第四章 戦乙女(ヴァルキュリア)と女将軍

第27話 勇猛無比(前編)


---三人称視点---



 ラグルーラ街道のレッジ丘陵地帯の帝国同盟軍の本陣。

 そこで漆黒の鎧姿の帝国の女将軍ネイラールは、

 双眸を細めて、戦局を眺めていた。


「タファレルめ、想像以上に苦戦しているわね。

 でも慌てる必要はないわ。

 我々はここラグルーラ街道で敵を迎え撃つわ。

 その際に魔導師ソーサラー達にゴーレムを召喚させるわ。

 そしてゴーレムの大群を前線に投入して、敵を疲弊させるのよ」


「承知致しました」


 ネイラールの言葉に彼女の副官であるドーラが大きく頷いた、

 ドーラはネイラールと同様に女性のダークエルフであった。

 黒髪のセミショートヘア、褐色の肌が似合う妙齢の美人だが、

 戦場に置いては臨機応変に対応できる頭脳と力を持った優れた副官あった。


 それでいて功を焦ったり、妙な所で

 自己顕示欲を示すようなところは、なかったので、ネイラールとの相性も良かった。


「それ以外に何か打つ手はありますか?」


「そうね」


 ドーラの言葉に考え込むネイラール将軍。

 そして帝国の女将軍は考えをまとめるなり、ドーラに指示を出した。


「敵は港町ジェルバを目指して総力戦を挑んでくるでしょう。

 ジェルバを陥落されると、我が帝国は地形的に他国に対して不利になるわ。

 だからレッジ丘陵地帯に大量の大砲を置いて、

 限界まで敵を砲撃するわよ、それと銃兵隊に魔法銃で敵を狙撃するように伝えて」


「はっ、それでタファレル将軍の部隊はどうしますか?」


「彼にはまだ前線で働いてもらうわ

 但し孤立無援にならないように増援部隊を派遣するわ」


 ネイラールは副官ドーラを見据えながらそう云う。

 副官ドーラは蒼い瞳で女将軍と視線と交わして、こう告げた。


「はい、ネイラール将軍はしばらく本陣で指揮を執られるのですか?」


「私とて出来るものであれば、前線に出たいけど、

 指揮官として大局を見据えないといけないわ。

 だから限界まで敵を引きつけて、

 敵にありったけ銃弾と砲弾をくれてやるわ」


 女将軍の言葉に副官ドーラが「分かりました」と頷く。

 その一方で連合軍のジェルバ侵攻部隊は勇猛果敢に前進を続けた。

 それに対して帝国軍のタファレル将軍は、

 縦深防御体勢を維持して、敵兵を引きつけながら、

 第二陣に重装甲弓騎兵と弩騎兵を配置して、

 弓と弩で一斉に矢の雨を連合軍の前衛部隊に浴びせた。


 だが連合軍は慌てる事なく、

 武具を頭上で時計回りに回させる、切り払いを駆使して矢を弾く。

 すると若き戦乙女ヴァルキュリアが前線に躍り出て、勇ましい声で叫んだ


「怯む事はありませんっ!

 大剣か、長槍を頭上、あるいは手元で旋回させて敵の矢を防いでください。

 それでも厳しいのであれば、戦士や騎士ナイトが前線に出て

 他の味方を護ってください、その間に私達が敵兵を切り捨てます!」


「了解ですニャン」


「我々もフォローするだワン」


「ボク達も後に続きます!」


 リーファの言葉に周囲の獣人達も大声で返事する。

 リーファは手にした聖剣をゆっくり縦横に振った。

 それと同時にヒューマン及びエルフ族を主軸とした傭兵部隊も後に続くかのように前線へと踊り出た。


 血と血がほとばしり、斬撃が反響して、更なる血と死を呼び込む。

 リーファが聖剣を縦横に振るい、黒髪の髪をなびかせてアストロスが速く鋭い斬撃を繰り返し、

 派手さはないが、着実に敵を戦闘不能にさせた。


「――イーグル・ストライクッス!!」


 リーファは視界に入る敵兵を次々と切り捨てる。

 

「エンチャント・オブ・ファイア」


 ここでアストロスが魔法剣を発動させた。

 彼が叫ぶなり、右手に持った白銀の刺突剣が炎で覆われた。


「ヴォーパル・ドライバーッ!!」


 アストロスは間髪入れず、鋭い突きを繰り出して、

 眼前の帝国兵の眉間や喉元を刺突剣で突く。


「ぎ、ぎゃあぁぁぁっ……あああっ」


 獣ような悲鳴を上げる帝国兵。


「アストロス、ナイスよ!

 この勢いで敵を切り捨てていくわよっ!」


「お嬢様っ! 前方二時方向に弓兵アーチャーが居ます!」


「えっ? あっ!」


「死ね、連合の魔女めっ!」


 二時方向に居た敵の弓兵アーチャーが弓を構える。

 だがそれより早くジェインが右手に持った鉄製のブーメランを投擲した。


「お姉ちゃん、危ないっ! ――パワフル・カッター!!」


 ジェインが投擲した鉄製のブーメランが大きく弧を描いて、

 敵の弓兵アーチャーの喉笛を切り裂いた。


「がはぁっ……あああっ!!」


「ジェイン、ありがとう!」


「お姉ちゃん、油断しちゃ駄目だよ!」


「ええ、分かったわ。 アストロス!

 気を引き締めて、残りの敵を叩くわよっ!」


「はいっ、お嬢様っ!!」


 リーファは敵が後退するのに倍した速度で突進し、左右に長剣を振るう。

 次から次へと血しぶきがほとばしり、

 帝国軍の防御陣が崩れかける。


 アストロスもスナップを利かせた鋭い突きを繰り出す。

 また味方の男性エルフの傭兵も戦斧を旋回させて、

 眼前の敵に目掛けて振り下ろす。


 兜ごと頭蓋骨がくだける衝撃が手に伝わり、戦斧が血で赤く塗装された。

 およそ三十分にわたり両軍の激しい衝突が繰り返された。



「ハア、ハア、ハア……結構疲れるわね」


「でもだいぶ敵を減らしたよ」と、ジェイン。


「そうですね、……あ、アレはっ!?」


「アストロス、どうかしたの?」


「お嬢様、前方を見てください」


 リーファはアストロスに言われて、前方に視線を向けた。

 すると前方から人型のゴーレムの大群が押し寄せて来た。 

 ゴーレムの種類は、基本となる土のゴーレムに加えて、

 ウッドゴーレム、ストーンゴーレムの姿も見えた。


 ゴーレムは自我意識を持たない。

 術者に命じられた命令を愚直なまでに実行する戦う人形だ。。

 だがその数が数十、数百となると脅威となる。


 そして見たところ前方のゴーレムの大群は数十体。

 いや下手すれば百体を超えているかもしれなかった。

 だがここで引くわけにはいかない。

 だからリーファは手にした聖剣の切っ先で前方を突き刺した。


「大丈夫、あれぐらいの数なら何とかなるわ。

 だから皆も慌てず確実に一体ずつ倒していくわよ」


 リーファだけでなく、周囲の者達も表情を強張らせた。

 そして前方のゴーレムの大群がこちらに目がけて一斉に歩き始めた。

 それと同時にリーファ達は武器を手に取り、臨戦態勢に入った。

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