第93話 運命の会談(中編)


---三人称視点---



「では肝心の戦術について語らせてもらいます!」


 ラミネス王太子が覇気に満ちた口調でそう告げた。

 すると列席者がいっせいに前方の黒板に貼られた地図に目線を向けた。

 ラミネス王太子は小さく咳払いしてから、

 聞き取りやすい明瞭な声で言葉を続けた。


「といっても基本戦術は非常にシンプルなものです。

 前回の戦い――「エルシャインの大攻防戦」では

 敵の空戦部隊及び空騎士スカイナイトに苦戦を強いられました。

 よって今回の帝国の本土決戦では、

 各部隊に二百から三百の空騎士スカイナイトを配置しようと思います」


「そうですな、それがいいワン」


「うむ、ボクも賛成ニャン」


「そうね、それが妥当ね」


 シャーバット公子、ニャールマン司令官、グレイス王女がそう答えると、

 周囲の列席者も反対意見を述べる事なく、王太子の言葉を待った。


「また味方の空騎士スカイナイト部隊が制空権を押さえたら、

 各部隊に配置された獣人の魔導師や攻撃役アタッカーをグリフォンやコカトリスに

 相乗りさせて、獣人部隊による空からの魔法攻撃や遠隔攻撃で

 敵部隊にダメージを与えたいと思います」


「成る程、獣人を相乗りさせるのか。

 それはなかなか名案だワン」


「うむ、小柄な獣人の弱点を補う良い戦術だニャン」


「そうですね、私はこの戦術を支持します」


 獣人の代表者は納得したかの様な表情を浮かべる。

 

「まあ悪くない戦術ね」


「うむ、理にかなってますな」


 グレイス王女とセットレル将軍も相槌を打つ。


「ご理解して頂き、ありがとうございます。

 では次は対ナバール戦における具体的な戦術を述べます。

 私はこれまでの幾多の戦いから研究に研究を重ね、

 怪物ナバールの戦術を研究してきました。

 過去の獣人領、ファーランド、バールナレスの戦いでは

 ナバールの包囲と突破の技術は神業の領域に達してます」


「うむ、我等パルナ公国も手ひどい目に合いました」


「……我がジェルミアも同様です」


「ええ、確かに彼奴きゃつは戦争の天才です。

 ですがそれはナバールが直接指揮を執った場合に限ります。

 現に我々はこれまでナバール不在の帝国軍の将軍を何人も倒してきた。

 帝国軍は決して無敵の軍隊などではない。

 ナバールの指揮なしでは、配下の将帥をそこまで恐れる必要はない」


「それで王太子殿下は具体的に何が言いたいのかしら?」


 と、グレイス王女。

 するとラミネス王太子は黒板の地図を指揮棒で指した。


「つまりガースノイド帝国の将軍達は、

 ナバールから直接の指揮を与えられる事に

 慣れすぎているという事なのです」


「成る程、確かに連合軍を結成して以来、

 戦乙女ヴァルキュリア殿の活躍もあり、

 我々は帝国の将軍を討ち取る事に成功していますな。

 強い事は強いけど、イメージしていた程ではありませんな」


 と、オルセニア将軍。


「話を聞く限りそうみたいね。

 要するに帝国軍はナバールが直接指揮しないと、

 その力を発揮出来ない、という訳ね」


「王女陛下の仰る通りです。

 これまでの戦いは戦場の規模も小さく

 命令を受けて動く兵士達も小規模でしたので、

 帝国軍はナバールの迅速な指揮のもとでその力を発揮しました。

 ですが今回のような大戦では、

 ナバールの命令だけで直接全軍を指揮する事は不可能です」


「成る程ワン」「成る程ニャン」


 ラミネス王太子の言葉に周囲の列席者も納得したようだ。

 そしてラミネス王太子は、

 指揮棒を片手に持ちながら、更に言葉を紡いだ。


「今回のように拡大した戦場を動かす為には、

 基本的な戦略だけ定めて、後は各将軍に

 進退攻防を任せるという訓令戦法しかありません。

 そこで敵が孤立したところを各個撃破すれば、

 自ずと勝利は見えてきます」


「うん、なかなかの戦術だわ。

 でももし戦場でナバールと遭遇したらどうすれば良いの?」


「王女陛下、その時は逃げてもらって構いません。

 その代わり他の将軍達の部隊は徹底的に攻撃するのです。

 そうやって帝国軍を右往左往させて、疲弊させて行くのです。

 帝国に対しては包囲網を敷いた状態で籠城戦を行う、

 という手段もあります。 いずれにせよ長期戦も

 視野に入れた忍耐力が求められる戦いになるでしょう」


「う~ん、逃げるという戦術は性に合わないけど、

 勝つためだわ。 私も王太子殿下の命令に従うわ」


「そうしてくれると助かります。

 但し敵軍のラング将軍とシュバルツ元帥には要注意を。

 二人ともかなり高い戦闘力を有しております。

 特にシュバルツ元帥の「帝国黒竜ていこくこくりゅう騎士団」には

 細心の注意を払うように、騎士団員の大半が

 上級職ハイクラス竜騎士ドラグーンです」


「……私の耳にも連中の噂は入っているワン」


「飛龍に乗った竜騎士ドラグーン部隊は、

 過去の戦いでも多大な戦果をあげてますね」


 と、教会騎士団の新団長レイラ。

 その言葉を聞くなり、グレイス王女が不敵な笑みを浮かべた。


「面白そうじゃない、分かったわ。

 その「帝国黒竜ていこくこくりゅう騎士団」の相手はこの私と

 戦乙女ヴァルキュリアのリーファさんが引き受けるわ」


「わ、私ですか!?」


 突如の指名に驚くリーファ。

 だがグレイス王女は笑顔のままリーファに語りかける。


「いいじゃない、どうせ誰かが相手する必要があるわ。

 勇者ブレイバーの私と戦乙女ヴァルキュリアのアナタが

 協力すれば、不可能も可能に変えれるわ」


「……」


 やれやれ、このお姫様は本当にお転婆ね。

 でも大勢の前で指名されて逃げる訳にもいかないわ。

 と、内心で思いながらリーファは大きく頷いた。


「了解致しました。 その大役引き受けさせて頂きます」


「うん、期待しているわよ」


「うむ、これで基本的な戦術も決まりましたな。

 この戦いに勝てば再び平和が訪れるでしょう。

 云わばこの戦いは悪しき帝国を倒して、

 このエレムダール大陸に平和を取り戻す聖戦せいせんなのです。

 この聖戦に勝つ為に全員で協力して、この手で帝国を倒しましょう!」


 ラミネス王太子は力強くそう叫んだ。

 それに連動するかのように「我々の手で帝国を倒すのだ!」

 と、他の面々が続く。高揚感と使命感が渦巻きながら、

 それぞれが異なる思いを抱いて戦地へ赴こうとしていた。


 その一方でガースノイド帝国の皇帝ナバールも

 帝都ガルネスの帝城ガルネスに各将軍を集結させた。


 連合軍と帝国軍。

 その両軍の戦いが佳境に迫る中、

 皇帝ナバールも覚悟を決めて、

 次なる戦いに向けて、御前会議を行おうとしていた。

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