第30話 リーファ対女将軍(前編)


---主人公視点---



「ダブル・ストライクッ!!」


「ピアシング・ドライバーッ!」


「ダブル・スマッシュだワンッ!!」


 気がつけば私達は、

 レッジ丘陵地帯の天辺で激しい戦闘を繰り返していた。

 既に私達だけで数十人以上の帝国兵を倒していたが、

 前方には傭兵隊長ジャック率いる傭兵及び冒険者部隊と

 窮鼠と化した帝国兵が激しい戦闘を繰り返していた。


「次から次へとキリががないわね」


「まあ帝国兵も必死ですからね」


 と、アストロス。


「ウン、でももうそろそろ敵も限界に近いと思うよ」


 暢気な声でそう言うジェイン。

 まあ確かに私達の勝利は堅いで……


「っ!?」


 私は思わず身じろいだ。

 前方からとんでもない闘気オーラと魔力を感じるわ。

 こ、これは敵の中にとんでもない奴が居るわ。


(――リーファ殿)


(……ランディ? どうかしたかしら?)


(気づいていると思うが前方に強力な敵が現れたようだ。

 敵は既に攻撃態勢に入っている。

 恐らく英雄級以上のスキルか、魔法を使うつもりだ。

 とりあえず君とその仲間はこの場から待避すべきだ)


(……そうね、そうするわ)


 するとその時、丘の向こうから漆黒の甲冑を纏った人影が現れた。

 そしてその人影は漆黒の大剣を握った右腕を後ろに引き絞った。 

 それから錐揉きりもみするように漆黒の長剣を回転させた。


「アストロス、エイシル、ジェインッ!!

 前方から凄い魔力がやって来るわ。

 恐らく強力なスキルか、魔法よっ!

 恐らく対魔結界では防ぎきれないわ。

 左右に散開して回避するのよ」


「「はいっ!!」」「了解だワンッ!!」


 それとほぼ同時に前方の人影の漆黒の大剣の切っ先から、闇色の衝撃波を放たれた。うねりを生じた闇色の衝撃波がビーム状になり、

 鋭く横回転しながら、地面を抉りながら神速の速さで大気を裂く。 

 前方に居た傭兵隊長ジャックの部隊は、

 完全に不意を突かれた形で、その闇色の衝撃波をまともに受けた。


「な、何だこれはぁぁぁっ……あああ……ああああああっ!!」


 この世の終わりのような断末魔をあげる傭兵隊長ジャック。

 闇色の衝撃波は暴力的に渦巻きながら、ジャックの銀の甲冑の腹部を貫いた。

 傭兵隊長の腹部に大きな空洞が生まれ、貫通した闇色の衝撃波は、

 勢いが止まる事無く、ジャックの部下達も巻き込んだ。 


 至近距離でこの衝撃波を受けた者は、ジャックのように胸部や腹部を貫通されて、

 大きな空洞が生じると共に彼らを死の世界へと導いた。

 貫通した闇色衝撃波はその背後にあった丘の地面と木々も貫き、

 その進行方向を阻む物を容赦なく次々と打ち砕いていった。


 地面を抉り、腹部を貫き、木々に穴を開けて止まる事無く突き進んで行く闇色の衝撃波。そして天に昇るような軌道で、黄昏色に輝く夕空に吸い込まれるように消えていった。


「この威力……只者じゃないわね」


「そこのアナタ、アナタが戦乙女ヴァルキュリアなのかしら?」


 漆黒の鎧を着込んだ人影が前方からこちらに歩み寄ってきた。

 そして距離が縮むとその容貌も明らかとなった。


 どうやら女性のようね。

 でもヒューマンじゃないわ、多分ダークエルフね。

 クリーム色のストレート・ヘアに褐色の肌。

 顔はかなり整っているわね、かなりの美人だわ。


「ええ、そうよ。 それがどうかしたかしら?」


「ふうん、随分若いわね」


「ええ、年齢で言えば十六歳よ」


「十六歳……本当に若いわね。

 私は二十七歳よ、名前はビアンカ・ネイラール。

 見ての通り帝国の女将軍よ」


「……それはどうも」


 この女、どういうつもりなの?

 こちらの事を探っているのかしら?

 とりあえず此奴こいつの意図が分かるまで話してましょう。


「ねえ、単刀直入に言うわ。 私と勝負しない?」


「……勝負?」


「ええ、私と一騎打ちしない?」


「……」


 一騎打ちか。

 戦乙女ヴァルキュリアと帝国の女将軍の一騎打ち。

 良い見世物になるわ。


 でもこの女の意図は分からないけど、悪くない話かもね。

 大衆の面前で帝国の女将軍を倒せば、

 私の株も上がり、味方の士気は上がり、敵の士気は下がる。


 逆にこの女が兵を引き連れて前線で戦えば、

 こちらの被害はかなりのものになるでしょうね。

 この女を発する闘気オーラでそれが分かるわ。

 ならばここで私が選ぶ選択肢は一つね。


「ええ、いいわ。 その勝負受け手上げるわ」


 すると眼前の女将軍は僅かに口の端を持ち上げた。


「うふふ、度胸もいいわね。 気に入ったわ。

 そういう事で皆! 手出しは無用よ」


「……周囲の皆様、そういう事なのでご了承ください」


 私達がそう言うと、周囲の者達も戦いを止めて

 私達の戦いを観戦するべく、周囲を取り囲んだ。


「お嬢様、大丈夫でしょうか?」


 と、アストロス。


「ええ、問題ないわ」


「お姉ちゃん、頑張ってね」


「ええ、ジェイン。 心配は要らないわ」


「……頑張ってください」と、エイシル。


 とはいえこの場で戦うと周囲の者達を巻き込むわね。

 さて、どうしたものかしら?

 すると眼前の女将軍がこの戦いの条件とルールを提案してきた。


「戦いの条件は簡単よ。

 どちらかが勝つまでの一騎打ち。

 でも途中で邪魔が入られたら、興醒めだわ。

 だから封印結界を張って、その結界内で戦う!

 ……というのはどうかしら?」


「……悪くない条件ね」


「じゃあ勝負を受けるのね?」


「ええ、受けるわ」


「じゃあ封印結界を張るのは、どちらにする?

 私はアナタで構わないわよ?」


「……」


 相手がイカサマ紛いな真似をする可能性も考えたら、

 ここは私がやった方が色々と安全よね。

 だから私はネイラールの言葉に従った。


「ならば私が封印結界を張るわ」


「了解、じゃあ悪いけど周囲のギャラリーは少し下がって!

 戦う場所が狭すぎると、観ている方もつまんないでしょ?」


 ネイラールがそう言うと敵味方を含めたギャラリーが

 後ろに大きく下がり、私達の周囲のスペースに余裕が出来た。


「封印結界の大きさはどうするの?」


「アナタに任せるわ、そういうのを含めての勝負でしょ?」


「……そうね」


 さて、どうしたものかしら?

 あまり狭すぎると、接近戦でしか戦えなくなるわね。

 となると魔法攻撃も防ぎにくくなる。


 だからある程度の広さは必要ね。

 でも広すぎても駄目ね。

 ならば特別広くもなく、狭くもない広さが理想だわ。


 よし、頭の中でイメージを膨らませよう。

 私はそう思いながら、封印結界の呪文を詠唱し始めた。


「我は汝、汝は我。 嗚呼、母なる大地ハイルローガンよ! 

 我が願いを叶えたまえっ! せいっ……『封印結界』ッ!!」


 私がそう呪文を唱えると、周囲がドーム状の透明な結界で覆われた。

 黄昏色の夕空に照らされて、透明な結界が黄昏色に染め上げられた。

 そして私とネイラールを閉じ込めるように、ドーム状の結界が広がった。


 縦と横の広さも程良く、それでいて高さもそれなりにあるわ。

 これならばお互いに存分に戦える事が出来るでしょう。

 

「へえ、絶妙な広さの結界ね。

 それじゃあ結界の強さを確認するわ」


 ネイラールはそう言って、周囲を覆う透明な結界結界に近いて、左手で触れた。

 するとネイラールの左手が結界に強く弾かれた。


「ウン、これならば周囲のギャラリーの邪魔が入る事はないわね。

 この結界を解除したければ、アナタを倒すしかない。

 ウン、これで私とアナタは戦うしかなくなったわね」


「……そうね」


「―――我が守護聖獣ブラックスよ。 

 我の元に顕現けんげんせよっ!!」


 ネイラールはそう叫んで右手を頭上にかざした。

 するとネイラールの頭上に漆黒の狐が現れた。

 あれがこの女の守護聖獣なの? 

 とすればこっちも守護聖獣を出すしかなわね。


「――我が守護聖獣ランディよ。 我の元に顕現せよっ!!」


 私もそう叫んで、自分の守護聖獣を召喚した。

 こっちがジャガランディに対して、

 ネイラール側は漆黒の狐。


 そしてネイラールは漆黒の大剣の柄を両手で握り込んだ。 

 それに対応すべく、私も聖剣――戦乙女の剣ヴァルキュリア・ソードを右手に、左手に幻魔の盾を構えて、戦闘態勢に入った。


 そしてお互いに視線を交わして、大きな声で叫んだ。


「――行くぞ、戦乙女ヴァルキュリア!」


「――来い、女将軍ネイラール!」


 後は力の限り戦うのみ!

 でも私は負けるつもりはないわよ!

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