第45話 爵位授与式(前編)


---主人公視点---



「ここがお姉ちゃんのお屋敷なの?

 す、凄く大きい屋敷だワン」


「え、ええっ。 ボクもこんなお屋敷初めて観ました」


 ジェインとエイシルは眼前の三階建てのフォルナイゼン邸を観て、

 驚いた表情で、そう告げた。


 まあ自分で云うのもアレだけど、

 確かにフォルナイゼン邸は確かに大きな屋敷と思うわ。

 

 屋敷の広さは貴族の邸宅としても広い方でしょう、

 前庭や裏庭も備わっており、屋敷の外は鉄柵で囲まれている。 

 門から入り口へと続く長い石畳の道。

 そして道の途中には大きな噴水があり、

 芝も綺麗に刈り揃えられている。 


 そして、その奥に三階建ての綺麗な白い館が鎮座している。

 正面の玄関口には一角獣ユニコーンが左右対称に、

 中央の金の十字架ロザリオを取り囲んだフォルナイゼン家の家紋エンブレムが飾られていた。 


 そして玄関口の前で合計十五人以上の執事とメイド達が

 立っており、私達の姿を見るなり、声を揃えて――

 

「お帰りなさいませ、リーファお嬢様!!」


 と、挨拶を交わして綺麗な姿勢でお辞儀する。

 ……前の住人達は追放したけど、

 執事とメイド達には、罪はないので私が追放される前まで

 この屋敷で働いていた顔見知りの執事とメイドには、

 引き続き、この屋敷で働いてもらう事にしたわ。


 但し前当主、その妻と子にへつらっていた者達は、

 この屋敷の所有権を手にした時点で全員クビにしたわ。


「……リーファお嬢様、わたくしリックス及び執事、メイド一同は、

 お嬢様の許で再び働ける事に、心から感激しております」


「リックス、久しぶりにね。

 じゃあリックス、早速だけどミランダを加えて、

 屋敷内を掃除して頂戴、前当主の妻と子の部屋にある物は

 全て片付けるか、捨てて頂戴」


「了解です、それと旦那様……前当主の私室や荷物はどうなさいますか?」


「……そうね、それに関しては手をつけなくていいわ。

 あんな人でも私の父親である事には変わらないですからね。

 だから彼の居た軌跡をこの手で奪おうとは思わないわ」


「了解です、では早速お仕事にかかります」


「ええ、それと彼等も数日ほどこの屋敷に泊めるから、

 客間の掃除と整理、それと食事には気を使って頂戴」


「了解です、よし皆、早速仕事にかかるぞ」


 リックスがそう云うと、

 周囲の執事やメイド達も「はい」と大きな声で返事する。


 ……。

 まあこのリックスに関しては、

 私が追放される前は私に対しては中立の立場を取っていたので、

 今回再雇用する事にしたけど、彼は執事にしては、

 やや自己顕示欲が強いタイプなのが少し気になるわね。


 まあでも今の状況なら私に逆らわないか。

 彼が有能な執事である事は事実だし、

 しばらくは彼に執事長を任せる事にしましょう。


「お姉ちゃん、凄いね。

 あんなにテキパキと指示を出す姿がとても似合ってるワン」


「ええ、やはり侯爵令嬢という感じでしたわ」


 ジェインとエイシルが感心したようにそう言う。


侯爵令嬢よ。 今の私は戦乙女ヴァルキュリアよ」


「そうでしたね、失言でした」


 と、軽く頭を下げるエイシル。

 なんだか必要以上に緊張しているみたいね。

 ならばここは私が彼、彼女等の緊張をほぐすべきね。


「そんなにかしこまらなくていいわよ。

 自分の家だと思って、自由に過ごして頂戴。

 どのみち爵位授与式まで暇ですからね。

 だからゆっくり休んで、美味しい物でも食べましょう」


「「そうですね」「ウンッ!!」


 そして私達は戦いにひとまずゆっくりと休んで英気を養った。



---三人称視点---



 四日後の聖暦1755年7月25日。

 リーファとその盟友三名は、リーファの爵位授与式に参加する為、

 この日の為に礼服とドレスを用意して、豪奢な馬車に乗り込んだ。


 尤もリーファに関しては、

 黒いインナースーツの上に白銀の軽鎧ライト・アーマー

 背中には白い外套マントという格好だ。


 騎士爵の授与式なので、

 ドレス姿より騎士っぽい格好の方が良い、と判断した為である。


 そしてそのリーファは馬車の窓を眺めながら、

 この一ヶ月余りの日々を振り返った。

 婚約破棄、追放、王太子からの求婚。


 そこから試練を乗り越えて戦乙女ヴァルキュリアとなり、

 あのガースノイド帝国、そして元婚約者とも戦った。

 思えば僅か一ヶ月の間に、様々な出来事が我が身に降りかかった。


 思い返すとあの婚約破棄された夜から、

 リーファの人生が新たなる道へ進み始めたのかもしれない。

 その結果、リーファは母国の最高騎士爵を授与される事となった。


 傍目からは羨む状況であったが、当の本人はそれに特に感銘した風でもなく、

 静かに窓の景色を眺める。 その姿を同席していたアストロスが見据えながらこう口にした。


「心ここにあらずという感じですね……」


「ええ、正直自分でも今の状況に戸惑っているわ」


「でしょうね。だがそれとは別に退屈さが滲み出ていますよ。

 私の前では構いませんが、王宮に着いたら気を引き締めてください。

 この授与式には国王陛下と王太子殿下も参加するのですから」


「ええ、わかっているわ。 だからその前に今はあえてボーっとしているのよ」


「普通の人なら国王陛下を前にしたら、少なからず敬意と畏敬の念を示すでしょうが

 お嬢様はよくそう堂々と構えられているますね。

 時々、貴方という人間がわからなくなる」


「……そんな大層なものじゃないわよ」


「王宮に着くまでもう少し時間があります。

 今のうちに休んで英気を養ってください」


「ええっ……」



 そしてリーファは授与式に向けてゆっくり目を閉じて、暫しの眠りと休息に入った。

 三十分後、リーファ達はアスラ宮殿に到着。


 人々の注目を一身に浴びながら若き戦乙女ヴァルキュリアとその盟友達は、

 宮殿の中に入り、大広間に歩を進めた。

 大広間の控えの間には、選ばれた来賓客であふれていた。

 四十名を越す特別招待客が待機している周囲では、

 物見高い人々が若き戦乙女ヴァルキュリアとその盟友達に称賛と好奇を交えた視線を浴びせた。


 控えの間にいたる部屋という部屋にも大勢の招待客がつめかけていた。

 列席の各国大使や枢機卿、大司教、

 貴族、貴婦人など各国の上流階級の人間が揃っていた。


 リーファとその盟友達は様々な招待客に声をかけられるが、

 リーファは相手の気分を害さない程度に上手くあしらった。


「ふう、疲れるわね」


「はい、なんかボクなんかがこの場に居ていいのかな?

 なんか凄く場違いな気がします」


 と、エイシル。


「う、うん。 オイラも凄く見られて緊張しているワン」


 と、ジェイン。

 まあ二人がそう思うのも無理はないわ。

 それにアスカンテレス王国はヒューマン至上主義ですからね。


 亜人のエルフ続や獣人の犬族ワンマンがこの場に居ることに驚いている。

 あるいは面白半分で観察しているのでしょうね。


「お嬢様、大丈夫ですか?」


「そうね、少し休みたいわ」


 私はそう云って近くの黒革のソファに腰を掛けた。

 私もこれまでお茶会、夜会、舞踏会などに参加してきたけど、

 今まで以上に注目度が違うわ。


 これが英雄になるって事なのかしら?

 でも正直肩が凝るわね。

 だけどいつか自由を掴む為にも、これらの儀式を通過する必要があるのよね。


「リーファ様、リーファ・フォルナイゼン様っ!」


 と、黒い礼服姿の初老の男性が私の名を呼んでいる。


「はい、私はここに居ますわよ!」


「そろそろお時間です」


「そう、分かったわ」


「では私について来てください」


「ええ、じゃあ皆、また後で会いましょう」


「「はい」」「うん」


 さてここからは気を抜けないわ。

 国王陛下の手前、礼儀を尽す必要があるわね。

 少し緊張するけど、私なら大丈夫。


 私はそう思いながら、初老の男性の後を追った。

 とりあえず無難に行きましょう、無難にね。


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