第18話 帝国将軍の意地


---主人公視点---



 ハアハアハァ。

 私達は全速力で渡り廊下を駆け走り、

 黒光りする鉄製の大きな扉の前に辿り着いた。

 この先に敵の将軍が居るのかしら? 

 そう言えば心なしか強い魔力を感じる気がする。


「強い魔力を感じます。 この先に恐らく敵の将軍が居ます」


 と、エイシル。


「一人じゃないだワン、十人くらいの魔力も感じるワン」


 と、ジェイン。


「リーファお嬢様」


「アストロス、何かしら?」


「他の敵は自分達が引きつけるので、

 お嬢様は敵の将軍を倒してください」


「……いいけど他の二人もそれでいいかしら?」


「ええ、ボク達はあくまでリーファ様の付き添いですから」


 エイシルは一人称ボクなのね。

 なんか可愛いわ。


「エイシル、様付けはいらないわよ」


「それじゃリーファさんとお呼びしますね」


「ええ、それで構わないわ」


「オイラはリーファお姉ちゃんと呼ぶね」


 ジェインはそう云って、嬉しそうに尻尾を振る。

 こういう所は普通の犬っぽくて可愛いわね。


「ジェイン、それでいいわよ」


「うん、リーファお姉ちゃん」


「じゃあ扉を開けるわよ」


「「はい」」「ウンッ!」



 そして私達は目の前の鉄製の大きな扉を開き、中へ突き進んだ。

 白大理石と金銀で彩られた大広間は、目映いの輝きを放っていた。

 丁寧に織られた豪奢な長い赤の絨毯の先に王座があった。


 その王座の前に漆黒の甲冑を身に着けた髪を短く切り込んだ将軍らしき中年男が

 十名ほどの部下を引き連れて陣取っていた。


「……ここまで来るとはな。

 よく見ると女子供の四人組か。

 しかし只者ではなさそうだな、貴様ら何者だ?」


「私達は戦乙女ヴァルキュリアとその盟友よ。

 そしてこの私がアスカンテレスの戦乙女ヴァルキュリアよ」


「何? 戦乙女ヴァルキュリアだとっ!?

 成る程、どうりで今回の連合軍が強かった訳だ。

 ならば俺も名乗らせてもらおう。

 俺は帝国総督府将軍のジャンピエール・ベルナドットだ!」


「アナタには恨みはないけど、

 私にも自分の役割ロールを果たす義務がある。

 だから悪いけどアナタを倒すか、拘束させてもらうわ!」


「……フン、そうはさせぬ! 

 いくぞ、貴様ら帝国軍の意地と矜持を見せてやれ!」


 ベルナドット将軍が右手をあげて号令を出すと十人余りの部下が一斉に前進してきた。すると連合軍の仲間もこの大広間に入ってきた。

 ざっと見たところ、十人以上居るわ。

 これで数の上でも互角になったわね。


「ならば私も戦乙女ヴァルキュリアの力を見せてくれよう!」


 私は凜とした声でそう叫んだ。

 それが開戦の合図となり、大広間で敵味方が入り交じり苛烈な戦闘が繰り広げられた。剣と剣、槍と戦斧による強烈な斬撃を応酬が大広間に響く。


 死を覚悟したベルナドットとその部下達の抵抗は尋常でない粘りをみせた。

 ラーメットも手にした長剣で襲いかかる連合軍の兵士を次々と斬り捨て、

 返り血を浴びながら口の端を持ち上げる。


「どうした、どうした、この俺の首が欲しいのだろ?

 仮にも帝国将軍の首を望むなら、貴様らも命がけでこい!」


「そうね、ならば私も本気を出させて貰うわ!

 行くわよ、『能力覚醒』っ!!」


 私はそう云って、職業能力ジョブ・アビリティ・『能力覚醒』を発動させた。

 この能力を発動すると、五分間だけ能力値ステータスの数値が倍になる。

 実戦で使うのは初めてだけど、

 これを機に自分の能力のスペックを知るのも悪くないわ。


「ぬっ……す、凄い闘気オーラだ。

 だが俺も帝国の将軍、故に引くことなど出来ぬ。

 良かろう、俺も全力で戦わせてもらう、ハアァッ!!」


 ベルナドットはそう云って、全身に闘気オーラを纏う。

 周囲の大気がビリビリと揺れている。

 凄い闘気オーラだわ、これは油断出来ないわね。


 そしてベルナドットは、手にした巨大な漆黒の大剣を上段に構える。

 筋骨隆々の鋼の肉体に全身から発せられる強力な魔力と闘気オーラ

 正直今まで戦った敵の比じゃない。 この男、かなり強いわ。


「来ないのか? ならばこちらか行かせてもらおう! 

 ハアアアアアアッ――『ハード・スマッシュ』ッ!!」


 ベルナドットは雄叫びと共に、猛烈な速さで漆黒の大剣を振り下ろした。

 私は咄嗟にサイドステップで躱したが、

 振り下ろされた大剣が、大広間の床にクレーター状の深いあなを穿った。 

 と、とんでもない破壊力だわ。


「どうしたァッ!? それでも戦乙女ヴァルキュリアなのかっ!?」


「くっ……」


 私は軽く呻いて、バックステップしたけど、眼前の男も追撃してくる。

 大剣の重さを感じさせない鋭く速い斬撃が、四方八方から襲いかかってくる。

 私はサイドステップやバックステップを駆使して、

 なんとか斬撃を躱しながら、時折パリィで相手の大剣を受け止める。


 一撃受けただけで重い衝撃で全身が震えた。

 ……これは何度も受け止める事は難しいわね。 

 『能力覚醒』で能力値ステータスを強化していても、

 互角、あるいは向こうの方がパワーがあるようね。


 だけど私も引くわけにはいかないわ。

 私はもう貴族令嬢ではないのだ。

 サーラ教会と連合軍の為に戦う若き戦乙女ヴァルキュリアなのよ。


 だからここで帝国の将軍を倒して、

 周囲に私の力を思い知らせてやるわ。


「ベルナドット将軍、アナタの首を貰い受けるっ!」


「ふん、取れるものなら取ってみよ!」


 そう言葉を交わして、お互いに剣を構えた。

 この勝負に勝って、私は周囲の信頼を勝ち取ってみせえるわ。

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