第9話 守護聖獣(しゅごせいじゅう)


---主人公視点---



「凄いわ、凄い。 この溢れるパワー!!

 これが戦乙女ヴァルキュリアの力なの!?」


「ええ、そうです。 それが戦乙女ヴァルキュリアの力です」


「……女神サーラ、このような力を頂き誠に感謝します」


 私は気が高ぶる中、眼前の女神に礼を告げる。

 だが女神サーラは表情を変える事無く、言葉を紡いだ。


「まだ私から貴方に与える物がありますよ。

 約束通り聖剣と盾を与えますわ、せいっ!」


「っ!?」


 女神が眉間に力を入れると、

 私の右手に剣が握られていた。

 重量は通常の剣と同じね。


 でも分かるわ。

 この剣は凄い魔力を発している。

 恐らく聖剣の類いだろう。


 そして私は聖剣の鞘に手をかけた。

 聖剣は鞘から抜かれて、

 鏡のように光った美しい刃が堂々と現れた。


「す、凄い。 なんて美しい刀身なのっ!?」


「その聖剣は戦乙女の剣ヴァルキュリア・ソードです。

 硬度は超合金アダマンタイトを超えるオリハルコン級です。

 切れ味は抜群で闘気オーラを篭めたら、

 鉄塊でもバターのように斬る事が可能です。

 刀身に魔力を篭めて振れば、

 光の波動や炎塊が放たれて、標的を一掃できます。

 また自動再生リジェネレート機能があるので、

 その聖剣が壊れる事はまずありません……」


「そ、そう。 これは凄い贈り物ね」


「次は盾を与えます」


「え、ええっ……」


 女神がそう云うと、私の眼前に目映く輝いた盾が現れた。

 見た目は白水晶のように盾の表面が透明だ。

 私は左手を伸ばして、眼前の盾を手に取った。


 重さはほどほどね。

 でもこの盾からも強い魔力が発されているわ。

 盾の裏側は金細工や銀細工で加工されている。 


「その盾は『幻魔げんまの盾』です。

 硬度、魔法耐性共に最高クラスの代物です。

 またその盾に魔力を篭めれば、

 自分を中心に結界や対魔結界を張る事が可能です。

 更には魔法の反射、標的の魔力を吸収する事も出来ます。

 この盾にも自動再生リジェネレート機能があるので、

 壊れても、しばらくすればまた使えるようになります」


「この盾も凄いわ。 素敵な贈り物ありがとう」


「いえいえ」


 この聖剣と盾があれば、大抵の相手には勝てそうね。

 それどころか、多対一も充分戦えそうだわ。

 ……これが戦乙女ヴァルキュリアの力なのね!


「まだ終わりじゃありませんよ。

 最後に守護聖獣しゅごせいじゅうとの契約があります」


「守護聖獣? 一流の上級職ハイクラスのみに許される聖獣と契約よね?

 成る程、戦乙女ヴァルキュリアともなれば、

 当然守護聖獣とも契約するわよね」


「ええ、そうですわ」


 噂によれば守護聖獣と契約する事によって、

 様々な恩恵を受ける事が可能らしい。

 守護聖獣は云わば神の化身。


 各種族の頂点に立つ神の化身の聖獣せいじゅうと契約する事によって、

 契約者は新たなスキルや魔法が与えられ、

 ステータスや魔力、魔法力向上の恩恵の受ける事が可能となるとの話。 


 そうね、これを断る理由はないわ。

 でもどんな聖獣と契約するか、少し悩むわね。

 出来れば可愛くて強い聖獣がいいわ。


「貴方が契約出来る守護聖獣は二体です。

 今から私が守護聖獣を召喚するので、

 お好きな方の守護聖獣と契約してください」


「ええ」


「では行きますっ! でよ、ガーラ、出でよ、ランディッ!!」


 女神サーラがそう云うなり、

 魔法陣が現れて、まばゆい光を放った。

 白、青、赤、黄色、緑とカラフルな色の光が魔法陣から溢れ出る。


「ニャオオオンッ!」


「ミィィィッッ!!」


 鳴き声をあげながら、魔法陣の中から体長六十セレチ(約六十センチ)のサバ虎の猫、ほっそりとした体形の茶色の猫らしき聖獣せいじゅうが現れた。


 一匹は愛くるしいのサバ虎の猫。

 いや二足歩行してるから、獣人じゅうじん猫族ニャーマンかしら?

 愛くるしいまん丸の蒼いの瞳。 ふさふさの毛。 

 そして肩下まで丈のある緑のケープマントを羽織っている。

 

「やあ、こんにちはニャン。

 ボクは猫妖精ケットシーのガーラだニャン。

 魔法に関するエキスパートだニャン、以後お見知りおきニャンッ!」


 猫族ニャーマンではなく、猫妖精ケットシーなの?

 ……愛想はいいわね。 でもこういうタイプはあまり好きじゃないわ。

 基本的に「自分が可愛い」と思っているタイプね。

 猫族ニャーマンにはよく居るタイプだわ。


 もう一匹は ほっそりとした体形のネコ科の動物っぽいね。

 あまり見た事ないわ。

 イタチやカワウソにちょっと似てるわね。


 体色に斑紋などは無く、毛の色は鈍い赤。

 脚は短く、尻尾は長め、頭がやや長く、

 眼は虹彩が褐色で、瞳孔は丸いわね。

 短くて丸い耳が可愛らしいわ。


 首元の赤いスカーフがお洒落ね。

 でもなんというか少し無愛想な感じな表情だわ。


「……初めまして、自分はジャガランディのランディだ。

 得意な能力は分析能力と探査能力、予測能力だ。

 自分と契約すると、自分の能力が貴公と共有されて、

 貴公にも分析眼と予測眼が使えるようになる。

 また個体としての戦闘力にも自信がある。

 中クラスのモンスターなら単体で狩る事も可能だ」


 なんだか質実剛健って感じね。

 でもこういう飾りっ気のない所が良いわ。

 それに加えて分析能力と探査能力、予測能力か~。

 これはどちらを選ぶか少し悩むわね。


「でどっちにするニャン?

 というか当然ボクでしょ?

 だってボクは可愛くて強いモン!

 ボクを選ばない理由はないだニャン」


 ……ウザいわね。

 これは軽くしめてやる必要があるわね。


「私はランディの方が好みだわ」


「えっ~、なんでボクじゃないだニャン?

 ボクは可愛いだけでなく、魔法のエキスパートだニャン。

 魔力の保管も出来るし、保管した魔力をキミに与える事も出来る。

 攻撃、支援、回復魔法も使えるだニャンッ!」


「うん、能力は魅力的ね。

 でもアナタは却下よ、却下!」


「ニャ、ニャニャオンッ!

 な、何でニャン? 納得いかないニャンッ!」


「その性格よ、自分は他人から愛されて当然と思ってるでしょ?

 でもね、この世の全ての人間が猫好きと思わないで頂戴。

 大体アナタ達は食う、寝る、遊ぶが基本でしょ?

 我が物顔で他人の家の敷地を歩き、

 挙げ句の果てには花壇にウンコもする。

 私はね、猫のそういう所が嫌いなのよっ!!」


「ニャ、ニャ、ニャアアァンッ!」


「五月蠅いわね、ニャー、ニャー鳴かないで頂戴!」


 すると眼前の猫妖精ケットシーは露骨に動揺した。


「ニャ、ニャ、ニャ、こんな仕打ちは初めてだニャン。

 く、屈辱ニャン、悔しいニャン、悔しいニャンッ!」


「そうやって甘やかされたから駄目なのよ。

 人間で言えば我儘に育てられた貴族の息子や令嬢ね。

 自分が全ての中心に居ると思ってる甘ったれた考えだわ」


「ニャー、ニャー、この人無理、マジで無理ニャンッ!

 ボクちゃんはもう帰るニャンッ、バイバイニャーンッ!!」


 眼前の猫妖精ケットシーがそう言い残すなり、

 ポンと音が鳴り、その姿が見えなくなった。


「……堪え性がないわね。

 だから猫は好きじゃないのよ……」


「……」


 気が付けば周囲がシンと静まり返っていた。

 ……少し言い過ぎたわね。

 そこで私とランディの視線が合う。


「……自分もある意味、猫のようなもんだが……」


「アナタの事は嫌いじゃないわ。

 私も全ての猫及びネコ科を否定してる訳じゃないわ。

 あの猫妖精ケットシーのようなタイプが嫌いなだけよ」


「……そうなのか?」


「そうよ」


「ならば自分との契約を望まれるのか?」


「ええ、私の守護聖獣になって頂戴」


「……我は守護聖獣ランディ。 戦乙女ヴァルキュリアリーファよ。

 汝は我との契約を望むか?」


「ええ、だから私に力を貸して頂戴」


「うむ、良かろう。 我はランディ。 汝リーファ・フォルナイゼンよ。

 我と力を合わせて、共に戦おう!」


 そう告げると、ランディの身体が目映く輝いた。

 そしてその身体が私の胸部に触れて、その姿が消滅する。

 すると私の全身に眩い光が包み込んだ。


「うおおお……おおおっ!!」


 凄い、凄い力が全身から漲ってきたわ!

 これが守護聖獣の力なの!

 戦乙女ヴァルキュリアの力に守護聖獣の力が加わり、

 まさに虎に翼状態、今の私に敵はないわ。

 と、私の全身が感じたことのない万能感に包まれた。


「――無事に守護聖獣と契約を果たしましたわね。

 では今から貴方を現実世界に戻します。 

 では戦乙女ヴァルキュリアリーファさん。

 その力を正しく使って、世の中を良き方向に導いてください」


「ええ、使命はきちんと果たすわっ!」


 女神がそう告げると、私の身体が眩い光に再び包まれた。

 これから先どんな困難が待っているかは分からないけど、

 今の私は希望に満ちていた。  


 だが後にして思えばここが分岐点ターニング・ポイント

 婚約破棄された私こと追放令嬢リーファ・フォルナイゼンは、

 この時を境に波乱万丈の人生を歩むことになるのであった。


 だがこの時の私はそんな事も知らず、


「必ず幸せになってみせるわ!」


 と自信に満ちた表情でそう言い切った。

 そしてそこで私の意識が暗転した。

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