第19話 華麗なる戦乙女(ヴァルキュリア)


---主人公視点---



「せいやァッ!!」


「まだだぁっ! まだだ!」


 気がつけばベルナドットの護衛兵は四名まで減少していた。

 ベルナドットはその状況でも怯む来なく嗜虐的な笑みを浮べる。

 私の聖剣とベルナドットの大剣による斬撃が尚も続く。


 だが連戦による疲れなのか、次第にベルナドットの顔に焦りの色が滲みでる。

 それでも驚異的な粘りと精神力で耐えている、この男の精神力は並じゃないわね。

 とはいえ動きが鈍っているのは事実、これはチャンスだわ!

 そして私は次第に斬撃で応酬せず、軽い身のこなしでベルナドットの放つ斬撃を確実に躱す。


 この男を剣技ソード・スキルだけで倒すのは厳しそうね。

 ならばここは魔法も使って、相手の隙を突くわ。


「お嬢様っ!」


「アストロスッ!」


「自分がフォローするので、奴とは二人で戦いましょう!」


「……そうね、そうしましょう」


 確かにこの男相手に一騎打ちでは厳しいわ。

 ならばここはアストロスにフォローしてもらうべきね。


「行きます! ――ウインド・カッター!!」


 アストロスが短縮詠唱で初級風魔法を放つ。

 だがベルナドットは慌てることなく、漆黒の大剣を縦横に振るう。

 耳に響く音と共に放たれた風の刃が漆黒の大剣で弾かれる。


 冗談でしょ? なんという反射神経なの。

 だがアストロスは慌てる事なく眉間に力を込めて、魔力を解放する。

 すると直線状の軌道で放たれた風の刃が弧を描きながら、

 ベルナドットの死角を突いて、その右目を撃ち抜いた。


「うぐッ……おおおッ!! あ、味な真似をっ!!」


「今よっ! アストロス! 連携魔法で行くわよ!」


「はい、お嬢様」


 私は即座に後ろに下がりながら、アストロスの傍に立ち並ぶ。

 それに呼応するように、アストロスも左手を前に突き出した。


「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。 

 我に力を与えたまえ! 『ワールウインド』!!」


 素早く呪文を紡ぎ、左手から中級風魔法を放つアストロス。

 放たれた旋風が、ベルナドットの身体に絡みつく。 

 なる程、狭い場所だから風魔法を使ったのね。

 流石アストロスだわ。

 私はそう感心しながら、左手を前に突き出して、砲声する。


「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。 

 我に力を与えたまえ! 『ファイアバースト』!!」


 私は叫びながら、緋色の炎を連発する。

 爆発音と共にベルナドットの巨大な体が後退を余儀なくされる。

 風魔法と火魔法の連携魔法により、魔術反応『熱風』が起こり、

 その効果と威力でベルナドットの身を焦がす。 


 いくらこの男がタフであっても、

 その魔法耐性や耐久力は、人間の限界を超える事はないわ。 

 少なくともこの至近距離で連携魔法を受けて、無傷でいられる道理はないわ。

 大広間内に爆発による鼻腔をつく焦げ臭い匂いが充満する。


「うおおお……おおおっッ……もう許さん。 

 この手で八つ裂きにしてやるわっ!」


 黒煙が揺らめきを作るなか、

 その中から巨体を震わせながら絶叫するベルナドット。

 ベルナドットの呼吸が荒い。 その血走った左眼で、こちらを睨みつけている。

 でもこの男も疲労の極致の筈よ。 ここは攻めるべきだわ。 

 

(ランディ、聞こえてるかしら?)


(ああ、聞こえているよ)


(アナタの力を借りたいわ)


(うむ、ならば自分を召喚して『ソウル・リンク』と叫ぶのだ。

 そうすれば君の能力値ステータスと魔力は倍増する)


(分かったわ!)


「―――これで終わりよ。

 ――我が守護聖獣ランディよ。 我の元に顕現けんげんせよっ!!」


 私はそう叫びながら、左手を頭上にかざした。

 すると次の瞬間、私の頭上に「ポン」という音を立てて、

 光り輝くジャガランディが現れた。


「ランディ、行くわよ! 『ソウル・リンク』ッ!!」


「了解だ、リンク・スタートォッ!!」


 そして私とランディの魔力が混ざり合い、

 私の能力値ステータスと魔力が一気に跳ね上がった。


「うおおおっ……おおおっ!」


 す、凄い!

 凄い力が溢れてくるわ。

 これが守護聖獣の力なのね。


 更には私は『能力覚醒』を発動中。

 恐らく私の能力値ステータスは通常時の四倍以上近く上がってるだろう。

 だがこの状態で魔法を使うのは危険だわ。


(ランディッ、これから魔法を使うわ。

 但し効果範囲は最小限に止めて、威力も中くらいでお願い!)


(うむ、この場においてはそれが正しい選択だろう)


(では行くわよ!)


(了解だぁっ!)


 私は全速力で地面を蹴り、手にした聖剣を光の闘気オーラで覆う。

 時間にして数秒足らずで、私とベルナドットの間合いは零距離になる。

 これには目を見開いて驚くベルナドット。 


 だが次の瞬間には手にした大剣で、こちらに照準を定める。 

 今の私からすれば、その動きはまるで遅い。


「――イーグル・ストライクッ!!」


 私は手にした聖剣を横に一閃して、ベルナドットの右腕を切り裂いた。


「ぐ、ぐ、ぐっぐあぁぁっ!?」


 ベルナドットは悲鳴を上げて、右手に持った漆黒の大剣を地面に落とす。

 そして私は左手で聖剣を握りながら、

 右手をベルナドットの胸部に当てた。

 私は残された魔力の半分を解放して、叫ぶように砲声した。


「――フレイムボルトッ!!」


 零距離射撃。

 爆音と共にベルナドットの全身が振り乱れる。

 零距離射撃で放たれた炎雷がベルナドットの体内で暴れ狂い、その全身を焦がす。


「ガハアァァァッ…………ゴハアァッ!!」


 ベルナドットは白目を剥いたまま、背中から床に倒れた。

 そして数秒の間は身体を痙攣させたが、直ぐに動かなくなったわ。

 ベルナドットの皮膚は醜く焼けただれて、

 その漆黒の鎧からプスプスと煙が吐き出されている。


 どうやら即死だったみたいね。

 しかし魔法を撃った私の右手もビリビリと痺れている。

 初級魔法で良かったわ。


 上級、いや中級魔法だったら、

 私の右手も無事ではなかったでしょうね。

 『ソウル・リンク』の使いどころを見極める必要があるわね。

 でも勝利は勝利、これで私の、連合軍の勝ちが確定したわ。


「やりましたね、お嬢様」


「凄いですわ、リーファさん」


「リーファお姉ちゃん、凄いワンッ!!」


 アストロス、エイシル、ジェインもこちらに駆け寄ってきた。

 そしてベルナドットの死が確定すると、

 大広間に残った三人の帝国兵は武器を捨て投降した。


 連合軍による残存兵の掃討は思いのほか早く進んだ。

 四割近くの兵が投降したのもあるが、

 騎士団長エルネスやチェンバレン総長達が

 手際よく敵を殺害及び捕縛して六時間たらずで、

 ほぼ残存兵掃討の任を終えた。 



---三人称視点---



「パルナ公国ばんざい!」


戦乙女ヴァルキュリアばんざいっ!」


 パールハイム城にパルナ公国の国旗が翻り、兵士達と群衆が歓喜の渦に呑みこまれた。人々は母国が正統な統治者のもとで、

 国家としての威信を取り戻す事に酔いしれ、

 声が枯れるまでありとあらゆる賛辞と怒号をあげた。


 リーファは王座の間に続く長い渡り廊下から、

 一階の庭園で喜びに満ちた兵士達と群衆に向かって手を振った。

 一斉に凄い叫び声が爆発する。


「リーファ・フォルナイゼン万歳!」


 四方八方から兵士及び公国民達の叫びが押し寄せる。

 全ての場所の戦いが終結したわけでないが、

 パールハイム城に集結した群衆は、全て終わったような歓喜と歓声のきわみにかけ上っていた。

 群衆の賛辞と称賛を一身に浴びながら、リーファは一人考え込んだ。


 ――凄いわ、皆が私をうやまい、崇めている。

 ――この状況に酔いしれる自分が居る。


 ――だけど大衆、他人はすぐに心変わりする生き物。

 ――それを忘れてはいけないわ。

 ――でも今ぐらいは勝利の余韻に酔いしれてもいいでしょう。



 今回の戦い……パールハイム城攻防戦による戦死者は、

 連合軍1297人に対して、総督府帝国軍は8433人という数字が示すように連合軍が圧倒的な大勝利を収めた。聖暦せいれき1755年6月15日。


 エレムダール大陸を二分する勢力の間で戦火が交われて、

 教会軍が勝利して、帝国軍は局地戦であるが敗北を喫したのである。

 これによって連合軍は勢いづき、帝国では併合領土内で突発的な蜂起が起こった。


 そして皇帝ナバールは重い腰をあげ、

 各将軍を帝都に集めて対抗策を講じようとしていた。

 勢いに乗る連合軍も更なる勝利と栄光を求めて、

 次なる戦いに向けて、準備を整えていた。


 連合軍と帝国軍の雌雄を決する戦いが始まろうとしていた。

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