第28話 勇猛無比(中編)


---三人称視点---



 ゴーレムの大群を前にして、連合軍の前衛部隊が

 怯みかけたところで、淡い水色のローブを着たエイシルが前に出て

 周囲の者達に呼びかけた。


「慌てる必要はありません。

 ゴーレムは魔力反応『分解』を起こせば簡単に倒せます。

 だから魔導師部隊は最初に氷結魔法でゴーレムを凍らせてから、

 『分解』を発生させるべく、風魔法を唱えてください。

 これを繰り返せば何体居ようが簡単にゴーレムを倒せます!」


「そ、そうだニャン。 ゴーレムは『分解』に弱いニャン」


「よし、皆。 言われた通りにやろうだワンッ!」


「皆、とりあえず落ち着こう」


 エイシルの言葉のおかげで、

 周囲の獣人の魔導師達も落ち着きを取り戻す。


「魔法部隊、攻撃準備は良いかしら?」


「リーファさん、いつでも行けます!」


「じゃあエイシル、やっちゃって!」


「はいっ!」


 リーファがそう言って散開すると、周囲の者達も同様に散開した。

 すると中衛及び後衛の魔法部隊とゴーレム部隊の間の道が綺麗にあいて、一本道が出来上がった。 それと同時に連合軍の魔導師部隊が一斉に詠唱を開始。


「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。 

 我に力を与えたまえ! 『シューティング・ブリザード』!!」


「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。 

 我に力を与えたまえ! 行くニャンッ!! 『シューティング・ブリザード』!!」


 エイシル達は上級氷魔法を詠唱。

 そして魔導師部隊手にした杖を構えて、素早く呪文を詠唱する。

 呪文の詠唱と共に魔導師達の周囲の大気が震えた。 


 そして杖の先端の魔石が眩く光り、

 凍てつくような大冷気が迸った。

 神速の早さでゴーレム部隊目掛けて、大冷気が放射状に放たれた。 


「!?」


 大冷気に呑まれて、ゴーレム部隊がカチコチに凍った。

 ゴーレムは所詮操り人形。 故に耐魔力も殆どない。

 上級魔法ならば、このように氷結させる事は造作もなかった。


 だがこれで終わりではない。

 そして止めを刺すべく魔導師達は呪文を再び紡いだ。


「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。 

 我に力を与えたまえ! 行くニャンッ!! 『アークテンペスト』!!」


「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。 

 我に力を与えたまえ! 行きますッ!! 『ワールウインド』!!」


 エイシル、そしてアストロスも英雄級及び上級の風魔法を唱えた。

 放たれた激しい旋風が、氷結したゴーレムの身体に絡みつく。 

 そこで魔力反応『分解』が発生して、

 氷結していたゴーレムの身体に放射状に皹が入り、硝子のように粉々に砕け散った。何十体ものゴーレムが同じように砕け散っていく。


「我々も後に続くワン!」


「了解ニャン!」


 我々も負けられないと言わんばかりに、

 他の魔導師部隊も氷魔法から風魔法のコンボを繰り返した。 

 ガラスが割れるような音を立てて、砕け散っていくゴーレム達。


 すると若き戦乙女ヴァルキュリアが右手を上げて、

 中列、後列に待機していた弓兵、及び銃士ガンナー達に号令を出した。


「狙撃部隊! 今よ、前へ出て頂戴っ!!

 狙うのは敵の術者及び魔導師よっ!」


「は、はい!」


 この機会を生かして、敵の魔導師を減らすという目論見だ。

 狙撃部隊もリーファの狙いを理解した。

 すると連合軍の狙撃部隊が前線に躍り出た。


「『ホークアイ』発動ッ!!」


 職業能力ジョブ・アビリティ『ホークアイ』を発動せる狙撃部隊。

 そして狙撃兵スナイパー達は膝撃ち体勢で、魔法銃の引き金を引いた。

 更に他の者達も魔法銃で狙撃、あるいは属性の矢で前方の敵の魔導師部隊を狙い撃った。


 放たれた氷の属性弾が敵の術者及び魔導師の眉間に命中。

 眉間を撃ちぬかれた術者は、軽く呻いて地面に倒れ伏せた。


 彼我の距離は四百メーレル(約四百メートル)。

 この距離で敵を狙い撃てるのは戦術的にも大きかった。

 命中した氷の属性弾は、頭蓋骨の中で砕けて、弾の残骸が脳の中に漂流した。

 これによって帝国軍の魔導師部隊が浮き足立つ。


 戦いの流れが再び連合軍に傾く中、

 エイシルが周囲の魔導師達に新たな指示を出す。


「今のうちにこちらもゴーレムを召喚しましょう。

 召喚したゴーレムを前線に押し出して盾にしましょう。

 そしてこちらは先ほどの様に『分解』、

 あるいは長距離狙撃で敵の魔導師を減らしましょう」


「了解ニャ」


「わかったワン、我は汝、汝は我。 聖なる大地ハイルローガンよ。

 我が眷属、ゴーレムよ。 我が召喚に応じよ! ――サモン・ゴーレムッ!」」


「了解ですっ! 我は汝、汝は我。 聖なる大地ハイルローガンよ。

 我が眷属、ゴーレムよ。 我が召喚に応じよ! ――サモン・ゴーレムッ!」」


 猫族ニャーマン犬族ワンマン兎人ワーラビットの魔導師達がゴーレムを召喚する。そしてエイシルの指示通り前線に押し上げて、

 敵のゴーレム部隊と真正面から衝突させた。


「エイシル、悪くない戦術よ。

 こうして乱戦に持ち込み、相手の魔導師を削れば

 いずれはこちらが有利になるわ」


「……ありがとうございます」と、エイシル。


 その後、乱戦状態が続くなか、

 連合軍の狙撃部隊が敵の術士、魔導師を確実に仕留めていく。

 それによって帝国軍の防御陣が崩れだした。


「進め!進め!俺達の手で、港町ジェルバを奪回するのだ!」


 ヒューマンの中年男性の傭兵隊長ジャックはそう叫びながら、部下の士気を高める。

 既に乱戦状態になっており、ただひたすら戦術もない。

 隊列も意味もなく、自らの命を守る為に遮二無二に目の前の敵兵を斬り捨てていくのであった。


「戦え、戦え! 港町ジェルバは目前だ!」


「もう少しだ、後少しで勝利は我々のものとなる。だから手を休めず戦え!」


 傭兵部隊の傭兵隊長ジャックがそう叫び、

 それに習うかのように傭兵及び冒険者部隊は戦場を縦横無尽に駆け回る。

 すると帝国軍が一斉に兵を引き、レッジ丘陵地帯の近くまで後退する。


 この好機を逃さんとジャック達は怒涛の進撃を続けたが、

 レッジ丘陵地帯に配置された大量の大砲と銃兵隊を目の当たりにして、

 背筋が自然と凍る。 帝国の銃兵隊が一斉に構えて狙撃銃及び魔法銃の引き金を引く。


 放たれた銃弾が木霊こだまして容赦なく連合軍の傭兵及び冒険者部隊に襲いかかった。

 完全に虚をつかれた傭兵及び冒険者部隊は混乱状態になり、

 ありったけの銃弾を正面から受けた。


 瞬く間に兵士達が悲鳴と叫び声をあげて地べたに崩れ落ちた。

 更にそこから追い打ちのように、

 大砲から砲弾が爆音をあげて放たれる。


 強烈な破壊音と爆音が戦場に響き渡り、兵士達の死体が順調に築きあげられた。

 傭兵隊長ジャック将軍の表情から血の気が引き、この状況を読み込むのに

 幾ばくかの時を必要としたが、その間にも帝国軍の銃兵隊と砲兵隊は容赦なく攻撃する。


「ひ、退け、兵を退け。このままだと全滅するぞ!」


 先ほどまでの威勢は完全に消え失せた傭兵隊長ジャックは銃弾と砲弾が飛び交う中、

 一目散に逃げ始めた。逃げ遅れた兵は無残なまでに肉体を痛めつけられ、

 完全なる死を体感する事となった。


 これを後方で見守っていたシャーバット公子は、

 全兵に向けて一時撤退の号令を出した。

 だがその間にも後方から銃弾と砲弾が襲い掛かり、多くの犠牲者を出した。

 しかしリーファとその盟友はあえて前線に残った。


(ランディ、聞こえてるかしら?)


(ああ、聞こえているよ)


(ランディ、ソウル・リンクするわよ)


(それからどうするつもろだ?)


(『魔力覚醒』を発動させて、

 戦乙女の剣ヴァルキュリア・ソードで敵の銃兵隊、

 及び砲撃隊に向けて、魔力の波動を放つわ)


(……成る程、面白い試みだ)


(ええ、では行くわよ!)


(ああ、いつでも来るが良いさ)


「―――我が守護聖獣ランディよ。 

 我の元に顕現けんげんせよっ!!」


 リーファはそう叫びながら、左手を頭上にかざした。

 すると次の瞬間、リーファの頭上に「ポン」という音を立てて、

 光り輝く守護聖獣ランディが現れた。


「行くわよ! 『ソウル・リンク』ッ!!」


「了解だ、リンク・スタートォッ!!」


 リーファとランディの魔力が混ざり合い、

 リーファの能力値ステータスと魔力が急激に跳ね上がった。

 そしてリーファは右手の聖剣を掲げて、周囲の仲間に告げた。


「アストロス、エイシル、ジェインッ!

 私が敵の銃兵隊と砲撃隊を叩くからフォローをお願い!」


「「はい」」「ウンッ!」


「はあぁぁぁっ! 『魔力覚醒』」


 リーファは職業能力ジョブ・アビリティ『魔力覚醒』を発動。

 彼女の魔力と攻撃魔力が一気に倍増して、

 彼女の周囲が目映い光で覆われた。

 そしてリーファは右手の聖剣に風の闘気オーラを宿らせた。


「――一気に決めてやるわっ!!」

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