第48話 安息の日々(中編)


---主人公視点---


 商業区を歩くこと、十五分余り。

 私達は目的地である高級仕立屋オートクチュールに到着。

 目の前には王都でも有数の商会、

 リブリース商会の五階建ての白い建物が見えた。


 ここがリブリース商会が管理する衣服、防具用の高級仕立屋オートクチュールよ。

 建物の白い壁から薄らと魔力が漂っていた。

 これは恐らく強力な耐魔性の素材が使われてるわね。

 更にはこの建物自体にも結界が張られているわ。


 万が一、強盗されても問題ないように、

 防犯セキュリティー面にも力を入れてるようね。

 この辺りは一流の商会らしい配慮と言えるわ。

 まあいいわ、とりあえず中へ入りましょう。


「いらっしゃい……」


 私達が店に入るなり、

 黒いスーツ姿のヒューマンの女性店員が挨拶を途中で止めて、

 やや表情を強張らせて、素早い足取りでこちらにやって来た。 

 すると黒髪のセミショートの女子店員がこちらをじろりと一瞥する。


「お客様、当店は完全会員制となっております。 

 失礼ですが当店の会員証はお持ちでしょうか?」


 険のある声でそう問うヒューマンの女子店員。

 やれやれ、この子、駄目ね。

 自分が一流店で働いているから、

「自分まで一流」と勘違いしているタイプの店員だわ。


 まあ超高級店ではよくある事だけど、あまり感心しないわ。

 そして私がゴールドの会員証を見せると、女性店員は目を瞬かせた。


「こ、こ、これは大変失礼しました!

 ゴールド会員のお客様でしたか、申し訳ありませんっ!!」


 そう言って女性店員は深々と頭を下げた。


「アナタ、お名前は?」


「えっ? えっ?」


「私はアナタの名前を聞いてるのよ?」


「は、はい……ソシエ・メルダールです」


「メルダールさん、こういう事もあるから

 見た目だけでお客様を判断しない方がいいわよ?」


「は、はい……肝に銘じておきます」


「そう、それより支配人さんを呼んで頂けるかしら?

 フォルナイゼン家のリーファが来た、と言えば伝わるわ」


「ふ、フォルナイゼン家っ!?」


「そうよ、何をしているの?

 早く支配人を呼んできて頂戴」


「は、はいっ!!」


「……少々お待ちください」


 女性店員は言って奥の部屋へ引っ込んだ。 

 それから三分もしないうちに、ヒューマンの中年男性の支配人が慌ててこの場に来て、

 このフロアに居ると思われる十名以上の男性店員、

 女性店員を横一列に並らべさせて、大きな声でこう叫んだ。


「フォルナイゼン家のリーファ様とその盟友の皆様。

 ようこそリブリース商会の高級仕立屋オートクチュールへ! 

 本店はただいまより、リーファ様達の完全貸し切り状態となりました。 

 何か分からない事があれば、我々に何でも申しつけてください」


 と、全員が声を揃えて綺麗なお辞儀をする。

 この光景にはジェインもエイシルも目を白黒させていた。

 そして私は中年男性の支配人に視線を向けて、一言告げた。


「とりあえずこの三人の冒険者用の服を仕立てて頂けるかしら?」


「了解致しました、それではまず採寸をさせていただきますね」


「ええ、そうして頂戴」


 そしてアストロスとジェインは紳士用の試着室へ、

 エイシルは淑女用の試着室へと店員に誘導されて移動する。


 さて、三人の新しい服装をどうしましょう。

 アストロスは白いベストに黒のスラックス。

 その上から黒いコートを羽織るという格好。


 エイシルは半袖の青いインナースーツの上から

 淡い水色のローブを羽織るというシンプルなスタイル。


 ジェインは半袖の黒いインナースーツ。

 その上から黄緑色のコートとズボンを着るという格好。


 まあ冒険者としては、この格好で問題ないでしょう。

 でも戦乙女ヴァルキュリアの盟友としては、 

 もう少し身なりに気をつけて欲しいわね。


「とりあえず三人が今着ている同じ色のインナースーツで

 防刃性、対魔力の高い物を用意して頂戴」


かしこまりました」


「今回必要なのは礼服やドレスではなく、

 冒険者用の服よ、でも只の服じゃなくて、

 対魔力や各属性の耐性力がある素材で

 彼等が今、着ている物と似たような物を仕立てて頂戴」


「成る程、しかし冒険者用の高級仕立服となると

 それなりの費用とお時間を頂く事になりますが……」


 と、中年男性の支配人がこちらをちらりと一瞥する。

 まあ確かに冒険者用の高級仕立服となると、

 特殊な素材を使うから、結構な値段になるでしょうね。


 だから一人頭二百万を上限としましょう。

 でもアストロス達には値段は内緒にしておきましょう。

 多分、彼等は値段を聞いたら萎縮すると思うから。


「とりあえず一人あたりの費用は、上限二百万ローム(約二百万円)で!

 合計で六百万でお願いするわ」


かしこまりました。

 使用する素材はこちらで決めて宜しいでしょうか?」


「そうね、任せるわ!」


「それでは約三週間ほど、お時間を頂けますか?」


「う~ん、出来れば二週間ぐらいで仕立てて頂戴。

 その分、料金は割り増しでいいから!」


かしこまりました。 

 では採寸が終わり次第、お仕事に取りかかります」


「では前金を払うわ」


 私は腰のポーチから金貨の入った皮袋取り出して、

 ローム白銀貨はくぎんかを三枚取り出して、支配人に手渡した。


「……確かに受け取りました」


「何かあった時は、フォルナイゼン邸に連絡して頂戴」


「はい」


 仕立服の出来上がりはまだ先になるけど、

 とりあえずこれで次の戦いに向けての準備は整ったわ。


「お嬢様、こちらは終わりました」


「ぼ、ボクも終わりました。 少し疲れました」


「オイラもちょっと疲れたワン。

 なんか身体を色々触られたワン」


 三人は疲れた表情でそう言った。

 やはり三人には、ここの空気は少し合わないようね。


「仕立服が出来上がるのは、約二週間後よ。

 それじゃあ私は今から冒険者ギルドハウスへ行くわ。

 先の戦いでレベルが5ほど上がったから、

 ギルドの係員に相談して、スキルポイントを割り振るわ」


「お嬢様、もうそんなにレベルが上がったのですか?

 私はレベル1上がった程度ですよ」


「ボクは結構敵を倒したから、3ほど上がりました。

 まだスキルポイントを振るつもりはないけど、

 ボクもリーファさんについて行っていいですか?」


 と、エイシル。


「オイラは2上がったよ、というかオイラも行きたいワン!」


「そう、なら皆で行きましょうか!」


「「はい」」「うん」


 そして私達は高級仕立屋オートクチュールから出て、

 冒険者区にあるギルドハウスを目指して、歩き出した。

 さてスキルポイントをどう振りましょうか。

 前に複写したスキル表を係員に見せて、助言してもらうのが無難よね。

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