第2話:それぞれの思惑。そりゃ意思統一できないよね


 <謙信視点です>



「右翼、長柄の陣を立て直せ。弓兵、敵の足を止めよ。甘粕に死守せよと伝えよ」


 雷神か。

 立花道雪、なかなかやりおる。

 打撃力が高い。

 輿に乗っているが機動力もある。


 鉄砲もうまく使いおる。


 だがこちらも鉄砲では負けはせぬ。

 あの細川殿の配下、仁宗殿の差配により少なくはあるが、狙撃兵を育てる事が出来た。


「狙撃のものに伝えよ。まだ一式弾は使うな。出来るだけひきつけてから敵の物見以上の武者を狙え」


 母衣衆が馬に飛び乗るようにして駆け出す。


 鉄砲は多くのものを倒す必要はない。

 要は敵をひるませれば十分。


 そうであったら敵の指揮をする武士を倒せばよい。

 自分よりも圧倒的に強い上のものが、あっという間に倒されるのを見て動揺しない足軽などおらぬ。


 ましてや雑兵がほとんどの織田勢は鎧袖一触だと思うた。


 が、今回は西国武将が多数の兵を送ってよこした。


 中国からは、東の桃配り山南方高台に陣取る毛利元就と小早川隆景の兵二万。


 敵中軍に陣取り武田勢二万と真っ向勝負に出る吉川元春が一万。

 その南を固めるのは宇喜多直家の一万。


 わが上杉勢一万の正面には長宗我部元親の一万。

 その北には立花道雪の一万。


 これらが第一線でたたき合いをする。


 だがそれだけではない。

 その西の高台には馬防柵を廻らせて守備する織田勢。


 南から松尾山の明智光秀二万。

 その北には羽柴秀吉の三万。


 少し間を開けて高台に柴田勝家の二万。

 その北には織田家の家督を譲られた織田信忠三万。


 その北くぼ地には、島津義弘の五千。

 そして最北端に、第六天魔王信長の三万が陣をはっている。


 計二〇万。

 こちらの、一一万の約二倍。



 地図です♪

https://kakuyomu.jp/users/pon_zu/news/16817330652451865552



「敵は二倍か。だが問題はそこではない。敵の配置。総計一万にのぼる鉄砲を配備し、高台に馬防柵で守られている」


「御意」


(直江)兼続が相槌をうつ。

 この者だけは、陣内でもワシに話しかけて良いとの雰囲気がある。

 その才、伸ばすべし。


「どう見る?」

「はっ。亀の頭にござる」


 そうじゃな。

 それしかない。


 引っ張り出す。


「負けるのは難しいの」

「誠に」


 越後勢が後退するのは、計画的に退陣する時だけ。

 まさか壊乱するとは思わぬであろう。

 普通なれば怪しむであろう。


 だから機を伺う。

 信玄坊主と息を合わせるしかあるまい。

 気が進まぬが、繋ぎを取るか。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 <信玄視点です>


「御屋形様。南の宇喜多勢は動きが見えませぬ。正面の吉川勢。中々しぶとく」


(馬場)信春が脇でワシにわざとらしく言うてくる。

 きっとそばに控える四郎(勝頼)にそれとなく教えているのであろう。ワシの後をうまく引き継いでもらいたいものじゃ。


「うむ。怒号がここまで聞こえてくるわ。源四郎(山県昌景)が良くいなしておる」


 老練さでは源四郎の方が上よ。

 合戦が長引けば、その差は歴然としてこよう。

 敵にスキが生まれれば、そこを突く。


「早くも動きますぞ」


 信春が言う。

 元春の軍勢が崩れた。鶴翼の一部が突出しすぎた所を源四郎が包囲して撃破した。


 さて。

 これからどう動くかじゃな。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 <吉川元春視点です>


「ええいっ! (口羽)春良、前に出過ぎたか。あ奴は所詮内政の得手。戦には向かなんだか」


 思わず愚痴を言うてしまったわ!


 もちろん春良が弱いわけではない。

 相手が強すぎるのじゃ。


 さすが甲斐の虎、甲州流軍学の申し子とも言われる山県昌景。

 引くと見せかけて春良を釣りだしおった。


「立て直せぃ!! 腰に力を入れよ。押し返せぃ!」


 まだまだ戦は序盤よ。

 じゃがここで力を出し惜しみするわけにはいかぬ。

 ここで押されて後ろの信忠殿の陣に逃げ込むのはこの上なき恥辱!


「右翼を下げる。鶴翼の陣から雁行の陣へ。敵の衝撃を右へ流せ!」


 右には宇喜多の軍勢がまだ無傷でいる。

 これに対応してもらう。


「弓兵、鉄砲隊。時間を稼げ。粛々と陣替えをする」


 そううまくはいかないであろうが、このままでは打ち破られる。

 敵はまだ半数しか戦っていない。

 こちらの二倍の軍勢だ。


 半分は因業爺の宇喜多に戦ってもらっても文句は言われまい。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 <宇喜多直家視点です>


 糞。毛利の子倅(吉川元春)め。

 こっちへ武田の矛先を誘導したか。


 少しは楽できるかと思ったが、真正面から武田の精兵を戦うとなると損害がひどかろう。


 仕方ない、戦ってやるか。

 最近、身体の調子がすこぶる良い。


 あの医者、聞くところによると、この戦に参加している武将の所に足げく通っていたという。


 なにが目的はは分からぬが、ワシにとっては好都合。

 秀家が元服するまでは死ねぬわい。


「鉄砲隊、前へ! 三射したら弓兵と交代。その後長柄のものが押し出せぃ! 毛利の連中に舐められるな!」


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