第12話 大陸の歴史


---主人公視点---



 とりあえず私達は、家財道具などを教会から与えられた仮住まいに預けて、

 サーラ教会が用意した馬車に乗り込んだ。


 そして聖都サーラハイムをって、三日後の6月10日。

 私やアストロス、ミランダを乗せた馬車を

 サーラ教会の教会騎士団の騎士達が乗る軍馬が取り囲み、

 パルナ公国にあるエレムダール連合軍の駐屯地へ向かっていた。


 警備が充分とも言えるが、

 少しばかり度が過ぎている気もするわ。

 まあ私やアストロス達の監視の意味もあるのでしょうね。


「やれやれ、何だが肩が凝るわ。

 何というか仰々しいわね」


 私は吐息混じりにそう云った。

 すると私の前に座るアストロスが苦笑を浮かべた。


「まあ彼等も仕事ですからね」


「そうね」


 私はそう云って窓の外の景色に視線を向けた。

 周囲には木々が鬱蒼と茂っている。

 こうして見ると平和なものね。


 でもこの世界――ハイルローガンでは日々争いが繰り広げられていた。

 特に私達が住むエレムダール大陸は、

 太古からヒューマンとデーモン族との争いが続いている。


 元々、このエレムダール大陸には、

 私達ヒューマン、それとエルフ族、亜人の竜人族。

 それとデーモン族の四種族しか居なかったというのが定説だ。


 自尊心の高いヒューマンはデーモン族を大陸の覇権をかけて、

 1600年以上前から、争いを続けていたが、

 ヒューマンが有利になり、デーモン族は大陸の東部に徐々に追いやられた。


 そこで状況を打破すべく、デーモン族は「進化の宝玉」を使い、

 犬や猫、兎などの動物に知性を与えて、

 犬族ワンマン猫族ニャーマン兎人ワーラビットといった

 獣人を生み出して、彼等を配下にして再びヒューマンと戦った。


 だが犬族ワンマンは別として、

 猫族ニャーマン兎人ワーラビットは元々は愛玩動物。

 彼等はあまり戦いに適した種族ではなかった。


 簡単に戦闘を放棄して、ヒューマン軍の捕虜となる事が多く、

 デーモン族は彼等を使い捨ての道具の如く、ぞんざいに扱った。

 犬族ワンマン達もそれに対して不服を申し立てたが、

 デーモン族は彼等の主張をまともに取り合わなかった。


 そこでヒューマンは彼等を仲間に引き込むべく、

 彼等の身の保証をして、彼等に領土を与えた。

 犬族ワンマン達からすれば、それを断る理由もなく、

 彼等はヒューマンの配下として、デーモン族と戦った。


 そのような戦いが何百年も続き、

 300年程前にデーモン族はエレムダール大陸の最東部へと追いやられた。

 だがその後もヒューマンとデーモン族の争いは続き、今日に至る。


 とはいえここ100年余りはヒューマン、デーモン族の双方も

 自国領土に留まり、戦争らしい戦争を起こす事はなく、

 比較的平和な日々が続いていた。


 だがそこにナバール・ボルティネスなる人物が現れた。

 彼は戦争という分野においては、類い希な天才であった。

 彼は自国兵を率いて、周辺国に次々と戦争を仕掛けて、

 自国領土を拡大していった。


 とはいえ彼のような存在を良しとしなかった大陸各国の王族や

 政治指導者は、同盟を結び連合軍としてナバールと戦った。

 しかしナバール率いるガースノイド軍は強かった。


 更にはナバールは竜人族、ダークエルフと同盟関係を結び、帝国同盟軍を結成。

 そして連合軍と帝国同盟軍の戦いは更に激しさを増し、

 現在のエレムダール大陸では、

 各国、各種族がしのぎを削る群雄割拠の時代が続いている。


 そして私はその戦いに終止符を打つ為に選ばれた戦乙女ヴァルキュリア

 恐らくこれから想像もしない過酷な戦いが行われるでしょうね。

 でも私はそれでも戦う。


 それが私に与えられた女神からの使命。

 だけどその使命が終われば、後は自由に生きてみせるわ。


「しかしお嬢様、本当によろしかったのでしょうか?」


「ミランダ、どうしたの?」


 するとメイドのミランダが私の顔を見ながら、言葉を続けた。


「お嬢様が戦乙女ヴァルキュリアになられた事でございますわ。

 確かにそれでお嬢様の身の保証はされたでしょうが、

 これからあの『怪物ナバール』率いるガースノイド帝国と

 戦う事になるのでしょう? 私はそれが心配です」


「まあ本音を云えば、私も心配だわ。

 冒険者としての経験キャリアはあるけど、

 私も戦争に参加した経験けいけんはないわ」


「……でもお嬢様はあえて戦場に立つのですね?」


「ええ、そうよ。 今更逃げ出すつもりはないわ」


「……わかりました、ならば私はもう何も言いません」


 ミランダはそう云って、黙り込んだ。

 すると今度はアストロスが言葉を差し挟んできた。


「ミランダ、お嬢様はこうなると梃子でも動かんよ。

 大丈夫さ、この私が全力でお嬢様をサポートするよ」


「ええ、アストロス。 貴方が傍に居てくれるだけで心強いわ。

 大丈夫、私は別に自暴自棄になっている訳じゃないわ。

 戦乙女ヴァルキュリアの使命を終えれば、

 サーラ教会から地位や領土が与えられる事になってるのよ。

 だから使命が終われば、何処か静かな街に移りのんびりと過ごすつもりよ」


「……でも最低十年は戦う事になるのですよね?」


 と、アストロス。


「ええ、大丈夫。 私は必ず生き残ってみせるわ。

 だから貴方達は心配なんかする必要はないわ」


「「……はい」」

 

 どうやら二人も納得してくれたみたいね。

 では駐屯地に着くまで、まだ時間があるから、

 ここは馬車の中で仮眠で取る事にするわ。


 休める時に休む。

 私はそう思いながら、ゆっくりと瞼を閉じた。

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