第41話 断罪(前編)


---三人称視点---



 王都アスカンブルグ。

 アスラ宮殿の謁見の間。

 入り口から玉座まで伸びる赤い絨毯の左右に等間隔で兵士や騎士が立っている。

 その中には、リーファとその盟友の姿もあった。


 玉座の付近には、豪奢な黒い礼服を着たラミネス王太子や宰相、

 数人の大貴族などこの国の重鎮の姿も見える。

 そして玉座には国王ネビル二世が腰掛けていた。


 これ程の顔ぶれが揃うのは最近では珍しかった。 

 だが祝い事の席などではなかった。

 今の謁見の間は先の反逆騒ぎの首謀者を裁く為の法廷と化していた。


 その首謀者の筆頭格であるマリーダ・フォルナイゼン。

 そしてその母アクア、養父のハイライド・フォルナイゼン侯爵の三名が

 両手を鉄の手錠で拘束された状態で、部屋の中央の赤い絨毯の上で両膝をついていた。


「……これより先の反乱騒ぎの首謀者とその協力者を

 国王の名において、正しい懲罰を与えようと思う」


「「「異議なしっ!!」」」


 国王の言葉にラミネス王太子、宰相、大貴族のアルファム公爵が口を揃えて同意する。すると国王はその双眸で罪人であるマリーダ、アクア、ハイライドの三人を見据えた。


「侯爵令嬢マリーダ、そしてその母アクアと義父ぎふハイライドよ!

 おもてを上げよ」


 国王の言葉に三人は恐る恐る顔を上げた。

 だが国王の厳しい表情を見た途端、顔を青ざめる。

 そんな三人を叱責するように、

 国王は冷気を帯びた声で三人の罪状を述べた。


「まず貴公等の罪状を述べる。

 侯爵令嬢マリーダは死んだ第二王子ナッシュと結託して、

 この国の転覆を目論んだ。 その際にはその母であるアクアも

 周囲の貴族や将軍などをナッシュの傘下に入るように言い進めた。

 また養父ハイライドはその母子の行いを見ても、

 止める事はなく傍観の姿勢を貫いた。

 だがそれは夫、父親という立場の放棄と見なす。

 故に余はこの三名に対して、厳しい罰を与えようと思う」


「「「異議なしっ!!」」


 再度声を揃えるラミネス王太子、宰相、アルファム公爵の三人。

 するとマリーダ等、三人の表情が青ざめる。

 そしてマリーダが青い表情のまま自己弁論を始めた。


「こ、国王陛下!」


「……何だ?」


 暖かみの欠片もない国王の冷たい声。

 マリーダが思わず「ごくり」と喉を鳴らした。

 そして頭をフル回転させて、言葉を紡いでいく。


「私は確かにナッシュ様と婚約しましたが、

 まだ正式な妻とはなっておりません。

 それに私は何度も何度もナッシュ様をお止めしました。

 ですが彼は私の言うことなど聞かず、

 険悪となった王太子殿下に対して、勝ち目のない戦いに挑みました」


「……つまり悪いのはナッシュ。

 貴公はそう言いたいのか?」


 国王の言葉にマリーダは「はい」と頷く。

 そして全ての責任をナッシュに押しつけ始めた。


「そういった止むに止まれぬ事情により、私はナッシュ様に協力しました。

 ですがそれも全ては国内を二分する内乱を早く終結させたいが為のこと。

 その結果、ナッシュ様は戦場で敗れ、壮絶な戦死を遂げられました。しかしそれで内乱は収まり、被害は最小限で済んだこともまた事実です。 ですから私達、フォルナイゼン家も……」


「くっ、くっ、くっ」


 国王はマリーダの言葉を遮るように、

 小刻みな笑いを漏らしながら呟いた。


「壮絶な戦死……か?

 くっ、くっ、ラミネス。 壮絶と言えば壮絶であったな」


「はい、私もこの手で実の弟を手にかけました。

 ですが後悔はしてません、これも全ては国の為です」


「……この手で? え? えっ?」


 予想外の言葉に混乱するマリーダ。

 その姿を見ながら国王と王太子は冷笑を浮かべる。


「……侯爵令嬢マリーダよ。

 最早もう何を言っても遅い。

 貴公は言うならば勝負に負けたのだ。

 だから敗者は大人しく勝者に従えっ!!」


「あっ、あっ、あっ……」


 予想外の事実に狼狽するマリーダ。

 そして国王は追い打ちをかけるように――


「リーファ殿!」


「はいっ!」


「貴公は今回の反乱騒動及び帝国との戦いで

 我が国に多大な貢献をしてくれた。

 その恩義に報いるべく、余は貴公に権限を与える!

 この者達の処遇は貴公が決めるが良いっ!」


「「「えっ……?」」」


 国王の言葉にマリーダ達は、

 声を揃えて驚愕の声を木霊させた。


「……本当に宜しいのですか?」


「ああ、これは国王としての決定である。

 故に貴公は貴公の思うままに、この者達を裁くが良いっ!」


「……分かりました」


 リーファはそう言って、

 列から離れて、マリーダ達の前へ歩み寄った。

 その表情はまるで人形のように無表情であった。


 その表情を見て、マリーダ達は「あ、あ、あ」と短い悲鳴を漏らす。

 リーファはそれに対して、哀れむような視線をマリーダ達に向けた。

 そして彼女の瞳が氷のように冷たい光を放ち、

 マリーダ達は内心縮みあがった。


 リーファはかつての家族の姿を見て、憐憫の情を覚えた。

 だがそれと同時にある種の嫌悪感も抱いた。


 ――あれだけ偉そうにしていたマリーダとその母アクア。

 ――そしてその莫迦な母子の言いなりになっていた父親。

 ――でも今は私を許しを請うような眼で見ている。


 ――哀れね。 でもそれで許す気にはなれないわ。

 ――貴方達のせいで私は婚約破棄、実家を追放された。


 ――だからそれ相応の報いは受けさせてやるわ。

 ――私は戦乙女ヴァルキュリアになったけど、

 ――心までは戦乙女ヴァルキュリアになれないわ。


 ――そんな慈悲などかけても無意味。

 ――ここでこの三人を助けたら、

 ――また頃合いを見て、私の邪魔をするでしょう。

 ――だから一人の復讐者として、この三人を裁くわっ!!


 こうしてリーファは自らの手で、

 元家族に対して裁きを下すことに決意した。

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