱えた。

 旋風が巻き起こり、風の刃が前方の帝国軍の飛龍部隊に目掛けて放たれる。

 すると虚を突かれた飛龍やワイバーンに騎乗した竜騎士ドラグーン達は、

 魔法攻撃をまともに受けて、

 飛龍やワイバーンの鞍から落ちて、地上目掛けて落下して行った。


「怯むなぁっ! 慌てず対魔結界を張るんだぁっ!」


 後衛に陣取るシュバルツ元帥がそう叫ぶ。

 だが不意を突かれたことで、帝国軍の飛龍部隊の反応が僅かに遅れた。

 そしてグレイスとリーファはその隙を見逃さなかった。


「――遅い! 我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。 

 我に力を与えたまえ! ――トルトニス!!」 


 グレイスが呪文をとなると、前方に雷鳴が響き渡った。

 次の瞬間、前方の敵集団の頭上に雷光が発生して、

 凄まじい轟音と閃光が飛龍部隊に衝撃を与えた。


「う、う、うあああぁっ……あああっ!!」


「……電撃魔法だ! 全員、警戒態勢を取れ!!」


 シュバルツ元帥が叫ぶが周囲の飛龍部隊は混乱状態に陥っていた。

 そこから間を置かず、今度はリーファが追い打ちをかけるべく次の手を打った。

 リーファは頭上に左手をかざし、掌を大きく開きながら呪文を唱え始める。


「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。 

 我に力を与えたまえ! せいやぁっ!! 『フレアバスター』」


 リーファは左手に魔力を集中させて、大声で叫んだ。

 次の瞬間、リーファの左掌から眩く輝いた光炎フレアが放出される。

 リーファの聖王級せいおうきゅうの火炎攻撃魔法。 

 放たれた光炎フレアは、絶大な破壊力で、

 帝国軍の飛龍部隊の飛龍を騎乗者ライダーごと焼き殺した。


「ギ、ギャアアアァッ!!」


「う、うあああぁ! あ、あ、あああぁっっ!!」


 断末魔を上げる飛龍と騎乗者ライダー


『リーファさん、やるじゃない!』


『いえいえ』


『よーし、この調子でドンドン敵を倒すわよ!』


『はいっ!』


 そしてグレイスは手綱を握って、

 愛獣グリフォールを操りながら、

 自由自在に空を舞い、敵を次々を撃墜していった。

 だがそんな彼女等の前に一人の男が立ちはだかった。


「なかなかやるな、だがこれ以上は好き勝手にさせぬ」


 漆黒の飛龍に跨がった漆黒の鎧を着た竜騎士ドラグーン

 竜人族のシュバルツ元帥が漆黒の飛龍を操りながら、

 リーファ達と一戦交えるべく、空を飛翔する。


 勇者ブレイバー戦乙女ヴァルキュリア

 そして竜人族の竜騎士ドラグーンとの戦いが始まろうとしていた。


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