1章 魅了魔法と私
1-1
「お前ほど美しく心
「あの……オルガ様。あなたにはご
「なあに、親の決めた政略
──
うん。見事な壁ドンだ。逆光で
(……壁ドン、もう慣れちゃったな……)
心優しいと彼に言われるようになった心当たりを探す。……だめだ、思いつかない。
しいて言うなら、こないだ特別授業で席が
……そんなことで、婚約者を捨てて私にアプローチしてきてる? まさか。
……でも、まさかじゃないんだよなあ。
「──ちょっと! これは一体どういうことなんですの!?」
はあ、とため息をつこうとしたところで、耳にキンキンと
「なっ……リンドマリー!?」
「
ああ……
この学園に入学してから、いったい何度目のことだろう。
でもこのおかげでオルガ様からの壁ドンからは解放されそう。よかった。
「珍しい
あっ、来た来た。来たぞ。
リンドマリー様が私に
「……かわいい……っ!」
はああ〜とリンドマリー様は
「こ、こうして間近でお顔を拝見しますと……えっ、
「そうだろう、リンドマリー。これはちょっと
「クラウディア様がかわいらしいことには同意しかありませんが、それは承服
「なっ、なんだと、リンドマリー! 許せん! 絶対に彼女は
「望むところですわっ、彼女はわたくしが守ります!」
白熱するオルガ様、リンドマリー様。
私はその間にコソッとこの場を
これは私の
*****
「アイリス! 君との婚約を破棄する! そして……僕はこの
シン……と静まり返るホール。
定例の学園集会、生徒会長であり
(え……。なぜ、学園集会でこんな婚約破棄宣言を……!?)
しかも私の名前をちゃっかり挙げていた。
学年の
「……一体、どういうおつもりですか! 学園の集会においてそのような私的な宣言をなされるなど、あなたに公私の区別はありませんの!?」
「フフン、この学園中に知らしめるべきことだと思ってね。どうやら君はこの愛らしいクラウディアに
「そんなことはしておりません!」
……アイリス様とも接点……ないな。あ、でも、もしかしたら……。
(この間の合同調理実習で、タマネギを切るのをご
その時、アイリス様はタマネギの
……
「あなた、なんてことをいうのですか……わたくしが、この、全世界で一番愛らしいクラウディア
マイクも使ってないのに、アイリス様のよく通る声がホールに響き渡る。声量が
壇上のマイク、座席の肉声。ホール中を飛び交うお二人のお声! お二人の
「……クラウディアさん、ちょっと」
盛り上がる二人に見つからぬよう、コソッと三角メガネの先生がちょいちょいと手招きして私をホールから
ホールを出て、教員たちが
先生はやれやれとかぶりを
「ふう、困ったものですね。クラウディアさん、これで何度目?」
「すみません、先生……」
「ああ、いいのよ。クラウディアさんが悪いわけではないんですものね」
薄ねず色の髪をキツく巻いた先生は少し
「あなたはとっても
「あ、ありがとうございます」
うーん、頑張り屋で一生懸命で真面目って、実際のところ『とにかく頑張ってる』ってことしか
でも、私、成績は全部『優』だものね! うん、優等生!
「……ねえ、クラウディアさん。良かったら、これからはワタクシと二人きりで特別授業を
「えっ!? そ、それは、ダメなのでは」
「特例でワタクシが担当している科目以外の単位も取れるようにするから! ねっ、クラウディアさん。こんな思春期の群れに
はあはあと
「ひ、ひいっ! し、失礼しまーす!」
私は
トボトボと学校の校舎から
──これはもはやモテるとかそんな
どうしてこうなる。どうしていつもこんなふうになる? 私はもっと『
私……こんなめちゃくちゃな学園生活、無事卒業を
(なんだか最近、前にもましておかしくなってきちゃったな……)
学園に入学したての
かつて同級生とのやりとりは
先生たちも、前はおかしなことになった人たちに
『気配消し』の魔法を使って
「……おかしいな、俺の
さきほど
(うう、見つけないで)
家にいた頃はお父さんに『女神』と呼ばれたらとても
この人がいなくなったらコソコソダッシュで薬学教室に移動しないと。「次の授業なんだっけ?」「魔法薬学だよ」とこんな会話の流れから一秒後に顎クイされると誰が思う。
不思議そうに首を
よっと
「いけない、もう時間無くなっちゃう!」
気になったけれど、慌てて私は薬学教室にコソコソしながら小走りで向かった。
また別の日。今日も渡り
はあとため息をつく。ホッと安心したのも
茂みの中で
(……いいなあ)
なんてことのない『普通』の風景だと思う。私にはない『普通』の日常。
人目を避けて茂みで座り込んでいる私は『普通』ではないと思う。両親から甘やかされて育った世間知らずの私でも、それくらいのことはわかる。
(学園生活、楽しみにしてたんだけど)
もう二週間も両親からの手紙の返事をしないでいる。手紙に書けるようなことが何もないから。父と母に伝えられるような楽しい出来事がない。
毎日毎日、男の子にも女の子にも、果てには先生にまで追いかけられて変な感じで告白されているだなんて、そんなことを両親への手紙に書けるわけがない。
私を
東屋の女の子たちの会話に耳を
(……この子たちが話していること、このまま手紙に書こうかな)
お友達とこんなことを話して過ごしているんだよ、って。
(さすがにそれは、ダメだよね)
自分の考えに、首を振る。顔を上げて、周囲の様子を
そんな私の目の前をサッと誰かが横切った。深紅色のマントがはためき、ジャラ、と重々しげに何かの音がした。
ええと、あの人は……。この国の王子様だ。名前は……。
「──アルバート様! ちょうどいいところに」
そうだ、アルバート王太子
(うーん、でも、いつも周りに女の人がいる派手な人……って思ってたけど。最近はお一人でいることが増えたような……?)
殿下は私よりひと学年上の二年生。学園に入学したばかりの頃、わあ学園に王子様がいるんだあ、すごいなー、王子様だし、カッコいいからモテるんだろうなー、背も高いしなー、すごいなーと思いながらおのぼりさん全開で彼を取り囲む女子生徒たちの壁ごしに遠巻きに見ていた記憶がある。女の子に囲まれても頭一個分くらい背が高いからわりとしっかりお顔は見られた。豊かな金色の髪に意志の強そうなつり眉、大きな青い瞳、不敵な
殿下ご自身の表情そのものはその時と変わらないし、目を引く人だというのも変わらないけれど……。なんでだろ。
「……あら、クラウディアさん。お一人? もうじきお昼休みも終わるでしょう、よかったら一緒に教室に
同級生の女の子だ! しまった、殿下を
(まあでも女の子だからマシかな……)
苦笑いで返しながら彼女と一緒に教室に向かう。……けど、
(これ、お友達の距離じゃないよね……)
同級生女子はぺったりと私に身を寄せて、しなやかな指先を私の手に
(……『普通』のお友達が
なんて、私は廊下の窓の向こうの青い空に思いを
今はまだ、二学期が始まってやっとひと月が
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