第36話 王位継承争い(中編)


---主人公視点---



 私は黄金の馬具を纏った白馬に跨がりながら、広々とした平原を駆けた。

 私達は私、アストロス、ジェイン、エイシルの四人一組でチームを組んだ。

 やはりこういう時は気心の知れた仲間と行動するに限るわ。


 ちなみに私は白馬、アストロスは青毛、ジェインは栃栗毛のポニー、

 エイシルは黒鹿毛の軍馬に乗っている。


 そして鎧姿の戦士や騎士ナイトなどの防御力の高い

 重装騎兵、ローブ姿の魔導師や回復役ヒーラー

 更には軽鎧、ローブ姿の魔法剣士がそれぞれ軍馬に跨がり、私達を周囲を囲んでいた。


 その数およそ五十人前後。

 これくらいの数ならば作戦を上手く実行出来そうだわ。

 ではここで皆の士気を上げておきましょうか。


「皆様、我々にお付き合い頂き誠にありがとうございます。

 皆様のご期待に沿えるように、全力を尽しますので

 皆様もどうか我々のサポートの方を宜しくお願いします」


「はい!」


「我々にお任せあれ!」


戦乙女ヴァルキュリア殿と一緒に戦えて光栄です」


 周囲の味方部隊も私の声に呼応するように、力強く返事する。

 ……とりあえず悪くはない反応ね。

 良し、これで下準備は整った。

 それじゃ作戦実行と行きましょうか。


「それでは私の後に続いてください!」


 私は黄金の馬具をまとう白馬に乗りながら、

 そう叫んで手綱を引いて先陣を切る。

 すると周囲の仲間達も聖十字が刻印された円を神獣ユニコーンが左右で

 取り囲んだアスカンテレス王国の真紅の国旗を翻し、

 私の後を追うように一斉に馬を走らせた。

 私は右手に持った聖剣『戦乙女の剣ヴァルキュリア・ソード』を天に向けて掲げた。


「我が守護聖獣ランディよ。 

 我の元に顕現けんげんせよっ!!」


 私はそう叫ぶと次の瞬間、私の右肩に「ポン」という音を立てて、

 光り輝いた守護聖獣ランディが現れた。


「ランディ、私と敵の部隊との距離を分析して頂戴!」


「――了解したっ!!」


 するとランディの両眼が光りだし、

 その身体も周囲を照らすように輝いた。


「……彼我ひがの距離は700メーレル(約700メートル)といったところだ」


 瞬時に分析して、そう伝えるランディ。

 700メーレルか。 まだ少し距離が遠いわね。


「分かったわ、もう少し進むから、

 650メーレルくらいになったら、教えて!」


「了解だっ!!」


 そして私は再び馬を走らせた。

 すると前方に無数の敵影が見えて映った。

 ……かなり数ね。

 でもまだ攻撃する気配はないわ。


「リーファ殿、650メーレルに到達しましたぞ」


「了解、ならばここから仕掛けるわ!

 行くわよ、『魔力覚醒』」


 私は職業能力ジョブ・アビリティ『魔力覚醒』を発動。

 私の魔力と攻撃魔力が一気に倍増して、

 私の周囲が目映い光で覆われた。

 でもこれで終わりじゃないわ。


「はあああぁっ……あああぁっ!! 『能力覚醒』っ!!」


 私は更に職業能力ジョブ・アビリティ・『能力覚醒』を発動させた。

 この能力アビリティを発動すれば、五分間だけ能力値ステータスの数値が倍増化になる。

 これで私の魔力と攻撃魔力が初期値から四倍近く強化された。


 とはいえ『魔力覚醒』と『能力覚醒』の発動時間は五分間のみ。

 そして一度、能力アビリティを発動すれば、

 十分間の蓄積時間チャージ・タイムが発生する。

 だからこの五分間で相手を一気に叩くわ!!


「ランディ、行くわよ! 『ソウル・リンク』ッ!!」


「了解だ、リンク・スタートォッ!!」


 そして私とランディの魔力が混ざり合い、

 私の能力値ステータスと魔力が更に跳ね上がった。


 ……こ、これは凄い。

 これ程の力があれば、勝てない敵は居ないかもしれない。

 私は高ぶる気持ちを抑えながら、左手を前方に突き出した。


「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。 

 我に力を与えたまえ! 『フレアバスター』ッ!!」

 

 私は腹から声を出して、左手から眩く輝いた光炎フレアを前方に向けて放射した。

 聖王級の火炎属性の攻撃魔法。

 更には「ソウル・リンク」や能力アビリティの重ね掛けで

 強化された一撃だ、まともに命中すれば敵を一瞬で一掃出来る筈。


 そしてやや時間差を置いて、眩く輝いた光炎フレアが着弾。

 すると「ドガアァァァン!!」という爆音と共に大地が揺れた。

 

「……決まったかしら?」


「いえ、敵の魔力反応はまだ多数あります。

 恐らく敵の魔導師部隊が水属性の対魔結界を張ったと思われます」


「……リーファ殿、エイシル殿の云うとおりだ。

 思ったより敵の損害は大きくないようだ」


 守護聖獣のランディが私の右肩に乗りながらそう云った。

 まあこれはある程度は予測していたわ。

 だけど私の攻撃はこれで終わりじゃないわ!

 そして私は左手を頭上にかざして、呪文を唱え始めた。


「我は汝、汝は我。 母なる大地ハイルローガンよ!

 我は大地に祈りを捧げる。 母なる大地よ、我が願いを叶えたまえ!」 


 私がそう呪文を紡ぐと左腕に強力な魔力を帯びた光の波動が生じた。 

 そして私は全身から魔力を放ちながら、呪文を更に唱える。

 すると私の右肩に乗っていたランディが地面に飛び降りた。


「そして天の覇者、光帝よ! 我が身を光帝に捧ぐ! 

 偉大なる光帝よ。 我に力を与えたまえ!」


 次の瞬間、私は左腕を力強く引き絞った。

 攻撃する座標地点は、先ほど火炎属性魔法を放った地点に狙いを定める。

 そして私は左手で素早く印を結んで、声高らかに叫んだ。


「光よ、敵を貫きたまえっ! ――ライトニングバスターッ!!」


 次の瞬間、私の左手から迸った光のビームが放たれて、

 半瞬程、間を置いてから、先ほどと同じ地点に着弾する。 

 神帝級しんていきゅうの光属性の攻撃魔法。

 更には炎属性と光属性が交わり、魔力反応「核熱」が発生。


 すると着弾した光のビームがドーム状に膨れ上がって、

 耳朶を打つ爆音と爆風と共に、大地震が起きたように大地が乱暴にシェイクする。 

 この一撃によって数十、否、数百人に及ぶ敵兵を一瞬で絶命させたであろう。


「す、凄いわ。 一個人でこれ程の攻撃魔法を放つなんて……」


 エイシルが驚愕の表情で一言そう漏らした。

 まあ彼女が驚くのも無理ないわ。

 私自身この力に驚いてるわ。


「……これで敵の前衛部隊をほぼ無力化出来たのではないでしょうか?」


 アストロスが冷静な声でそう云う。


「いや完全に無力化できた訳ではなさそうだ。

 敵も咄嗟に対魔結界を張って、最低限の処置は施したようだ。

 だがそれでも五百から七百人の敵は一瞬で絶命したようだ」


 と、ランディが淡々とした声で告げる。

 

「五百から七百人……ね。

 悪くはない戦果ね。 でもまだ終わりじゃないわ」


 そして私は白馬から降りて、両足で大地を踏みしめた。

 そこから私は全身に光の闘気オーラを纏い、

 右手に持った戦乙女の剣ヴァルキュリア・ソードの切っ先で前方を突き刺した。


「――ハアアアアアアッ……『ライトニング・スティンガー』!!」


 私はここで自身の最大の神帝級の剣技ソード・スキルを放つ事にした。

 私は技名を叫びながら、錐揉きりもみするように、

 白銀の聖剣を回転させて、その切っ先から、目映いビーム状の光線を放ち、

 前方の敵集団に無慈悲な一撃を繰り出した。


 ビーム状の光線は、地面を抉りながら神速の速さで大気を裂く。

 そしてビーム状の光線は暴力的に渦巻きながら、敵の前衛部隊に命中。


 ズガァァッアアアン!!

 一瞬遅れて、周囲に耳をつんざくような轟音が響き渡る。

 時間にして僅か三十秒足らずで、敵集団に大打撃を与えた。


 ビーム状の光線は、その進行方向を阻む物を容赦なく次々と打ち砕いていった。

 そして天に昇るような軌道で、綺麗な青空に吸い込まれるように消えていった。


「「す、凄い」」「凄いワン……」


 周囲の仲間も唖然とする。

 まあそれも無理もないわ。

 私自身、私のこの力に驚いてるのですからね。


「今の一撃でまた五百人以上の敵を一掃したようだ。

 単純計算で五分以内で一千人以上の敵を倒したようだな。

 これが戦乙女ヴァルキュリアの力なのか……。

 個人が持つにはあまりにも強大な力だな……」


 ランディが私の顔を見ながら、神妙な口調でそう告げた。

 まあランディの云うことも一理あるわ。

 でもね、私も色んな物を代償にして得た力なのよ。

 だから私はこの力を使う事に躊躇ためらわないわ。


「……うっ」


 そこで急に強い目眩を覚えた。

 どうやら短時間で膨大な魔力を浪費した弊害のようね。


「アストロス、それと魔法剣士の皆様。

 申し訳ありませんが、魔力を分けてもらえませんか?」


「了解です、『魔力マナパサー』」


「自分の魔力もお使いください! 『魔力マナパサー』」


 アストロスだけでなく、

 周囲の魔法剣士さん達も魔力を分け与えてくれた。

 これで魔力消耗による精神疲労が少し和らいだわね。


「お嬢様、大丈夫ですか?」


「大丈夫よ、でもここからはあまり魔力を浪費しない方がいいわね。

 魔力量が足りてても、精神面が持ちそうにないわ」


「そうですか、ならば後は我々にお任せください。

 お嬢様のさっきの一撃で敵は大混乱状態のようですし」


「アストロス、ありがとう。

 でも私は戦乙女ヴァルキュリア、故に引くわけにはいかないわ」


 私はそう言って、再び白馬に跨がった。

 正直少し精神的に苦しいけど、ここが勝負所。

 だからここはあえて周囲を鼓舞させるわ!


「皆様、勝利を信じて共に戦いましょう!」


 私が高らかにそう宣言すると、

 周囲の仲間達も一斉に「おお」と大歓声だいかんせいを上げた。

 これで周囲の士気も上がった。

 後は眼前の敵を蹴散らすだけだわ。


 その後の事は王太子殿下に任せましょう。

 私は内心でそう思いながら、

 再び馬を走らせて、仲間と共に敵目がけて突貫した。

 

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