第五章 逆襲の戦乙女(ヴァルキュリア)

第33話 晴天の霹靂(へきれき)


---三人称視点---



 ――国王ネビル二世、危篤っ!

 

 その一報が入るなり、連合軍に激震が走った。

 事態が事態であった為、この件は連合軍内で厳重な箝口令が敷かれた。

 

 そして港町ジェルバに駐留していた犬族ワンマンのシャーバット公子は、

 猫族ニャーマンの司令官ニャールマンに留守を任せて、

 兎人ワーラビットのジュリアス将軍、

 それとリーファとその盟友を引き連れて、

 転移魔法陣を駆使して、

 都市ロスジャイトに本陣を置いたラミネス王太子の許へ向かった。


 シャーバット公子とリーファ達は数日かけて、

 7月13日に都市ロスジャイトに到着。

 そして小休止してから、

 作戦司令部が置かれた旧帝国の大貴族の邸へ向かい、

 ラミネス王太子と合流を果たした。


「シャーバット公子、長旅ご苦労様です」


 ラミネス王太子が労いの言葉をかけるが、

 シャーバット公子は右手を挙げて「早速会議を始めよう」と言って、

 大きな円卓の席に腰をかけた。


「……分かりました」


 ラミネス王太子はそう返して、壁を背にして上座に座る。

 会議の参加者は厳選されており、

 ラミネス王太子、シャーバット公子、ジュリアス将軍。


 エルフ族の騎士団長エルネス。

 そして若き戦乙女ヴァルキュリアリーファも列席を許された。

 この僅か五名による極秘会議が始まろうとしていた。


 ラミネス王太子の右手側の席にシャーバット公子とリーファ。

 王太子の左手側の席に騎士団長エルネスとジュリアス将軍が座る。


「では、早速だが緊急会議を始めたいと思います」


 そう切り出したのは、ラミネス王太子。


「会議の議題は、云うまでもありません。 

 我が母国アスカンテレスの国王ネビル二世が危篤状態の件についてです。

 帝国との大事な戦いの最中でありますが、

 私は部下と兵、それとリーファ殿を引き連れて

 王都アスカンブルグまで帰還したいと思います」


「ううむ、王太子殿下の立場からすればそうするしかないでしょう。

 ですがこの帝国との戦いの最中に総司令官が

 戦場から離れるのは少々問題ですワン」


 と、シャーバット公子。


「ええ、ですから私の不在の間は、シャーバット公子殿下に私の代理として総司令官をお任せしようと思っております」


「ううむ、まあそれが無難でしょうワン」


「そうですね、私も賛成です」


 と、ジュリアス将軍。


「……私も賛成です」


 騎士団長エルネスも相打ちを打つ。

 首脳部の賛同が得られた為、この件はすんなりと決まった。

 

「それで王太子殿下、どれくらいの兵を引き連れて

 王都へ帰還するおつもりですか?

 あまり多くの兵を引きつられては、

 現場も困りますし、他の王子、王女に要らぬ不安を抱かせるのでは?」


 シャーバット公子の言い分は正しかった。

 この帝国の戦いの最中に大国アスカンテレスで

 後継者争いが起きたら、

 事態の収拾が困難になるのは火を見るより明らかだ。

 だがこの件に関してはラミネス王太子も譲らなかった。


「公子殿下の仰る事は重々承知しております。

 ですが我が王家は長男の私、次男のナッシュは

 成人しておりますが、三男のホーフル。

 そして長女のエリザベスはまだまだ子供という年齢です。

 故に後継者争いが起きたら、

 私と愚弟のナッシュが戦う事になるでしょう」


「ううむ、王太子殿下と第二王子の犬猿の仲は有名ですからね。

 しかしもしネビル国王が逝去されたとしたら、

 王太子殿下と第二王子で国を二分する戦いが起きるのでは?」


 シャーバット公子がそう危惧するのも無理はなかった。

 とはいえ他国、他種族の御家騒動に巻き込まれるのも面倒だ。

 だからシャーバット公子だけでなく、

 ジュリアス将軍と騎士団長エルネスもこの場は様子見に徹した。

 それに対してラミネス王太子は温和な口調で応対する。


「公子殿下が危惧するのも無理はありません。

 ですがあの愚弟に――第二王子にそんな人望はありません。

 私は数年前からこのような事態を想定しており、

 国内外の王族、貴族、軍人、政治家にも根回ししており、

 彼等の大半が私を支持してくれてます」


「……そうなんですか?」


 と、シャーバット公子。


「ええ、ですから公子殿下が危惧するような事態にはならないでしょう。

 ですが私としてはこの機に生じて、

 第二王子、そして愚弟を支持する不満分子を一掃して、

 正式に王位を継承するつもりです」


「……まあ王太子殿下のお立場ならそう良いでしょうワン」


「ええ、ですから私に数週間ほど、お時間を頂けませんか?

 三週間、いや二週間あれば全て綺麗に決着をつけてみせます」


「ううむ、私としてはそれで構いませんが……

 エルネス団長とジュリアス将軍はいかがでしょうか?」


「私も構いません」


「同じく」


 エルネス団長とジュリアス将軍もとりあえず賛成する。

 彼等としても事を荒立てるつもりはなかった。

 すると彼等を一瞥して、ラミネス王太子が微妙を浮かべた。


「皆様の賛同は得られたようですね。

 では私はリーファくんとその盟友を連れて

 王都アスカンブルグに帰還したいと思います。

 リーファくんも異論はないな?」


「はい、王太子殿下にお供させて頂きます」


「うむ、君としてもこれを機にあの愚弟と

 愚妹を排除しておいた方が何かと都合は良いだろう」


「……今となっては私はあの二人を憎むつもりはありません」


 とりあえず模範解答をするリーファ。

 だがラミネス王太子は、彼女に対して嫌な現実を突きつけた。


「君自身はそうだろうが、向こうはそう思っていないだろう。

 仮にもし私があの愚弟に敗れたら、

 あの愚弟は君とその従者に対しても制裁を加えるだろう。

 君もあの愚弟の性格は知っているだろう?」


「……確かにそうなるでしょうね」


「うむ、だから私の為だけでなく、

 君自身の為にも今回の戦いには必ず勝つ必要がある。

 だから是非とも君とその仲間の力を貸して欲しい」


「……私でよければ力をお貸ししますよ」


「うむ、君には期待しているよ」


 こうしてリーファとその盟友も王太子に同行する事となった。

 彼女の盟友であるエイシルとジェインに関しては、

 エルネス団長とシャーバット公子も同行を快く承諾した。


 エルフ族、犬族ワンマンとしても、 

 これを機にラミネス王太子に恩を売りたかったし、

 現場の状況と情報を確保したいという目的もあった。


 こうして双方の利害が一致して、

 ラミネス王太子はリーファとその盟友。

 そして自国のアスカンテレス王国軍五千人を引き連れて、

 王都アスカンブルグを目指して、ロスジャイトを経った。


 こうして大国アスカンテレスの後継者争いが本格化しようとしていた。

 だが幸か不幸か、この後継者争いによって、

 リーファとその盟友の運命も大きく変わろうとしていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る