第13話 注目の的


---主人公視点---



 翌日の6月11日。

 私達を乗せた馬車がパルナ公国のエレムダール連合軍の駐屯地に到着した。


 この駐屯地はパルナ公国とガースノイド帝国との国境の中間点にあり、

 石造りの砦であるラパーナ砦を拠点にして、

 エレムダール連合軍の兵士達の多くが砦の周辺に簡易テントを張っていた。


 なかなかの規模の兵力ね。

 ヒューマンは当然として、エルフ族、猫族ニャーマン

 犬族ワンマン兎人ワーラビットの兵士達もたくさん居るわ。


 とりあえず私達は手荷物を持って馬車から降りた。

 すると私達の存在に気づいた見覚えのある人物がこちらに寄ってきた。

 

「こんにちは、リーファ嬢」


「ラミネス王太子殿下!」


 ラミネス王太子殿下は漆黒のコートと黒スラックスという格好で

 背中に裏地が黒い白マントを羽織り、腰帯に長剣を帯剣していた。

 こうして見ると軍服姿も様になっているわね。


「リーファ嬢、噂は聞いているよ。

 まさか戦乙女ヴァルキュリアになるとはね」


「はい、その結果このように戦場に赴く事になりました」


「……私の妻になれば、このような苦労を背負い込む事もなかったろうに」


「私に王太子殿下の妻は務まりませんよ。

 でも王太子殿下にサーラ教会をご紹介して頂き、 

 今後の身の振り方が決まりました。 

 王太子殿下には感謝しても感謝しきれません」


「……まあ良かろう。 こうなった以上は私の為、

 ひいては連合軍の為に戦って頂きたい」


「……勿論ですわ」


「うむ、良い心がけだ。

 ではこの砦に集まった各種族の司令官を紹介するよ。

 私の後についてきたまえ」


「はいっ!」


 私達は王太子殿下に云われるまま、後に追従する。

 その道中でヒューマン、エルフ族。

 そして犬族ワンマン猫族ニャーマン兎人ワーラビットの兵士達の視線を受けた。


「アレだ噂の戦乙女ヴァルキュリアのフォルナイゼン女史か。

 噂以上の美人だワン、でもその実力はどうだかな?」


「ニャ、ニャ、ニャ! 彼女が戦乙女ヴァルキュリアか。

 美人だけど気の強そうな顔だニャン」


「……ボク達、兎人ワーラビットとしては、とりあえず様子見だね」


「うん、うん。 お手並み拝見と行こうよ!」


 皆、好き勝手言ってくれるわね。

 とはいえそれも仕方ないと思うわ。

 彼等からすれば、やはり私の存在が気になるのは無理もない事だわ。


 そうこうしている内に、

 犬族ワンマンの本陣に到着したみたいだわ。

 

「シャーバット殿、リーファ嬢をお連れしました」


「ラミネス殿、ご苦労様です。

 そちらが噂のリーファ嬢ですか。

 いやあ、噂以上の美人ですワン」


「リーファ嬢、こちらはパルナ公国のシャーバット公子殿下です」


「初めまして、シャーバット公子殿下。

 私が戦乙女ヴァルキュリアのリーファ・フォルナイゼンです。

 以後お見知りおきを!」


「ふむ、そう堅くならずに、気楽に行こう、気楽に!」


「……はい」


 そして私は眼前の犬族ワンマンの公子殿下に視線を向けた。

 品種は……多分ダルメシアンね。

 体長は70セレチ(約70センチ)くらいはありそうだわ。


 白地に無数の斑点という独特の毛並みで、

 垂れ耳が可愛く、滑らかな短毛に覆われた筋肉質な体格ね。

 そしてその身につけた青いコートとズボンがまた様になっている。

 表情も豊かで、その相貌からは意思の強さと知性を感じるわ。


「とりあえずリーファ嬢は、女性兵士達の野営場へ行くといいワン。

 簡易式だがシャワーボックスもあるから、汗を流すと良いワン」


「お気遣いありがとうございます。

 それでは一度野営場に行き、手荷物を置いてきますわ」


「うむ」


「リーファ嬢、案内役をつけよう」


「はいっ!」


 そして私とミランダは、

 王太子殿下が呼びつけたヒューマンの女性兵士に、

 案内されて、女性兵士達の野営場へ向かった。


「ここが女性兵士及び婦人の野営場でございます。

 周囲に女性兵士の見張りをつけてますので、

 覗きなどの心配はないので、気兼ねなくシャワーボックスをお使いください。

 リーファ様達は、あの少し大きめのテントをお使いください」


 彼女はそう云って、中央部にある大きなテントに視線を向ける。

 そうね、ここにあるテントの中では一番立派なようね。


「案内ご苦労様」


「いえ、それでは私はこれで失礼します」


 ヒューマンの女性兵士はそう云って、踵を返した。


「じゃあミランダ、テントに手荷物を置くわよ」


「はい、リーファお嬢様」


 そして私達はテントの中へ入った。

 テントの中には小さな円卓と椅子が置いてあった。

 他には荷物らしい荷物はないわね。


 とりあえずミランダが背中に背負ったバックパックを

 テントのシートの上に置いた。 


「お嬢様、とりあえずこの場は私にお任せください。

 お嬢様はシャワーを浴びるなり、

 軍のお偉方にご挨拶すなり、ご自由にしてください」


「そうね、まだシャワーを浴びたい気分ではないわ。

 だからとりあえず各種族の司令官や代表に挨拶してくるわ」


「はい、いってらっしゃいませ!」


 その後、私はアストロスと合流して、

 ラミネス王太子やシャーバット公子。

 またエルフ族のエストラーダ王国の騎士団長エルネス殿。

 更には猫族ニャーマンの司令官ニャールマン殿。

 兎人ワーラビットのジュリアス将軍とも顔合わせた。


「しかしリーファ嬢は噂以上に美しいですな」


 騎士団長エルネス殿がそう云う。

 彼は青い鎧に白のマントという格好の男性エルフ。

 エルフ族だけあって、美しい顔をしているわ。


「ニャ、ニャ、ニャ、全くですニャン。

 ボクも彼女には期待してるニャン」


 相槌を打つのは猫族ニャーマンの司令官ニャールマン殿。

 見た目は茶トラの猫族ニャーマン

 赤いコートとズボンに黒い羽根つき帽子が似合っているわ。


戦乙女ヴァルキュリアである彼女が戦いに参加してくれれば、

 百人力です。 ここからが本当の勝負と云えるでしょう」


 兎人ワーラビットのジュリアス将軍も周囲に同調する。

 品種はロップイヤーのようね。

 大きく垂れ下がった耳。 丸く潰れたような鼻が可愛いわ。


 茶色がかったふわふわの体毛。

 その上に着込んだ白いコートとズボンという格好。

 体長は……猫族ニャーマン犬族ワンマンより小柄ね。

 多分40セレチ(約40センチ)くらいだわ。


「いやですわ、皆様。 私なんてまだまだですわ」


「いやいや我がエルフ族も美形揃いですが、

 貴方はエルフ族と比べてもまるで見劣りしない美貌の持ち主だよ」


 と、騎士団長エルネス殿。


「ニャ、ニャ、ニャ、今日はもう疲れただろう。

 とりあえず今夜はゆっくり休むと良いニャン。

 そして明日の正午に各種族、各部隊の代表と司令官を

 集めて、作戦会議を行おうニャン」


 と、ニャールマン司令官。


「そうですな、それではリーファ嬢。

 明日に備えてもう休みたまえ」


 と、ラミネス王太子。


「はい、それと明日の作戦会議にこちらの私の従者である

 アストロスも参加して宜しいでしょうか?

 彼はこう見えて剣術の達人ですわ」


「……うむ、良かろう。 私が許可しよう」


「王太子殿下、ありがとうございます」


「いや気にする事はないよ。

 君も気心が知れた者が居た方がなにかとやりやすいであろう」


「ラミネス殿がそう云うなら、私も許可しよう」


「シャーバット公子殿下、ありがとうございます」


「うむ、ではまた明日会おうワンッ!」


 ふう、とりあえずこれで挨拶回りは終わったわ。

 各種族の代表や司令官の反応も悪くないわね。

 とはいえ戦場で活躍出来なければ、

 彼等の態度と評価も一変するだろう。


 まあそれは当然といえば当然。

 とりあえず今夜はシャワーを浴びて、ゆっくり休むわ。


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