第二章 こんなに幸せで良いのだろうか

2-1

 フィオナが王国に来て二週間った。

 今日もマティアスと共に朝食をとり、庭を散歩している。やさしい彼と過ごす、のんびりとしたおだやかな日々がずっと続いていて、これでいいのかという疑問がつのってきた。


「ねえ、マティアス。部屋のそうくらいは自分でしてもいいかな?」


 彼女はだ。

 ご飯を食べて、本を読んで、マティアスとカードゲームで遊んで、散歩をして、おやつを食べて。毎日ひたすらのんびり過ごしている。夜になりベッドに入ると、ぽかぽかと満たされた心で気持ちよくねむりにつき、朝になり目が覚めると、また幸せな一日が始まる。

 りょなのにこんなのダメだよね。そう思う気持ちが日に日に増していく。


ひまならもっと遊べるものを持ってきてやるぞ?」


 マティアスは彼女の意図が分かっていないので、甘やかしに追い打ちをかけてきた。

 ちがう、そうじゃないと、フィオナは胸の前で両手をぐっとにぎりしめ、前のめりになってうったえかける。


「そうじゃなくて仕事がしいの。幸せすぎてダメになっちゃう」

「なるほど? よく分からんが掃除がしたいのなら道具を手配しよう」


 幸せならそれでいのでは? 彼はそう思ったが、何やら必死に訴えてくるので要望を聞いてあげることにした。

 訴えを聞き入れてもらえたフィオナは、ぱあっと顔を明るくした。


「うん、よろしくねマティアス」


 その日の夕食後、マティアスがさっそく持ってきてくれた掃除道具を前に、フィオナはぼうぜんとしていた。

 目の前に並ぶ道具は、どう見ても新品でお高そうなもの。ホウキとちりとりは持ち手が黒光りしていて高級感にあふれる、ハタキは黄色とピンク色のしきさいれいで、希少な鳥の羽が使われているんだぜと主張してくる。水色のブリキのバケツなんてねこと草花がえがかれていて可愛かわいすぎる。よごれたぞうきんをすすぐために使うなんてもったいなく感じてしまう。


「使い古したやつで良かったんだよ……」

「どうせ使うなら使いごこのよさそうなものの方が良いだろう。気に入らないのか?」

「ううん、そうじゃなくて……」


 自分には勿体ない品ばかりなので、きょうしゅくしているのだ。

 だけどまた別の物を手配してもらうのは申し訳ない。せっかく用意してくれたのだから、

 これ以上はもう何も言わないで、なおに受け入れることにした。


「えっとね、すごくてきな物を用意してくれてありがとう。大事に使わせてもらうね」

「そうか。それなら良かった」


 彼女が使っている部屋には毎日掃除係の女性が来ているので、どこもかしこもピカピカだ。その状態をできるよう、こまめに掃除をすることにした。

 毎日自分で掃除するようになり、手持ち無沙汰が少しだけ解消された。

 せんたくは自分ではできないので、洗濯係にしてもらっている。今日はシーツのこうかんだと昨日聞いていたので、自分で外してだつかごに入れておいた。

 朝食後しばらくすると、回収に来てくれた年配の女性に脱衣籠ごとわたす。


「いつもありがとう。よろしくお願いします」

「はいはい、おばちゃんに任せなさい。シーツは週に一度じゃなくていつでも出していいからね。えんりょしなくていいんだよ」

「うん、ありがとう。でもんだ時しかベッドの上では食事してないから汚さないよ」

「ふふふ……そうかい。あの色男にちゃんと大事にされてるんだねぇ」


 女性は少しだけ下品に笑ったが、フィオナは余計なづかいには全く気付いていない。


「うん、マティアスは優しいよ」

「そうかい。良かったねぇフィーちゃん」


 女性はニコニコしながら籠を持って出ていった。


「みんな優しいなぁ……」


 彼女は今日も朝から心がほっこりとなった。

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