第49話 安息の日々(後編)


---三人称視点---



 王都アスカンブルグは、主に四つの地区に分類される。

 北側に位置する居住区。 民家やアパートメントなどが立ち並ぶ区画であり、

 その一等地には貴族の邸や別荘などが建ち並んでいる。

 そしてその最北端に王城やアスラ宮殿、離宮などがある。


 南側には冒険者区。 

 冒険者ギルドを中心に、仕事を求める冒険者たちが集まる場所である。

 冒険者向けの店や宿屋、酒場なども充実している。

 町の郊外にはサーラ教の教会や墓地があり、神父やシスターなどの姿もちらほら見かける。

 

 住人の気質からして、やや喧騒が激しく野卑な空気を放っているが、治安は良い。 

 問題を起こした冒険者は宿屋や酒場から出禁できんをくらうので、喧嘩はご法度。度を過ぎた喧嘩、暴力行為などは自警団に捕縛され拘留、最悪死刑もある。

  

 東側はあらゆる業種が集まる商業区。

 小売店から、行商、競売場での競り市など多くのビジネスチャンスがあり、

 冒険者区と並ぶ活気に満ちた区画である。 


 大手の商会や職人ギルドの本部もあり、鍛冶、錬金術などの工房も多く、

 世界各地から腕に覚えがある職人が集い、そのスキルと質は世界でも有数である。


 西側には娯楽区。

 賭博場、闘技場、劇場、歓楽街などがある娯楽に満ちた区画。

 特に夜になると、喧騒と嬌声が絶えず、ありとあらゆる快楽を提供してくれるが、

 治安は悪いので、一人歩きには要注意。 


 尚、十五歳未満は賭博場、闘技場の入場は禁止。 

 歓楽街も夜の十九時を過ぎると、立ち入り禁止である。 

 童顔の者は冒険者の証などの身分証明を用意しておくのが、常識となっている。 


 これらの四つの区画で構成されたのが、王都アスカンブルグである。

 そしてリーファ達は十五分程歩いて、冒険者区のギルドハウスに到着。

 王都のギルドハウスは赤い煉瓦れんが造り三階建ての立派な建物だ。

 とりあえずリーファ達は、正面の入り口からギルドハウスに入った。


「いらっしゃいませ! お仕事の案内なら奥のカウンターへ、

 お食事をするなら、空いてる席にご自由にお座りください」


 赤髪のセミロングのヒューマンのウェイトレスが、そう言ってリーファ達を出迎える。ここのギルドハウスも他と同様に酒場が併設されていた。

 鎧を着た剣士や戦士。 ローブを着た魔導師、回復師ヒーラーの姿があり、

 その一団が遠巻きから、リーファ達に視線を浴びせていた。 


 だがリーファ達は表情を崩さず、受付のカウンターに向う。

 受付は五人。 四人が女性で一人がヒューマンの青年だ。 

 リーファはここはあえて男性の受付に並んだ。


「お客様、今日はどういったご用件でしょうか?」


 受付のヒューマンの青年は清潔感のある中性的な美男子だ。

 ギルド職員の制服である黒のスーツとパンツという格好が妙に様になっている。


「……私の職業ジョブのスキルの割り振りに関して、

 アドバイスが欲しいわ、これが私の冒険者の証とスキルの一覧表よ」


 リーファはそう云って、

 受付口に自分の冒険者の証とスキル一覧表の羊皮紙を置いた。


「畏まりまし……え、えっ!?」


 思わず驚く受付のヒューマンの青年。

 

「この事は内密にね。 どう? 相談に乗ってもらえるかしら?」


「少々、お待ちください。 今、上司に相談します」


「ええ、それで構わないわ」


 そして受付のヒューマンの青年は、奥の部屋に引っ込んだ。

 それから五分ほど経つと、

 ヒューマンの青年が戻って来て――


「お客様、上司の了解が取れました。

 とりあえず奥にある談話室へ移動しても宜しいでしょうか?」


「ええ、よくってよ」


「それじゃあちらの談話室へ向かいましょう。

 お連れ様もどうぞ!」


「じゃあ行くわよ」


「「はい」」「ウン!」


 そしてリーファ達は奥の談話室へ移動した。



---------


 談話室には二つの黒革のソファが部屋の手前と奥に置かれており、

 リーファとアストロスは奥のソファに座り、

 エイシルとジェインは手前のソファに腰掛ける。

 そして受付のヒューマンの青年は、

 その近くで綺麗な姿勢で立っていた。


「とりあえずお客様方でご相談してください。

 私は問われた質問に答えますので、

 どうか私気兼ねなくご相談してください」


「ありがとう、何かあれば質問するわ」


「はい」


 そしてリーファはスキル一覧表が書かれた羊皮紙に目を通す。

 先の戦いでリーファの戦乙女ヴァルキュリアのレベルは36まで上昇した。

 現在のスキルポイントは50ポイントが余っている状況だ。


「しかしこれだけポイントがあると、

 何処に割り振るか、悩むわね」


 思案顔でそう漏らすリーファ。


「そうですね、現状でも戦乙女ヴァルキュリアは、

 攻防のバランスも良く回復も出来る万能職ばんのうしょくですが、

 今後の戦いを考えれば、強化する方向を決めたいですよね」


 と、アストロスが尤もな意見を述べる。

 アストロスの言うように、現状でも戦乙女ヴァルキュリアはかなり強い。

 攻防のバランスに加えて、攻撃魔法も回復魔法も得意とする万能職ばんのうしょくだ。


 だが言い換えれば何でも出来る器用貧乏とも言えなくない。

 だから強化する方向性を定める必要がある。


「現状においては、攻撃魔法や回復魔法はエイシルに任せるべきよね。

 ならば上げるなら、剣技ソードスキルか、パッシブ・スキル。

 あるいは特定のスキルや能力アビリティに狙いを絞るのも悪くないわね」


「リーファさん、少しそのスキル一覧表を貸してください」


「エイシル、いいわよ」


「……どうもです」


 リーファからスキル一覧表が複写された羊皮紙を受け取るエイシル。

 そして彼女はスキルの項目と職業能力ジョブ・アビリティの項目を

 優先してチェックしていく。


 五枚の羊皮紙をじっくり読み込む事、三分余り。

 エイシルは左手の指で顎を触りながら「うん」と頷いた。

 するとリーファや他の仲間もエイシルに視線を向ける。

 皆の視線を受けながら、エイシルは「コホン」と咳払いする。

 そして軽く深呼吸してから、自分の意見を述べ始めた。


「今までの戦いを見る限り、

 リーファさんの戦乙女ヴァルキュリアは、

 「能力覚醒」と「魔力覚醒」、そして守護聖獣と「ソウル・リンク」すれば、

 一騎打ちならば殆どの敵、魔物、魔獣に勝てると思います。

 ですからこの際、スキルポイントで、

 能力値ステータスをわざわざ上げる必要はないと思います」


「そうね、確かに基本的な戦いはエイシルの言うとおりね」


「ええ、ですから今回のスキルポイントの割り振りは、

 スキルや能力アビリティに狙いを絞る事にしました。

 そしてその中で良いと思うスキルを見つけました」


「……それは何かしら?」


「これです、攻撃魔法の項目で習得出来る『速射そくしゃ』です!」


「……速射そくしゃ? どんなスキルかしら?」


「連続して攻撃魔法や回復魔法を使えるスキルです。

 短縮詠唱と合わせれば、かなりの早さで攻撃魔法が連射できますよ。

 上手く使えば独りで単独連携をする事も可能です」


 単独連携とはその名の通り、

 単独で連携攻撃する高等技術だ。

 これを使いこなせば、戦闘の幅がかなり広がる。


「単独連携ね、まあ今の状態でも出来なくはないけど、

 速射があった方がやりやすいわよね。

 速射の発動前に「魔力覚醒」を発動すれば、

 初級魔法の連射だけでも、効果的に戦えそうね」


「です、です」


 リーファの言葉に相槌を打つエイシル。


「ですがお嬢様、欠点もありますよ?」


「アストロス、どんな欠点かしら?」


「簡単に言えば燃費の問題ですね。

 今までは「魔力覚醒」や「能力覚醒」を使えば大抵の敵に勝てましたが、

 今後はそれも通用しない相手が出てくる事もあると思います。

 「魔力覚醒」も「能力覚醒」も蓄積時間チャージ・タイムがある

 蓄積技チャージ・スキル。 もしこれらを発動して

 勝てなかったら、お嬢様は魔力切れ状態になって敗北するでしょう。

 私の「魔力マナパサー」で魔力を補充するのも限界があると思いますし」


 アストロスの指摘は理にかなっていた。

 確かに今までの戦いでは、リーファは常に優位に戦っていた。

 だが今後もそれが続くとは限らない。


 とはいえ「速射」が便利なスキルである事には変わらない。

 要は使い方を間違えなければ良いのだ。


「忠告ありがとう、でも私はやっぱり「速射」を習得したいわ。

 要は使い方さえ間違えなければ、

 有効なスキルである事には変わらないわ」


「お嬢様がそう仰るなら、私も止めはしません」


「じゃあお姉ちゃん、攻撃魔法の項目にポイント全振りするの?」


 と、ジェイン。


「ええ、そうするわ。

 受付係さん、私の能力値ステータスから、

 何ポイント振れば、『速射』を習得出来るか分かるかしら?」


「……少々お待ちください。 今、スキル表を確認します」


 ヒューマンの青年はそう言って、スキル表に目を通した。

 そして何度も何度も確認した上で、彼はこう言った。


「そうですね、今ある50ポイント全部を

 攻撃魔法の項目に振れば、習得出来ますね」


「そう、ありがとう。 ならば善は急げよね」


 リーファはそう云って、自分の冒険者の証に右手の人差し指で触れた。

 すると『常時・魔力+50』、『常時・攻撃魔力+50』をパッシブスキルとして習得。

 更に神帝級しんていきゅうの火炎属性魔法の『炎殺えんさつ』、

 聖王級の光属性と炎属性の合成魔法『シャイニング・ティアラ』を習得。

 そしてスキル『速射』も無事に習得。


「あっ……まただわ、力が漲ってくる」


「お姉ちゃん、ステータスを確認しようよ」


「……そうね」


---------


 名前:リーファ・フォルナイゼン

 種族:ヒューマン♀

 職業:戦乙女ヴァルキュリアレベル36


 能力値パラメーター


 力   :1075/10000

 耐久力 :1785/10000

 器用さ :765/10000

 敏捷  :1403/10000

 知力  :1982/10000

 魔力  :3466/10000

 攻撃魔力:1975/10000

 回復魔力:2012/10000


 ※他職のパッシブ・スキル込み


 魔法  :ヒール、ハイヒール、ディバイン・ヒール

      キュア、キュアライト、ホーリーキュア

      プロテクト、クイック、アクセル、フライ

      フレイムボルト、ファイアバースト、フレアバスター、

      炎殺、ライトボール、スターライト、

      ライトニングバスター、シャイニング・ティアラ


 スキル :結界、対魔結界、封印結界、戦乙女の陣

      戦乙女の波動、戦乙女の祝福、速射


武器スキル:イーグル・ストライク、ヴォーパル・ドライバー

      ダブル・ストライク、トリプル・ドライバー

      ハイ・カウンター、グランドクロス、

   ライトニング・スティンガー,

   シールド・ストライク

      正拳突き、ローリング・ソバット、掌底打ち

      

 能力  :予測眼 分析眼 魔力探査

      能力覚醒、魔力覚醒、メディカル・リムーバー


---------


「……凄いわ、全体的に数値が上がっている」


「どれどれワン、あぁっ!! これは凄いワン」


「私も見たいです」「おなじく」


 ジェインに続き、アストロスとエイシルもリーファの冒険者の証を確認する。


「「凄い!」「ホントに凄いワン!」


「そうね、でもあまり自分の力を過信しない事にするわ。

 アストロスが指摘するように、今後はもっと強い敵と遭遇する事もあるでしょうし、まあでもこれで用事は済んだわ、係員さん、ありがとうね」


「いえいえ、お役に立てたようで何よりです」


「じゃあ皆、屋敷まで戻るわよ」


「「はい」」「ウン」


 そしてリーファ達はギルドハウスを後にした。

 今回の強化でまた一段と強くなったリーファだが、

 自分でも自分の強さに溺れていた自覚はあったので、

 今後はそういった感情を抑える事を決意した。


 それからリーファ達は次なる戦いに入る前に、

 残された数週間の休暇を心から楽しんだ。

 それと同時に連合軍、サーラ教会。

 そしてガースノイド帝国といった三勢力も水面下で蠢き始めた。

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