第六章 戦乙女《ヴァルキュリア》の休息

第47話 安息の日々(前編)


---三人称視点---



 爵位授与式を終えたリーファだが、

 その後、茶会や夜会、舞踏会にも毎晩参加させられる事になった。

 みんなが美辞麗句を並び立てて、リーファとその盟友を称賛した。


 リーファ達としてもそれに対して悪い感情は、

 抱かなかったが、兎に角、休む間もなかったので、

 ある段階になると、それらのお誘いは全て断る事にした。


 このようにリーファとその盟友を取り巻く状況は、

 周囲が羨むような華麗なる日々のように見える一面もあったが、

 当人達は自分という存在が等身大以上に評価される事に内心で辟易へきえきしていた。


「ミランダ、もうこれ以上は夜会や舞踏会に参加しないわ。

 だから誰からお誘いがきても、全部断って頂戴」


「お嬢様、分かりました」


 疲れた声のリーファに対して、ミランダはハキハキした声で返事する。

 そして彼女はまた屋敷内の掃除の仕事に戻った。

 対するリーファ達はフォルナイゼン邸の一階の大広間で

 それぞれソファや椅子に腰掛けて、

 やや気を抜いた様子でのんびりとしていた。


 気がつけば既にもう一週間が過ぎた。

 今日の日付は聖歴せいれき1755年8月1日。

 残された休暇時間は約二週間。


 その休暇期間が終われば、リーファ達はまた戦場に戻る事になる。

 アスカンテレス王国における内乱では、

 ラミネス王太子とリーファ達の活躍によって勝利を収めたが、

 その一方で行われていた連合運と帝国軍の戦いでは、

 激しい戦闘の末に、連合軍が都市バンプールを帝国軍に奪回され、

 シャーバット公子は全軍を都市ロスジャイトまで撤退させた。


 その後は両軍自陣に籠もって睨み合う日々が続いている。

 連合軍としては、主力部隊であるアスカンテレス王国軍と合流。

 そして帝国の潜在的な敵国である神聖サーラ帝国と共闘関係を

 結びたかったが、先月のアスカンテレス王国の反乱騒動で

 二の足を踏む状況が続いている。


 反乱騒動を終えたラミネス王太子は、

 いち早く戦場に復帰したが、

 軍事的にも、政治的にも厳しい部分があり、

 「今の段階では帝国と再戦を行う事べきではない」

 と、周囲の首脳陣達にそう告げた。


 それに対してシャーバット公子をはじめとした

 連合軍の首脳部も納得した表情で王太子の意見に賛成する。

 

 対する帝国軍とその同盟軍も先の戦いで、

 ベルナドット将軍とネイラール将軍を失った。

 その損失は皇帝ナバールとっても計算外であった。


 特にネイラールの戦死に関しては――


「そうか、彼女も遂に天にされたか」


 皇帝ナバールも人目をはばからず落胆した。

 だがしばらくすると平常心を取り戻して――


「それはさておき、ペリゾンテ王国への援軍要請はどうなっている?」


「どうも国王ミューラー三世は援軍を渋っているようです。

 先の戦いでも五千人程しか援軍をよこしませんでした」


 皇帝の問いに淡々と答える総参謀長フーベルグ。

 すると皇帝ナバールは露骨に不機嫌な態度を取った。


「余は義父上ちちうえの、ミューラー三世の義息だぞ?

 ペリゾンテ王国め、裏で色々と画策してるようだな」


 すると宰相ファレイラスが温和な口調で皇帝を宥める。


「仮にペリゾンテ王国が連合軍についたとしても、

 戦って我が帝国領に併合すれば問題ないでしょう。

 ペリゾンテは皇后陛下の母国であります。

 併合した際に皇后陛下の弟君を国王の座に就けて、

 傀儡政権を作れば、その後の統治も上手くいくでしょう」


「……そう上手く行くものか?」


「……兎にも角にもやってみる価値はあります」


 と、ファレイラス。


「それとデーモン族の連中はどうしている?」


「デーモン族が統治するラマナフ大魔帝国だいまていこくは、

 一貫して中立の立場を貫いてますね。

 魔女帝まじょていドミニクも特に何もしてないようです」


 ナバールは宰相から魔女帝まじょていの名を聞くなり、

 表情を強張らせて、両手の指を組んで顎を乗せた。


「あの女狐めぎつねの事だ、どうせ良からぬ事を企んでいるだろう。

 だがとりあえず今は大魔帝国だいまていこくの事は無視して良い。

 まずは目の前の事に専念するぞ。

 とりあえず目の前に迫っている連合軍を叩かないとな」


 こうしてリーファ達の知らない所で、

 連合軍、帝国軍、ペリゾンテ王国。

 そしてラマナフ大魔帝国だいまていこくが水面下で動き出していた。



---主人公視点---



 休日も残り約二週間といったところかしら?

 この間にアストロス達の防具を仕立てておきたいわね。


 それが終わったら、ギルドハウスへ行きたいわ。

 先の戦いで、私のレベルも36まで上がったわ。

 次の戦いの前にきちんとスキルポイントを振り分けておきたいわ。


 まあそれはさておき、

 まずは高級仕立屋オートクチュールへ行って、

 アストロスやジェイン、エイシルの服を新調しましょう。


「アストロス、ジェイン、エイシル」


「「はい」」「はいだワン」

 

「この休みの間に貴方達の服、というか防具を新調したいから、

 今から高級仕立屋オートクチュールへ行くわよ」


 私がそう言うとアストロス達が表情を曇らせた。

 

「お、高級仕立屋オートクチュールですか?

 でも三人分となれば代金の方も……」


 アストロスがそう言って口籠もる。

 ああ、そういう訳ね。

 お金の心配をしてたのか。


 でもそれなら心配ないわ。

 授与式の後に私の月給も一気に百万ローム(約百万円)まで昇給したわ。

 それにフォルナイゼン家の財産も相続したし、

 ハッキリ云えば、しばらくはお金に苦労する事はないわ。


「お金の心配は無用よ。

 私としては貴方達の防具用の服を強化してもらって、

 戦力アップしてもらう方が助かるのよ」


「……分かりました」


「ん? オイラにも新しい服を作ってくれるの?」


「そうよ、ジェインッ!」


「わーい、嬉しいワンッ!!」


 そう言って尻尾を振るジェイン。

 この子のこういう素直な所は好きだわ。


「……ではボクもここはお言葉にさせていただきます」


「ええ、エイシル。 貴方は女性だから防御力面だけでなく、

 見栄えの良い物を購入しましょう。

 身だしなみを整えるのは、女の嗜みよ」


「は、はいっ!」


「じゃあ早速今から向かうわよ。

 場所は王都の商業区、近いから歩いて行くわよ」


「「はい」」「ウンッ!」


 せっかくお金があっても使わないと意味がないわ。

 ならばどうせ使うなら戦闘だけでなく、

 日常生活にも役立つ平服兼装備にお金を投資すべきよ。


 価値がある物には投資を惜しまない。

 これが貴族の流儀よ。

 あ、厳密には今の私は貴族ではないか。


 まあいいわ。

 兎に角、皆にちゃんとした格好にしてもらいたいわ。

 そして私は三人の先頭に立ち、意気揚々と王都の商業区へ向かった。

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