第32話 リーファ対女将軍(後編)


---主人公視点---


 

 『能力覚醒』と『ソウル・リンク』の効果も相まって、

 私とネイラールの距離は一気に縮まった。

 ネイラールは眼を瞬かせるが、

 すぐに体勢を整えて、両手で持った漆黒の大剣を大上段に構えた。


「ナイトメア・スト――」


「させないわ! ――シールド・ストライクゥッ!!」


 私は相手が剣技ソード・スキルを使う前に、

 左手で持った「幻魔の盾」でネイラールの胸部を強打。

 するとネイラールが「ぐっ……」と肺から空気を漏らした。


 そこで私は左手に持った「幻魔の盾」を背中に背負った。

 そして左構えで、軸足の右足でしっかりと地面を踏み込んで――


「――掌底打ちっ!!」


 繰り出した左手の掌底打ちが綺麗に胸部に命中。


「かはぁっ!?」


 胸部に二度続けて強打を受けて喘ぐネイラール。

 効いている、効いている。

 でもこれで終わりじゃないわ。


「――ローリング・ソバットッ!!」


 そこから私は身体をひねって、

 ローリング・ソバットを繰り出した。

 私の右足は綺麗な弧を描いて、ネイラールの右側頭部に命中。


 見事な三段攻撃が決まり、ネイラールの視線が宙に泳いだ。

 そこで止めを刺すべく、私は腰を落としてどっしりと構えた。

 狙うのはネイラールの顎の先端。

 ここに私の渾身の正拳突きを叩き込むわ!


「――さ、させるかぁっ!!」


 だがネイラールは身体の苦痛に耐えながら、

 逆に左拳で私に目がけて、正拳突きを放ってきた。


「ごふっ!?」


 強烈な拳打音。 

 正拳突きを喰らった私の身体は二メーレル(約二メートル)程、後ろに吹っ飛んだ。

 だが私は聖剣を地面に突き刺して、何とか転倒を回避。


 しかしネイラールはこの好機を逃すまいと、

 右手に持った漆黒の大剣で剣技ソード・スキルを繰り出した。


「――ナイトメア・ストライク!!」


 ――ヤバい、これを受けるわけにはいかないわ。

 相手が剣技ソード・スキルを放つと同時に 

 私は右側にサイドステップして回避を試みるが――


「どこぉぉん」と、いう音と共に地面にクレーター状の大穴が空いた。

 な、なんて一撃なの!?

 と思うと同時にこちらにも衝撃波がやってきた。


 その衝撃波を受けて、私は思わず身体のバランスを崩した。

 それと同時にネイラールが左手を前へ突き出し、砲声する。


「――シャドウ・ボルトッ!!」


「――ラ、ライト・ウォールッ!!」


 私は条件反射的に光属性の対魔結界を張った。

 そしてネイラールの右掌から闇の衝撃波が放たれ、

 私の前に生じた光り輝く障壁に衝突する。


 闇の衝撃波が光り輝く障壁を呑み込み、

 一瞬、球形に膨れ上がるが、結界を破るまでには至らない。 

 力と力が、魔力と魔力が光り輝く障壁の前で激しくせめぎ合う。


「――リーファ殿、今のうちに「幻魔の盾」で魔力を吸収するんだ」


「分かったわ!」


 私はランディの言葉に素直に従い、

 背中に背負った「幻魔の盾」を左手に持ち、魔力を篭めた。

 すると闇の衝撃波と光り輝く障壁が綺麗に「幻魔の盾」に呑み込まれた。


「なっ!?」


 と、思わず驚くネイラール。

 それと同時に私はステップインして、ネイラールに接近する。


「――ローリング・スラッシュッ!!」


 だがネイラールも剣技ソード・スキルで反撃。

 それと同時に私は地面にスライディングして、

 ネイラールの剣技ソード・スキルを回避。


 そして地面から起き上がる反動を生かして、

 ネイラールの腹部に飛び膝蹴りを食らわせた。


「ぐ、ぐぬっ!!」


 会心の一撃クリティカル・ヒットが決まり、

 ネイラールの身体が僅かに後ろに仰け反った。

 そして私は右手に持った聖剣を上段に構えて、

 その切っ先に光の闘気オーラを宿らせた。


「――グランド・クロスッ!!」


 私は一気に勝負を決めるべく、聖王級せいおうきゅう剣技ソード・スキルを放った。私は大声で叫びながら、十の字を描くように、

 まずは薙ぎ払いを放ち、眼前の女将軍の腹部に一の文字を刻んだ。


 そこから聖剣を振り上げて、

 ネイラールの頭部に縦斬りを放った。

 これが綺麗に決まれば、

 ネイラールの身体に十の文字が刻まれる筈であった。


 だがネイラールが体勢を崩した為、

 縦切りで頭部を斬る事は出来なかったが、

 代わりにネイラールの頸動脈を綺麗に切り裂いた。


「ぐ、ぐはぁっ……ああぁっ!?」


 神経が切れるような音がして、

 ネイラールの首筋から鮮血が噴き上がり、

 周囲の地面にその血飛沫ちしぶきが飛び散った。


 結果的にこの一撃が致命傷となった。

 ネイラールは両膝を地につけて、

 身体を震わせていたが、すぐに背中から地面に倒れ込んだ。


 勝利を確信した私はゆっくりと歩み寄り、

 見下ろす形で眼前の女将軍を見据えた。


「最後に何かいい残す事はあるかしら?」


 私は少し乱れた呼吸を整え、

 死に体の帝国の女将軍に低い声でそう問うた。


「……と、特にはないわ」


「そう」


「え、ええっ……」


「悔いはないようね」


「え、ええっ……私は最後まで帝国、皇帝陛下の為に戦えた。

 そ、それだけで……私は満足……よ……」


 既にネイラールの眼から輝きが失われていた。

 その声も小さくとても弱々しかった。

 だがそれでもこの女は、

 最後まで帝国の女将軍としての威厳を保っていた。


「皇帝ナバールはそんなに魅力的なの?」


 するとネイラールが弱々しく微笑んだ。


「え、ええ……あの御方が居たから、

 今の……私が……ある。 あの御方に出会うまで……

 私は彷徨っていた。 あの御方のおかげで……

 私の人生に……輝きがもたらされた……

 だから……ここで死んでも……悔いはない……わ」


「そう、良かったわね」


「……アナタも悔いのないような……

 人生を……送れると……いいわね」


 ネイラールは余力を振り絞ってそう口にしたが、

 次第に力を失い声が途中で途切れた。

 そしてゆっくりと両眼を瞑り、そのまま永遠の眠りについた。

 私は地面に横たわるネイラールの遺体をしばらく無言で眺め続けた。


「悔いのない人生か……」


 皇帝ナバールには人を引きつける魅力があるのかしら?

 でも私がそんな事を知る必要はない。

 私は皇帝の敵、戦乙女ヴァルキュリアなのだから。

 そして私は左手を頭上にかざして、封印結界を解除した。


「なっ……ネイラール将軍が死んでいるぞっ!?」


「ば、馬鹿なあのネイラール将軍が負けるなんて……」


「流石は戦乙女ヴァルキュリア殿、凄いっ!!」


 周囲の連合軍の兵士や帝国兵達が騒ぎ出した。

 私はそんな彼等を一蹴すべく、凜とした声で叫んだ。


「戦いはまだ終わってないわ!

 残りの帝国兵を掃討して、ジェルバを奪回しましょう!!」


「は、はいっ!!」


 そして私達は、そこから全力で残敵掃討に移った。



---三人称視点---



 その後、リーファが先陣に立った連合軍は、

 全力で残敵掃討に取りかかった。

 ネイラールという司令官を失った帝国兵の動揺は大きく

 彼等は右往左往したが、連合軍は容赦なく彼等に攻撃を仕掛けた。

 四時間に及ぶ戦闘の末、港町ジェルバの奪還に成功。


 だが帝国軍のタファレル将軍の奮戦とネイラールの副官ドーラの機転によって、

 ジェルバの港から大量の軍艦及び船を出航させて、

 二万人以上の帝国兵が帝国領へ撤退する事に成功した。


 またレミオン要塞から帝国領へ進行した連合軍の本隊も

 勝利を収めて、帝国の都市バンプールとロスジャイトの奪取に成功。

 これによって連合軍はまた勝利を収めて、

 一連の戦いは、ガースノイド帝国の全面的な敗退によって決着がついた。


 これによって連合軍は更に活気づいた。

 総司令官のラミネス王太子と副司令官のシャーバット公子は、

 このまま勢いに乗って、更に帝国領を進行しようとしていたが、

 そこで異変が起きた。


 その異変の内容は――


「アスカンテレス王国の国王ネビル二世、危篤っ!!」


 という書状がラミネス王太子のもとに送られた。

 この異変により連合軍と帝国軍の戦いにも影響を及ぼし、

 更にはアスカンテレス王国の王位継承争いにも火がつこうとしていた。


 そして幸か不幸か、

 リーファもその争いに巻き込まれようとしていた。

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