第一章 敵国に捕まったのに、なぜか優しくされている
1-1
……ここはどこだろう。
目を覚ましたフィオナは、ぼんやりと上を
頭がすっきりとする。ここ最近ずっと
むくりと上半身を起こすと、ジャラリと金属の音がした。自身の両手が
両手首に取り付けられている白銀の
これは呪印。何らかの制約で人を
呪印はごく
だけど
確かめようと指先から
やはり
枷には
今いる部屋の中なら、
下を
服は
自分は今、どういう
ここはエルシダ王国で、戦場で意識を手放した自分は王国の
それは
大きなベッドは分厚いマットレスでふかふかで、シーツも
どう見ても捕虜には
捕虜用の部屋が空いていなかったのだろうか。そもそも捕虜なんて
「何でだろ……」
ぼんやり座っていると、部屋の
入ってきたのは、黒いズボンに灰色のシャツというラフな格好をした金色の髪の男だ。
この人がいるということは、やはりここは王国のようだ。
男はフィオナと目が合うと、足をピタリと止めた。
「……すまない。起きていると思わなかったからノックもせず入ってしまった」
男は開口一番、謝罪を口にした。
彼女はこの男と敵対し
初めて聞いた声は聞き
そして彼女も彼に初めて話しかける。
「えっとね、そんなこと気にしないから
フィオナは
基本的に
「そうか、それなら良かった。少し不自由な思いをさせているが
男はまた謝罪を口にした。なぜ捕虜にこんなにも気を遣うのだろう。フィオナはおかしくなって、口に手を当ててクスッと笑った。
「どうした? 何かおかしかったか?」
「うん、だって私のこともっと雑に扱っていいはずなのに、すっごく
「そうか……」
おかしいけれど、何だかくすぐったくなる初めての経験だ。自国ではこんなに大切に扱われたことがなかったから。
彼女はまだギリギリ手を出されていないけれど、クズ皇子のせいで散々な人生だった。
それなのに、捕虜になってからこんなに
帝国では、人が処刑されることはごくありふれた身近なことだったので、彼女はもう自分が処刑されることを当然のこととして受け入れている。
この丁重な扱いは、死にゆく者へのせめてもの情けだろうか……?
フィオナは少し考えて、恐らくそうだろうという結論に至った。だってそれ以外に理由は考えられないから。
(どうやって殺されるんだろう……痛いかな。痛いのは
嫌だけれど、この国に対して自身が行ってきたことを考えたら、それも仕方ない。
(皇子のばか。人でなし。
しみじみと
疑問に思ったフィオナは服をめくり上げ、腹部にあるはずの制約の呪印を
「んなっ」
いきなり目の前で何の
「ねぇ、ここにあった呪印知らない? 黒い
男は目を逸らしながらも質問に答える。
「それならうちの
「……そうなんだ」
まさか敵国で解いてもらえるだなんて思いもせず、じわじわと喜びが
「ありがとう、蒼い神器の
彼女は心から感謝して、ふんわりと
どうせ処刑するのだから、敵の呪印を消すだなんて、そんな
この国の人間はお
「気にするな。ところで君の名を聞かせてもらえるだろうか。俺はマティアスだ」
「私はフィオナよ」
「フィオナ……フィオナか。良い名だ」
彼は少しだけ目元を
戦場ではいつも
「何だその顔は」
「えっとね、あなたも笑うんだなって思ったの」
「失礼だな君は」
「ごめんなさい。だって私、あなたの
そう言われ、マティアスは眉間にシワを寄せながら、自身の
(怖い顔か……)
表情が豊かな方ではないとの自覚はあるが、怖い顔と思われていたとは心外だった。そして彼女もあまり人のことを言えた義理ではない。
「そういう君だって―― 」
いつも涼しげな無表情だっただろう。そうマティアスが言いかけたところで、部屋の扉がガチャリと開いた。
「あっれー? 起きてたんすね。ノックもせずに失礼したっす」
白いローブを身に着けた男が陽気に笑いながら部屋に入ってきた。
長い赤髪を後ろで
「金の
男は
「うん、いっぱい寝たから元気だよ。ありがとう」
敵意は
「あれれ? おかしいっす。ここは『気安く話しかけないでもらえるかしら』って虫けらを見るような目で見るか、フッと冷めたように笑って無視されるかのどっちかだと思ってたのに。びっくりっすよ。あ、オレはルークっていうっす」
「そう。私はフィオナっていうの」
彼女は前半の主張は全て無視し、のんびりゆっくりと自己
ルークはキョトンとした後、マティアスに
「マティアスさん、なんすかあの子。イメージと
ヒソヒソと小さな声で、
「あぁ、俺も同じことを思っていたところだ。だがお前はその気持ちは捨てろ」
「そんなぁ~
「
二人は小声でなんやかんやと話していて、フィオナはそんな二人の背中を、仲が良いなぁなんて
死ぬ前に一人くらい友達が
しばらくしてから、マティアスはフィオナに向き合った。
「体は大丈夫か? 医者が言うにはどこも悪くはないようだが、なかなか目を覚まさないから心配したぞ」
「えっとね、いっぱい寝てすっきりした感じかな」
マティアスの話によると、フィオナは
さすがに
「食事できそうか?」
「しょくじ……」
今まさに
ほんのちょっと
「お腹は空いているみたいだな。目が覚めたらすぐに食べられるように用意はさせているが、
「えっとね、元気だから何でも食べられるよ。ありがとうマティアス」
フィオナは前のめりになり、瞳を
「……では取りに行ってくる」
そう言いながらすぐにマティアスは部屋を出た。
「うんわ、マティアスさんがあんな表情するなんてびっくりっすよ」
「……?」
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