第8話 女神との取引き


---主人公視点---



 意識が回復した時、私は真っ白な空間の中に居た。

 ここは何処? 死後の世界? それとも天国? 

 よく見ると視界の中央に誰かの姿が見えた。 

 段々と視界がクリアになり、その姿が顕わになる。


「初めまして、リーファ・フォルナイゼンさん」


 唐突に眼前の美女がそう語りかけてきた。 

 艶やかなプラチナシルバーのロングヘア。

 秀麗な眉目に、手足が長く胸も大きいという非の打ち所のないプロポーション。

 そして露出の多い水色の羽衣に身を包んだ妙齢の美女。


「貴方は誰?」


「私は女神サーラと呼ばれる存在です」


「め、女神サーラですって!?」


 私は予想外の事態に驚きの声を上げた。

 まさかこうして女神サーラと会えるとは……。

 でも神様が人間体なのは少し意外ね。


「この姿は仮のものですよ。

 貴方のような戦乙女ヴァルキュリアを目指す者や

 神との邂逅を果たした者がイメージしやすいように人間体を取ってます。

 また『浄化の儀式』の際に貴方に語りかけたのは私です」


「へえ~、って私の心が読めるの?」


「ええ、貴方は私の心は読めませんが、

 私は貴方の心を読む事ができます」


 ……。

 成る程、ならばここはあえて本音トークと行きましょうか。

 心の中が筒抜け状態なら、猫を被っても意味ないからね。


「それで貴方は本気で戦乙女ヴァルキュリアになるつもりですか?」


「ええ、そのつもりよ」


「ならば私の方から戦乙女ヴァルキュリアになるにあたって、

 色々と説明及び助言するので、よく聞いててください」


「……分かったわ」


 すると女神サーラは真顔になり、説明を始めた。


「まず私と契約して戦乙女ヴァルキュリアになれば、不老の存在になります。

 但し不死ではありません。 戦乙女ヴァルキュリアは、

 高い生命力と自己再生能力を有してますが、

 首を跳ねられたり、心臓の鼓動が止まれば絶命します」


「まあ不老不死なんて人間にとって都合が良すぎるわよね。

 もっとも私は不老不死になんかにはなりたくないけど……」


「それは何故ですか?」


「決まってるじゃない?

 自分の知人が歳を取り老いていくのに、

 自分だけが歳を取らないなんて最悪じゃない。

 更には何百年も経てば、自分の過去を知る者も殆ど居なくなる。

 そんなのある意味、永遠の生き地獄よ」


 女神サーラは私の言葉に目で頷いて、言葉を続けた。


「貴方はなかなか賢いですね。

 まあでもそれは取り越し苦労というものです。

 戦乙女ヴァルキュリアの活動期限は基本的に十年ですよ」


「……十年か~。 それは貴方と契約をかわしてから十年なのね?」


「ええ、そうですよ」


 まあ十年くらいなら、何とか我慢できるかな?

 十六歳という女盛りを十年も満喫できる。

 と考えたら悪くはないわ。


「但し条件次第ではこの年数は増えたり、減ったりします」


「へえ、例えばどんな感じで?」


「貴方が強い能力や武具を望めば、

 それらの物を与える代わりに契約年数が増加します」


 成る程ね。

 そういう仕組みなのね。

 

「なら逆の場合はどうなの?」


「そうですね、例えば戦乙女ヴァルキュリアとしての

 再生能力や身体能力や魔法、スキルを減らすなり、

 なくせば、その分、契約年数は減りますよ」


「へえ、ギブアンドテイクなわけね。

 ならば戦乙女ヴァルキュリアの再生能力を

 ある程度減らす代わりに、

 他の能力や女神由来の武具を望んでもいいわけ?」


「ええ、構いませんが再生能力を下げてもいいのですか?」


 私は女神の問いに「ええ」と頷いた。


「まあ本来ならば再生能力は高い方が良いでしょう。

 でも私は契約期間を終えて、普通の人間に戻るつもりだから、

 あまり過度な再生能力を持つと、

 その後の人生に悪影響をもたらしそうだからね」


「……意外と堅実な考え方をなさられるんですね」


「ええ、だから私の再生能力はある程度下げて頂戴。

 例えば歯が折れたり、抜けても歯はまた生えてくるけど、

 手足は生えてこない、但し欠損した手足があれば

 回復魔法で手足を結合出来る、くらいな再生能力は欲しいわ」


「成る程、それ以外では何を望みます?

 例えば内臓器官の損傷や怪我に対しては?」


 これは予想外の質問ね。

 内臓器官に関しては治癒力が高い方がいいわね。

 現代の回復魔法でも欠損した内臓器官を治すには、

 七段階ある回復魔法のランクで、

 上から二、三番目の魔法力が求められるからね。


「分かりました、貴方の思考イメージを読んで

 貴方の望む再生力を反映するようにしますわ」


「それは助かるわ」


 とりあえず再生力に関してはこんなものね。

 後は身体能力や魔法、スキルをどうすべきか?

 これらに関しては高くて困る事はないわ。


「それじゃあ、身体能力は高めにして頂戴。

 但し日常生活には影響できない程度でお願い。

 筋力がありすぎて、水の入ったコップを壊す事とか

 ないようにして欲しいわ」


「ええ、分かりました」


「それと戦乙女ヴァルキュリアもレベル製なの?」


「ええ、そうですよ」


「そう、じゃあ戦乙女ヴァルキュリアの初期レベルは、

 25にして頂戴、他の職業ジョブのパッシブ・スキルは

 ちゃんと反映されるわよね?」


「はい、反映されますよ」


 ふむ、ふむ。

 ならば後は魔法とスキルだけど、

 この辺は自分で地道に熟練度を上げる事にしよう。


 魔法とスキルは他の職業ジョブで、

 結構頻繁に使ってるから、熟練度も高いから問題ないでしょう。


「……後は何をお望みでしょうか?」


「そうねえ~」


 後は反則級の武器や盾が欲しいわね。

 武器が強ければ剣技ソードスキルも生きるし、

 高い耐魔力や魔力吸収力がある盾なんかもいいわね。


「武器と盾だけで宜しいのですか?」


「それ以外も欲しい事には欲しいけど、 

 契約期間を十年に収めるつもりならば、

 ここは剣と盾だけにしておくわ」


「了解です、では可能な限りに強い剣と盾を用意しましょう」


「ええ、ありがとう」


「――では今から貴方の望むように、

 初期能力及び初期装備を設定します。 

 ではリーファさん、これから貴方は戦乙女ヴァルキュリアとなります!

 この力は云わば、女神と契約した事による恩恵です。

 くれぐれも自分の役割を忘れて悪用しないでください。

 禁忌を犯せば、貴方は強い罰を受ける事になります」


「分かったわ、とりあえず自分に与えられた使命は果たすわ。

 でもそれが片付いたら、後は自分の好きなように生きるわ」


「そうするのもそうしないのも貴方の自由です。

 でも貴方自身が良き人生を送る為に、

 与えられた力を良き方向に使ってください」


「ええ、分かったわ」


 女神サーラがそう告げると、私の身体が眩い光に包まれた。

 うおっ……うわあああぁっっ!!

 凄い、凄い力が全身から漲ってくるわ!

 これが戦乙女ヴァルキュリアの力なの!


 凄いわ、凄すぎるっ!

 この力があれば何でも出来そうだわ。

 でもまずは自分の使命を果たそう。


 後の事はその時に考えるわ。

 でも何と云うか無性にやる気が出てきたわ。

 いいでしょう、使命でも何でも果たしてあげる。

 そしてその後は私自身が幸せになれるように、自由に生きてみせるわ!

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