第4話:付け入り。そして戦線崩壊。

 <義輝視点です>


 謙信と信玄の軍勢が敵主力に襲い掛かる!


 ぱんぱんぱんぱん!!


 白い煙の後に無数の鉄砲の発砲音。

 将兵が怯み、両軍勢の勢いが削がれた。


 そこへ上杉には島津、武田には宇喜多が側撃を始める。

 武田には柴田と信忠の軍勢からも、反撃部隊が繰り出されている。


「惜しい所を。こちらも第二陣を増援に」

「いけませぬ。それでは先ほどの長曾我部と吉川勢の二の舞。付け入られて大混戦に」


 近くに控える三河守(徳川家康)が進言してきた。


「鍔迫り合いよりも、離れての斬撃の方がよいな」

「御意」


 戦も剣術と同じよ。


「では今のうちに粛々と後退を……」


 どかーーん!

 どかーーん!


 何事?

 敵の本陣の上空に白煙。


「上様。敵の総攻撃にございまする」


 おおお。


 敵軍一〇万以上が一斉に前進してきた!


「持ちこたえよ! その間に後方の毛利勢に援軍を」

「毛利は動かないかと。それよりも第二線を早急に整えねば。伊達・佐竹・鈴木。それにまだ戦線に出していない北条勢の半数。

 これにて堅固な陣形を」


 堅固も何も。馬防柵すらない。

 鉄砲の射掛け合いから矢合わせ、そして長柄での殴り合い。

 その後の手槍での突撃。


 これをどれだけ抑える事が出来るか?

 上杉勢と武田勢がいなければ、三万五〇〇〇対一〇万。

 勝ち目などない!


「何か策は無いか!?」

「……」


 無能めが!

 せっかく取り立ててやろうと思ったのじゃが、この野戦が上手いと定評の家康。益体もないわ。



「上様! 朗報にて!」


 坂道を五〇歳近くとは思えぬ勢いで登ってくる藤孝。


「たった今。天が下知りました! 光秀謀反! 側撃が開始されまする!」



 ◇ ◇ ◇ ◇



 <柴田勝家視点です>


「松尾山より、明智勢駆け下り、羽柴勢に襲い掛かりましてございまする!」


 キンカンめ!

 猿も嫌いだが、あのキンカン頭は何を考えておる!

 この重大局面での謀反か?


 このような織田勢有利な時に寝返りとは、下手な博打を打ったものよ。


 まあよい。

 ワシの備えはただ前進するのみ。

 あの十九女山に到達することだけを考える。


「明智勢は羽柴勢に任せる。皆の者、前進じゃ。鉄砲隊をならばせぃ! (佐々)成政、日頃の猛訓練の晴れの舞台ぞ。相模の地黄八幡を潰せ!」


 成政の鉄砲隊が三○○人毎の横隊を一〇列に並んで、鉄砲を腰だめにして筒先を北条勢へ向けて前進を始める。


 三〇〇〇人の鉄砲隊の周りを長柄と弓兵、手槍のものが固める。


 総勢二万が後退する北条勢二万へ向かっていく。


「敵。射程に入りました。一射目」


 最前列の三○○人が、膝をつき射撃。

 距離一五〇間(約三○○m)。


 まだまだ当たる近さではない。

 だが敵が怯む。


 射撃を終えた三○○人はその場で弾込めを始める。

 続いて第二列がそのまま前進。


 北条勢も鉄砲を並べて応射。

 それでもひるまずに弾込めをできるまでに鍛えぬいた成政。

 褒めてやる。


 数人が倒れた。


 第二列が立ち止まり射撃。

 北条の鉄砲隊にも損害が出始める。


 第四列目の射撃が終わったころには、北条の鉄砲隊の弾込めが間に合わなくなった。

 第五列目は一方的な射撃となった。


 既に距離は五〇間(一○○m)を切った。

 三〇人以上の武田の鉄砲射手が倒れる。


 さらに四〇人。

 さらに五〇人。

 一〇列目が撃ち終わるころには、北条の鉄砲隊は怯み戦線を維持できなくなる。


 北条は左右から騎馬隊を迂回させて突っ込んできた。

 そのくらいはお見通しよ。


「左右の弓兵。連続射撃!」


 左右一〇〇〇人の弓兵が、矢継ぎ早に敵騎馬隊に矢の雨を降らせる。

 なに、武者に当たらずともよい。

 馬に当たれば騎馬隊ではなくなる。


 そこに長柄の備えを突っ込ませる。前田隊、川尻隊がよくやる。

 どんどん押し込め。


 徐々に敵前線を圧迫していく。

 無理な突撃はせん。

 手取川の恥辱は忘れぬ。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 <織田信忠視点です>


「(丹羽)長秀。これをどう見る?」

「信長様のご意向は、力技で敵の小細工を押しつぶせ、という事でございましょう」


 そうなるな。

 母衣衆の口上では「島津勢を先鋒にして俺の軍勢三万が敵を圧倒せよ」だった。


 三万五〇〇〇もいれば、敵の第二陣を突き破れよう。

 左右の守りも南は柴田勢と羽柴勢、北は父上の旗本の半分一万五〇〇〇が固める。

 まだ立花勢は損害軽微。

 このまま押し切れるな。


「では全軍、突撃せよ。一気に決める」


 光秀の奴は秀吉に任せる。

 あいつらは仲良くじゃれ合っているがいい。



 ◇ ◇ ◇ ◇


 地図です

 https://kakuyomu.jp/users/pon_zu/news/16817330652527493782



 <鈴木重秀視点です>


 こいつ等。

 肝が据わっていやがる。

 佐々とか言ったか。

 よくここまで兵を練ったな。


 損害を物ともせず前進してくる。


 既に北条勢の左翼は跡形もない。

 柴田勢はそのまま俺のとこへ向かってきやがった。


 俺達も射撃戦で倒せると思ったんだろうが、そううまくはいかんぜ。


「一式弾、発射を許可。先手必勝だ」


 細川のとこにいる大男の医者だか技術者だか、武器商人だかわからん奴が、供給する「みにえる弾」と言う奴。

 本人はこだわりがあるようだが、言い辛いので一式弾と呼ばれている。


 椎の実型の鉛弾のしっぽの部分がネジになっており、後ろに穴が開いている。

 この穴が爆発で広がり、ネジが銃身に張り付き弾を回転させる。


 直進性が抜群に向上した。

 一○○間でも人間の胴を射貫ける。


「敵前列発砲。味方二名負傷」

「第一射開始」


 ぱん!

 ぱん!

 ぱぱん!


 不揃いな発砲音。

 雑賀の射撃上手が、一○○間で正確に柴田の鉄砲足軽を倒していく。


「五○○射で約二○○に損害を与えました。敵の最前列、ほぼ壊滅」


 馬鹿め。

 鉄砲戦で雑賀に勝てると思ったか!


「第二射。敵が落としていった鉄砲を全部いただこうじゃねぇか」



 ◇ ◇ ◇ ◇



 <伊達政宗視点です>


「皆の者。絶対に後退するな。あの最上の狐野郎に救いを求めるくらいなら、俺は腹を切るぞ!」


 はははは!


 皆の者が相好を崩す。

 俺にとっての仇敵である最上勢は、この激戦の中、高みの見物だから益々頭に来るわ。


 だが後退は出来ぬのは当たり前だ。

 正確に言えば背後は山だ。


 謙信が引く。

 島津がそれを慕い走る。

 その後を織田の本隊が何もかも押しつぶすように前進してくる。


 作戦では、包囲撃滅戦だとか。

 俺の伊達勢は北を固める。


 本陣からの伝令の言上を聞いた時は、まさかそんなことできないだろうと思った。

 今でもそう思う。


 だがあの馬防柵に突撃するよりもはるかに勝算がある。


 本陣には何やら仕掛けがしてあるという。

 俺たちにも知らせぬ仕掛けとはいったいなんだ?

 それが不発だったら、一気に戦線が崩壊するぞ?


 柴田勢が前進を止めた。

 射撃戦で雑賀勢に押されたらしい。

 柴田勢が下がり、羽柴勢約二万が前進を開始した。


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